第4話 青き裏側
青い門をくぐり抜けたドナウとスワンは、まるで天国そのものと思わせる美しい世界に足を踏み入れた。広がる青い草原、澄み渡る青い空、遥か遠くにそびえる青い山々—そのすべてが、彼らの心に希望を与えた。二人は手を取り合い、未知なる冒険を前に胸を躍らせていた。
「スワン、僕たちの旅は成功するに違いない!この青い世界にたどり着いたんだもの、きっと天国への道も見つけられるさ!」
ドナウの声には自信が満ちていた。スワンもその言葉に微笑みを返し、共に草原を進んでいった。二人の足元には青い花々が咲き乱れ、その香りは彼らの心をさらに軽くした。
「見て、ドナウ。あの花、まるでさっきの花びらと同じ色だね」
スワンが指差した先には、青い花畑が広がっていた。花々は風に揺れ、優しい音を奏でているかのようだった。その中で一際大きく美しい花が、輝きを放ちながら咲き誇っていた。
「この花も希望の象徴なのかもしれない。僕たちにさらなる力を与えてくれるのかも」
ドナウは花を摘もうと手を伸ばしたが、その瞬間、花は青い光と共にしぼんでしまった。驚いた二人は顔を見合わせ、何が起きたのか理解できずに立ち尽くした。
「どうして……?」
スワンが問いかけると、突然空が暗くなり始めた。青い空は一転して灰色の雲に覆われ、青い山々は影に沈んでいった。温かかった風は冷たく、強く吹きつけ、二人の体を震わせた。
「ドナウ、何かが……何かが違う!」
スワンの声は恐怖に満ちていた。彼らの周囲にあった青い花々は次々としおれ、地面に崩れ落ちていく。青い世界は次第にその輝きを失い、薄暗い、陰鬱な雰囲気が漂い始めた。
「何が起こっているんだ……」
ドナウは混乱し、スワンと共に青い花畑から逃げ出そうとした。しかし、どの方向に進んでも暗闇が彼らを取り囲み、逃げ場を失ってしまった。
「スワン、僕たちは一体どうすればいいんだ……」
ドナウは絶望的な表情でスワンに問いかけたが、スワンもまた答えを見つけられずにいた。二人の足元に広がるのは、しおれた花々と冷たい闇だけだった。
その時、再び頭の中に声が響いた。
「希望は儚いものだ。それを守るためには、強さが必要だ。さもなくば、絶望が訪れる」
その声は以前の優しい響きではなく、どこか冷たく、厳しいものだった。ドナウはその言葉に背筋が凍る思いを抱いた。
「強さが……必要だって?」
ドナウはその言葉の意味を理解しようとしたが、闇はさらに深まり、彼の思考を奪っていく。スワンもまた同じように混乱し、何をするべきか見失っていた。
「スワン、僕たちはどうすればいいんだ……」
ドナウはスワンに助けを求めたが、その時スワンの表情が変わった。彼の目は冷たく光り、ドナウから一歩後ずさった。
「ドナウ、僕たちにはもう希望なんてないのかもしれない」
スワンの声はかつての優しさを失い、冷たさが滲んでいた。彼はドナウに背を向け、闇の中へと歩き始めた。
「待って、スワン!何を言ってるんだ!」
ドナウは慌ててスワンの後を追おうとしたが、彼の足元が崩れ落ちた。地面が割れ、彼は深い穴の中へと落ちていった。
「スワン……!」
ドナウの叫び声が虚しく響いたが、スワンは振り返らなかった。ドナウは闇の中で落ち続け、その体は青い光を失い、冷たい絶望に包まれていった。
落ち続けるドナウの意識が薄れ始めた時、再びあの声が耳元で囁いた。
「絶望の先にこそ、真の希望がある。しかし、それを見つけるためには全てを失わなければならない」
その言葉と共に、ドナウの体は完全に暗闇の中へと飲み込まれた。目の前には何も見えず、聞こえるのは自分の心臓の鼓動だけだった。
「僕は……全てを失ったのか……?」
ドナウは虚ろな声で自問しながら、絶望に身を委ねた。スワンは何処へ行ったのか、なぜ彼は冷たくなってしまったのか、全てが分からなくなっていた。
ドナウは闇の中で立ち尽くし、何をすべきかもわからないまま時を過ごした。時間の感覚も失い、ただただ暗闇に包まれ続けた。彼の心には希望の光は微塵も残っておらず、青い花びらの輝きも遠い記憶となっていた。
「これが……地獄なのか……?」
ドナウは震える声で呟いた。その時、突然闇が割れ、彼の目の前に小さな光が現れた。それは、青い花びらのように微かな光だった。
「この光は……?」
ドナウはその光に向かって手を伸ばした。しかし、その光は冷たく、かつての温かさを失っていた。彼は躊躇いながらも、その光を握りしめた。
「僕は……希望を取り戻せるのか?」
その問いに答える者は誰もいなかった。ドナウは光を握りしめたまま、再び歩みを進めた。彼の心には、微かな希望が残っているのかもしれない。しかし、それは今までとは違う、冷たく鋭いものだった。
歩き続けるドナウの前に、再び広がる青い世界が現れることはなかった。彼の前にはただ、終わりの見えない闇が続いていた。
その闇の中で、彼は何を見つけるのだろうか。絶望の中に僅かに残る希望は、彼をどこへ導くのだろうか。
ドナウはその答えを探しながら、暗闇の中を彷徨い続けた。
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