お前を追放する。『能力が低い』とか『足手まとい』とか関係ない…!

めいちぇる・エムロード

第1話 今をもってお前をパーティーから追放する

「リック、お前を追放する」


 一日の終わり、冒険者ギルドに併設された酒場でいつものように打ち上げ……というよりも反省会か?……の中で俺は前々からメンバーに相談していたことを実行することにした。


「な、なに言ってんだよ……じょ、冗談だろっ!?」

「冗談じゃない。パーティーメンバー……お前以外のメンバーと相談した結果だ」


 たった今、パーティーからの追放を言い渡した元メンバー『リック』はまるで思いもしなかったというように驚いた顔をしてうろたえる。


「な、なんだよ……俺が何かしたっていうのかよ!?」


 リックは信じられないというように他のメンバーを見回しているが、逆に全員から信じられないものを見るような目で自分が見られていることが分かっているのだろうか。


「……そうだな。お前が『してきた事』そして未だに『していない事』が理由だ」

「何言ってんだよ!確かに俺の能力はお前たちに追いついていないかもしれ」

「力不足だとか足手まといだとか、そんな話を今までにしたことがあったか?」


 だ。無駄だとは思っているが何度でも言わなければならない。


「もう一度、最初から言おう。

 今日こなしてきたクエストの最中、まぁ道中も含めてだな。お前は何をしていたんだ?」


「何ってそれは……」


「……ゆっくりで良い。何をしていたか答えてくれ」

「ま、周りを警戒していた!道中の地図だって俺が見ていたんだ!道具の整理だってやっていた!足手まといだっていうのは分かっている!だからっ」


 周囲の警戒は全員がやっているし、地図を見るも何も目的地までは一本道だ。道具だって各自で整理している。


「周囲の警戒、道程の確認、道具の整理……他には?」

「……くっ!」

「よく思い出してほしい。他に何をしていたのか」


 左を見るとパーティーメンバーの一人、『グレン』が拳を握りしめているのが見えた。気持ちは痛いほどわかる。というか俺と同じ気持ちのヤツがいるだけで少し俺の気もちょっとだけ楽になる。もちろん他のメンバーも同じ気持ちだろう。


「……確かに俺は力不足かもしれない!しかし戦闘中に上手くいっているのは……!」

「……上手くいっているのは?」

「……ッ!!」


 やっぱり言わないのか?もう少し粘ってみるか?いやグレン以外のメンバーもいよいよ顔が険しくなってきている。これ以上は諦めよう。もうこれはダメだ。


「言わないなら俺が代わりに言おう。

リック……お前は俺たちにに強化魔法をかけているよな?」

「……なっ!?」


 なにが「……なっ!?」だよ。まぁ分からなくはない……いや分からんな。ちょっと一息つくついでに振り返ってみる。







最初に異変に気が付いたのは俺だった。


別の冒険者パーティーのヘルプとして俺だけ別行動をした時のことだった。

妙に体が重いし武器の切れ味も悪いしで「どうなってるんだ?」と思いながらもなんとか魔獣と戦っていたが、そのパーティーの支援魔術師からの強化魔法を受けてその魔獣はどうにか無事に倒せた。


(今のは……いつもの戦い始めた時の感覚?)


強化魔法を受けた後の体の感覚がまさしくいつものメンバーで行動している時の平常時の感覚と同じだった。その後も何度か魔獣と戦いながら無事にそのクエストをこなし、報告をするためにギルドまで戻る道中にそのパーティーメンバーに話を聞いた。

その結果、色々と納得のいく推測がたった。俺はいつものメンバーでクエストに行き、確認することにした。誰が何をしているのか、その確認だ。


道中で適当な拳くらいの大きさの石を何個か拾い、力の限り握りしめてみる。


(まぁそうだよな)


石はビクともしなかった。

そしてクエスト対象になっている魔獣を討伐した後、すぐに例の石を握りしめた。


(体の感覚はアレかそれ以上に良い。やっぱり……)


