妖華し

ゆ〜

やらかしてもうた…

――「ええかい?もし、灯籠に色のちゃう火ぃ灯っとってもじいっと見つめたらあかんよ?」

「なんでなん?」

「その火ぃはな、お狐様のもんやねん。せやから、しょうちゃん連れてかれてまうからな」

「どこに連れてかれるん?」

「妖かし様の住むところや」

「あやかし?」

「妖怪みたいなもんや」

「悪いやつらなん?」

「そんなこと――」

「翔ちゃーん!もう寝る時間やでー!おばあちゃんも変なこと言わん!怖がってまうやろー」

「大丈夫やもん!!怖いなんて思わんし!」―――





昔の頃の思い出がふっと頭をよぎる。


「でもなぁ、今ちゃうねん…

あと1分前によぎっとって欲しかったぁ…」


そう、俺は全く持って覚えていなかった。


華やかな夏祭りの雰囲気にテンションが上がり、

普段とは違う珍しい色のフワフワと揺れる火に魅せられとった。

某アプリのストーリーに載せるからぁ、言うて写真を撮るために友達と別れただけやったのに、このザマや。


周りは先程と変わらない祭り囃子が鳴り響き、

出店から聴こえる威勢の良い声も話し声も変わらない。


かんっぺきに気づかへんかった…


「…い、おい、あんた大丈夫か?」


あー、どうしよ。

周りにいるのは人外。しかも二足歩行で、みんなイケメンか可愛い。

猫又ねこまた烏天狗からすてんぐ狛犬こまいぬにって、あぁぁぁどないしよ。

なんなんこの世界。

今なんならイケメンな狐に話しかけられとるし…


「話しかけられとる!?」

「お、おう。話しかけてる。あんた大丈夫か?

……ってひとぉ!?!?」

「え、あんたは狐やんな!?」

「そうだが!?ヒト!?!?」


待て待て待て。

そない驚かれたら頭もっと混乱してくるわ。


「え、俺、ちゃんと人やんな!?」

「あんた、ヒトじゃないのか?」

「いや、たぶん人やねん!!!!!」

「僕は九尾だ!!よろしく(?)」

「俺は人だ!よろしゅう!!!!」


ん?

今、自己紹介終わったん?

え、そもそも自己紹介だったんか?


「「……えっ?」」

「「えーと、」」

「「あっ、」」

「「先」」「ええで」「いいよ」

「おおきに」「ありがとう」

「「…」」

「…俺から先に言うな?」

「はい、どうぞ…」




***********


【次回 「食べものの怨みは誰でも強い…」】


「なんなんこのイケメンな九尾は…」

「いや、あんたこそヒトだろ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る