第13話 初めての朝
葉月は腹に抱き着く温かい体温と、ちょっと酸っぱくて甘い懐かしい匂いで意識を浮上させた。
思わず抱きしめ、スンスンとほわほわの髪の毛の中に鼻を突っ込み匂いを嗅ぐ。あぁ、
葉月は妊娠も出産も、昨日分かったが初体験さえもまともにしたことがない。だが妹の弥生が18歳の時に産んだ晴と晃は大学や勤めに行く弥生の代わりに葉月がほとんど育てた。
久し振りの子育てだが何とかなるだろう。男女の双子だってところも同じだ。
なんてったって今、葉月の母性が赤ちゃんの匂いを嗅いで再び爆発しているのだ。Aカップのささやかな胸であっても乳腺がこう、きゅうううっとなっているのを感じる。今も無意識に母性が暴走し、手の中でジタバタするやわらかい双子を抱きしめて頭にキスのシャワーを浴びせている。
「「ん-! イやぁ!! 」」
小さな手を思い切り突っ張って拒絶されたが、この幸せを離してなるものかと胸の中に掻き抱き、葉月はやっと目を覚ました。
目の前に可愛いのがいた。2人もいた。可愛すぎて語彙力が崩壊している。
コツメカワウソの獣人だというキックとノーイ。生まれた時から切ったことが無いだろう柔らかいダークブラウンの髪のインナーは明るいミルクティーベージュで、ようやく耳下まで伸びて、可愛い顔の周りを更に輝かせている。葉月に動きを封じられ、ビロードを
「「むぅー!! 」」
「はぁ。可愛い!! 」
葉月は小さく声を出しながら
辺りはもう明るくなっているが、生活音はまだしていない。まだ早朝の様だ。
蚊帳の中を見渡すと、双子以外はまだ寝ている。きっとシリ達を起こしに来たが起きてもらえず、仕方なく葉月に代打がまわってきたようだ。
双子は盛んに外に行きたいと訴えている。
葉月は8時間は寝ただろう。疲れていて、もう少し寝ていたいが目の前のカワイイ生き物たちには
昨日はバタバタして「タオの店」を見てはいなかった。
裏庭に続く階段を下りた。裏庭には和式の簡易水洗トイレ(男女別)、浴室、井戸、洗濯場や洗濯物干し場、2畳程の小さな家庭菜園があった。間口が狭い表からは想像できない。住居兼店舗を合わせるとバスケットコート一面はあるだろう。
裏庭は閉鎖された空間で、ここでならキックとノーイを遊ばせても大丈夫そうだ。周りの環境がわかったらお散歩にも行こう。
双子はどちらも人間より発達が良さそうで、小走りに走ったりとかもできている。これは運動量が半端ない。おんぶ紐やハーネスの利用も考えないと。
双子と家庭菜園に
「おはよう、シリ 」
「おはよう! ハヅキは昨日良く眠れた? おチビちゃん達おはよう」
「「おはよー! シリー! 」」
シリは駆け寄って体当たりしてくる双子を1人ずつ抱き上げ、頬にキスをしている。
キックとノーイはくすぐったそうに、くふくふと笑っている。あぁ。平和だ。
次々に起きてきたタオ、カイン、ドウが朝の挨拶をしながら、井戸で水を汲み顔を洗っている。
「おはようございます。タオ様」
昨日、ざっくりとした仕事の指示はもらったが、具体的には何をしていいか分からない。まずは朝食でも作るのだろうか。
「あぁ。おはよう。昨日は良く眠れたかの? 朝は双子が起こしたのじゃろう? ゆっくりできんですまんかったのぅ」
「いいえ。大丈夫ですよ。とっても可愛かったですし!! 」
「双子もハヅキには、なぜか人見知りせんのじゃな。助かるのぅ。ワシが最初抱っこしたら、泣き叫んで反っくり返って落としそうになったものじゃよ……」
タオは若干遠い目をしている。これは大分嫌がられたのだろう。今、多少なりにもお世話できる様になっているのはタオが諦めずに双子のお世話を続けていたからだろう。嫌ならシリ達に全部お世話させる事が出来る立場なのに、つくづく奴隷商人らしくない。
「今日は昨日言っていた様に役場に手続きに行く予定じゃ。家の中の細々した事は、通いのムーばぁちゃんが来てくれるので、ムーばぁちゃんに聞いてくれ」
タオによるとムーは料理上手な豚獣人の幼馴染。ちなみに37歳。子沢山で最近は孫ラッシュで家が赤ちゃんだらけで大変らしい。また、以前はトイレや入浴など自分の事ができていたペーンとハーンが段々と弱り、介護が本格的になってきて自分ではもう対応できないと断わられていたそうだ。
「おはようさん! おや? 新しい奴隷だね? 人間なのに体もしっかりしていて、強そうじゃないか! これでアタイも御役御免かね? 」
ちょっとダミ声の大きな話し声が聞こえた。きっとムーだ。葉月は振り返り元気よく挨拶する。
「おはようございます! ムー様ですね。よろしくお願いします! 」
「ブフォッ!! ムー様って!! タオじいさん、この奴隷に何仕込んでんのさ! あん? じいさん、無理矢理手籠めにして言う事きかせてんじゃ無いだろうね? いくら奴隷でもそりゃあ言語道断だよ!! 」
「
タオが得意気にムーに宣言をする。とたんに大きな子ども達は顔を見合わせあちゃーって顔になっている。
ムーは好奇心いっぱいの丸い目をクリクリさせて興奮して叫んだ。
「何だって?! こうしちゃいられないよ! 良い年して結婚もしないし、奴隷に子どもを産ませるでもないから皆でタオじいさんは不能だって言ってたんだよ! いやぁ。めでたいね! ちょっと商店街の皆に知らせてくるよ!! 」
朝食用の玉子がゆが入った大きな鍋をシリに預け、朝の道を宣伝カーの如く大音量で話しながらムーは駆け抜けて行った。通りの向こうなのに声がよく聞こえてくる。
「大変だよ!! タオじいさんが嫁取りするってさー! 嫁はガタイの良い人間の奴隷だよ! ムグッ」
タオとカインが追いかけていったので、最後に聞こえたくぐもった声は物理で止めに入ったのだろう。
シリが同情の目を葉月に向ける。
「ムーばぁちゃんは良い人なんだけど、
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