愛とみのり

YK

第1話 愛が見せたはじめての涙

暑いというより、もはや熱いという表現が似合うような夏。


高校女子バレー西三河地区大会の会場も、室内とはいえ、まるでサウナのような空間だった。


私、佐藤みのりは、現在、絶賛県大会出場を賭けた試合中の鶴崎高校女子バレー部のマネージャーである。高校1年の頃、幼馴染の元原に誘われ、マネージャーの任を仰せつかることになった。ちなみに幼馴染の下の名前は愛と書いて、めぐみと呼ぶ。


愛は知り合った小学校のときからバスケ一筋で、多分そこそこ上手い部類に入ると思う。


この3年生の最後の大会にも、一部の3年生の代わりに出場しているくらいには。


ただ、2年の愛が出ていることに対して誰も僻んだりはしていない。出れなかった先輩たちは元々あまり練習に参加していないため、レギュラーの先輩方も愛に出場してもらう方がありがたいと言っていた。


一方で、私はというと、運動の方はあまり得意ではない。というより、そこまで好きではない。運動部に入って汗を流す時間があるならら、勉強したり、他のインドアの趣味を楽しむ時間に費やした方がマシだ。


そう思っていたのだが、高校入ってすぐ、愛にバスケ部のマネージャーを懇願された。


趣味の時間が減らされるのは嫌だったが、運動する訳でもないし、今後のためにもクラス以外のコミュニティにも属しておいた方が良いかなと思い、しぶしぶ了承した。


あれから1年と少し、私は無難にマネージャー業をこなし、愛もバスケの技術をメキメキ向上させていった。どうやら鶴崎高校は、夏の大会は毎年地区大会止まりらしいが、今年はあと1勝で、県大会への切符が獲得できる。入部当初は、そこまで熱がなかったが、だんだんとこのチームに愛着が湧き、この素敵なメンバーで少しでも長くバレーができるよう、祈りながらコートを見つめ応援する。


セットカウントは1対1で最終セットまでもつれ込み、15点取った方が県大会行きが決定する。


最初のセットは鶴崎高校が取ったもの、途中で、相手チームが盛り返し1セットを取られた。そして、流れがなかなかコチラに来ずに、今、最終セットは10対14。


7対14からでマッチポイントを取られていたが、そこから3点取り返し、あとは同点まで追いつくしかない。


そして、この状況でサーブを打つのが元原愛。普段スポーツしない私でも、ここでのサーブのプレッシャーは計り知れないと息を飲む。


「メグ、ファイト!」


心の中の声が思わず出ていた。


相手のマッチポイントからの愛の3回目のサーブ。2回目までと同じく入れることを優先して、安全にやや緩めに相手コートへ入れる。相手チームは確実にレシーブし、スパイクへとつなげた。スパイクは、自チームのブロックをくぐり抜け、愛に向かっていく。見逃せばアウトになったかもしれないようなボールだったが、この土壇場の状況では賭けに出ず、安全に取りに行くのが吉だろう。


強力なスパイクをオーバーハンドパスで取ったため、レシーブボールが乱れる。セッターも間に合わないため、別の人がカバーし、なんとか相手コートに返した。相手にとっては、この上ないチャンスボールである。


こちらのチームの陣営が乱れている隙を狙い、相手はスピード優先でAクイックをしかけた。打ったボールは、無情にも誰もいないスペースの床に当たって、弾けた。


相手チームの歓喜の声が聞こえ、点数ボードは14から15へとめくられる。


主審の試合終了のホイッスルがなった。鶴崎高校女子バレー部、地区大会の敗退が決まった瞬間である。


例年にはない善戦をしたものの、やはり県大会出場を目標にしていたため、チームは悲しみに暮れていた。涙を流す先輩も多かった。


こんな時、私は愛が泣くのを見たことがない。愛は兄と弟がいるせいか、男勝りな性格があり、「涙を流して言いのはおなごだけよ。」と意味わからないことを言っていた。泣く暇あったら、練習と言うようなタイプだった。


顧問の先生が、3年生に向けて最後の言葉を伝えていたとき、私はちらっと愛の方を見た。そしたら、まさか愛が涙を流して泣いていた。3年生の先輩にごめんなさいと言いながら、止まらない涙を拭っていた。


泣いている愛を見ていたら、今まで抱いたことない感情が出てきた。涙を流して、悔しがっている愛を見て、不謹慎だが愛おしいと思ってしまった。私はしばらく愛から目を離せずにしており、気づいたら私も目に涙が浮かんだ。高校2年夏の出来事だった。

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