第9話 魔力汚染


 このところ満足に休めていないという事で、メンバーと話しあって二日ほど休暇を取ろうという事になった。


 俺に趣味といえる物は特に無いし、どうやって時間を潰すかと思っていたところ普段使っている剣が目に留まった。普段から研いではいるが、こうして見ると刃こぼれも多い。


 この剣も使い始めてからかなり経つ。専門家に見てもらったほうが良いかもしれない。そう思い立った俺は、まだ日が昇って間もない街へと繰り出した。




 このあたりは冒険者もよく通るからか、周りからの目線はそれほど厳しくはない。もっと街中でもこれぐらいだとありがたいが難しいだろう。所詮ならず者だ。


 俺たちが今拠点にしているこの街も他の街と同じように対魔獣用の外壁に囲まれ、その中の限られた土地に建物が詰め込まれた形になっている。


 冒険者が出入りするのはその最も外側、市民の中でもあまり裕福ではない層が暮らす所謂貧民街くらいだ。貧民街と言っても冒険者の為の店が多く立ち並び、言葉のわりに活気がある。今向かっている店があるのもそんな場所だ。


 家畜小屋から朝鳴き鳥の声が聞こえる。今日の昼食は朝鳴き鳥の焼き物にしよう。


 そんな事を考えながら歩いていると目的の店に到着した。グレンから聞いた話では冒険者向けの武器を売っている店の中では質が良いことで有名な店らしい。


「らっしゃい。見たところ冒険者だな?なんの用だ」

「はい。剣を見て頂きたくて伺いました」


 店に入るや店主から声をかけられたので、剣を見せる。自分で見る限りではまだ使えそうだったが、専門家が見ればどうか分からない。いざという時に壊れてしまえば命に係わる。ダメだった場合も考えて資金は多めに用意してきた。


「これくらいなら研ぎに出せば問題ない。そうだな。三日後に取りに来てくれ」

「明日受け取ることはできないでしょうか。勿論追加で料金は払います」

「結構かかるぞ?こっちも手に限りがあるからな」


 金額を聞く限り問題なかったので追加で支払い、剣を渡す。ついでに探している道具の事も聞いてみるか。ないなら無いで、何かヒントが貰えるかもしれない。



「人を無傷で捕らえる道具?そういうのは魔道具の類なんじゃないのか?」

「既に使っている魔道具がいくつかあるので、あまり多くは持ちたくないのですが」


なんとか別の方法が無いか聞きたかったが、店主は不思議そうな顔をして言った。


「どういうことだ?冒険者ならどれだけ魔道具を持ってるかってのは結構なステータスになるんじゃないのか?」

「そうなんですか?」


 そうなのだろうか。あまり魔道具なんて持ちたい物じゃないと思うが。


 魔道具は魔力を帯びた魔法の道具だ。魔力を供給する機構には魔石を加工したものが使われているが、これが常に魔力を放出している。それが外にも漏れているのだ。



 人間も含めて生物は魔力から様々な影響を受ける。植物が魔力を浴びれば成長が促進され、中には突然変異的な進化をするものもある。冒険者ギルドから度々依頼として出される薬草採取の対象となる薬草はその類だ。


 動物にも同じような事が起きる。薬草が育つような場所は魔力が豊富な為、その場に生息する動物は虫も獣もその魔力を浴びて巨大化する。


 魔獣だって元はイノシシなどの獣が魔力を浴び続けて突然変異した物だ。研究によれば魔力を浴び続けた獣がそれに順応して、より効率的に魔力を運用する為の器官として魔石を生み出すということらしい。


 研究の中には魔獣から取り出した魔石を家畜に埋め込む、というのもあった。たしかアレも朝鳴き鳥だった筈。巨大な卵を産ませて食料事情に革命を起こす。そんな期待を込めて実験したが、巨大化した朝鳴き鳥は卵を産まず人を襲うただの魔獣になっただけに終わったそうだ。


 そういう性質から、植物はともかく動物が魔力を浴び過ぎると魔獣化する可能性がある。薬草を栽培したくても出来ない理由がそれだ。薬草が育つような場所で毎日作業していれば、おそらく人間にも魔獣化する者が出てくる。



 冒険者が魔獣討伐の証明としてギルドに収める魔石も魔力を放出し続けている為、ギルドでは受け取り後すぐに専用の保管箱に入れて魔力を遮断している。そうしないとギルド職員も冒険者も魔獣化しかねない。


 魔石に触れる時間が長いほどその危険性は高まる。長く冒険者を続けている者ほど戦闘能力が高いのはそれだけ魔石に触れる機会が多いからだ。魔石からの魔力を浴び続けることで、少しずつ魔獣に近くなっていく。




 魔道具を多く持つほど、そこから浴びる魔力の量が増える。店主が言ったような魔道具で装備を固めるなんていうのは、ギルドでも取り扱いを注意する危険物を全身に巻き付けているのと同じことだ。

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