握りしめた石は何の抵抗も無くすり潰せた。

確信した。誰が強化魔法をかけているのかも含めて。


その日の夜、ギルドの酒場での反省会後にリックが自室へ戻ったのを確認してからグレンに声をかけた。


「……リックが強化魔法をかけてる?いやいや、さすがに俺だってそんなことがあれば気づくぜ?」

「俺も最近まで気づいていなかった。かなり巧妙なんだ。次回のクエストで試してみてほしいことがある」


そう言ってグレンに俺がやったような石を握りしめる方法を伝え、残り2人のメンバー、イザベラとタニアにも相談する為に部屋に向かう





「夜にすまない。少し良いだろうか?」

「どうしたんです?」

「なに?忘れ物?」


イザベラとタニアに強化魔法のことを伝え、証明するために部屋に入れてもらう。


「秘密裏に強化魔法を……ですか?」

「は?私たちが三流だっていうつもり?」


ちょっと圧の強いタニアに押されながらも説明する。


「いや言葉だけだと信じてもらえないとは思ってるから用意してきた」


そう言って俺はナイフとポーションを取り出した。

あからさまに警戒する2人を前に続ける


「今から俺の腕をナイフで切る。その傷をいつものように治してほしい」


俺は思いっきり自分の腕にナイフを突き立てた。


「ぐううっ!!!」

「ッ!……ヒール!」

「正気…!?」


「な、なんで…!?傷がふさがらない!?」

「ど、どうしたのよ…!なんか特別なナイフなの!?」


俺は痛みをこらえながらポーションを取り出して傷口に振りかける。


「……いや、いつも使ってるナイフだ」

「ならなんで治らないのよ!?」

「……これが……強化されていないヒールなんですか?」


ポーションで傷口がふさがるのを見ながら、俺の知っている……いや誰でも知っているヒールの効果を説明する。


「ヒールで治せるのはすり傷程度だ。何針も縫わないといけないような傷はもっと高位の回復魔法でなければ治らない」

「そんなはず……」

「そんなはずはない……と思うか?思い出してほしい。回復魔法を覚えた時のことを」


イザベラは考え込んだ後、しばらくして思い当たったようだ


「……そうです。なんで忘れていたんでしょう」

「ヒールの効果は冒険者なら誰でも知っているはずなんだ」

「な、なに言ってんのよ……」

「いつもどんなケガもヒールで治してきたからそれが当たり前の認識になってしまったんじゃないかと思う」


2人に納得してもらい、俺は部屋を後にした。






(自分で言っておきながらだけど……ヒールの本来の効果と今までの認識の差、本当にそんな理由で思い違いをしていたのか?)


誰でも知ってるはずの魔法の効果を間違って認識していたことがどうにも引っかかった俺は一人でギルドの資料室で調べてみることにした。


誰でも知っている、当たり前のことを。








「知らないうちに強化魔法をかけられているって話、信じるぜ」


クエストの完了報告を済ませ、ギルドの酒場での反省会の後、リックが部屋に戻ったのを確認してからリック以外の全メンバーで話し合うことにした。グレンは例の方法を試してみたようだ。


「石の事もそうだがいざ意識してみると確かに武器をかまえた瞬間に力が湧いてきた。俺は今まで自分で気合を入れてるからだと思ってたんだがな……」


グレンは自分の戦士としての力に自身があったのだろう。かなりのショックを受けていた。


「私もね……戦ってる間は自由自在に空だって駆け回れる感覚があったけど、今こうしてる時はとても出来そうにないって思う」


タニアもいつもの圧を感じない。それどころか心配になるレベルで弱々しい。

イザベラは昨日のヒールではっきりと確信しているのだろう。ずっと表情が硬い。


「みんなに聞いてほしいことがある」


弱っているところに畳みかけるようで気が引けるが言うしかない。

事態は思っていた以上に深刻だ。俺もショックから未だ立ち直れていない。


「ヒールの効果の認識以外でも、俺たちの常識……特に冒険者として必須レベルの知識に関する記憶が無くなっている可能性がある」


全員「何を言っているんだ?」というような反応だったがイザベラは思い当たったのか反応が早かった。


「やはり他にもあったんですね……?」

「ヒールの効果ってのはなんだよ?」

「……」


そう言えばグレンには説明していなかったと思いナイフで腕を切り裂いたことを説明し、さらに資料室で調べて分かったことを共有する。


「例えばだけど……魔獣の解体、特に魔石の取り出し方や魔石がどこにあるかといったことを……知っているか?」

「そんなの誰だって知ってるだろうがよ。魔石は……魔石は……」

「……私も分かりません」

「嘘……でしょ?思い出せない」


「さらに初歩、もはや言葉にすることもおかしいんだけど……調理に使うナイフは使ってるうちに切れ味が落ちるよな?そうなったら当然、研いでメンテナンスなりするわけだけど」

「そりゃそうだろ」


「……今日も使った剣。これまでに研いだことあるか?」

「剣なんて研いだりしなくても……いや。大丈夫なわけがない。何を言ってんだ俺は?」

「私も武器の手入れをした覚えがない……何なのコレ!?」


やっぱりショックだよな。俺も気づいたときは狂うかと思った。いやもう狂ってたのか?


「これは俺の仮説なんだけど……」


通常、魔法の行使には代償が必要だ。魔術師の使う炎や氷の魔法には高価な触媒が必要だし回復師の回復魔法は毎日の神への祈りによって回数制限ありで使えるようになる。当然、支援魔術師の使う強化魔法にも触媒が必要で、さらには効果が切れた後に掛けられた側の身体や精神に反動が来る。死霊魔法に至っては代償が魂だ。


「なるほどな代償か……」

「今まで強化の反動とかは感じたことないけど」

「あと強化魔法の効果なんだけどな。俺たちにかかっている強化魔法は強すぎる」

「やっぱり……」


イザベラは回復魔法を使うだけあって気づいていたようだ。強化魔法をかけただけですり傷が治せる程度の魔法でナイフが貫通するほどの怪我を即座に治せるわけがないんだ。


「効果が強ければ強いほど、代償も大きくなる。俺たちにかかってる強化魔法の代償として俺たちの身体に反動が来ていない以上、それ以外の何かが支払われていると考えるのが妥当だと思う」

「それが記憶、もしくは私たちの魂でしょうか」

「魂では無いと……思いたい。実は記憶がなくなってることに気が付いた後、もう一度勉強しなおして魔獣の身体のどこに魔石があるか、どうやって取り出すかを覚えなおしたんだ」

「覚えられたの……?」

「ああ……今日の朝までは覚えていた」


息をのむ音がやけに大きく聞こえた。


「今はさっぱり思い出せない」


俺たちは確信した。








こうしてリックに対して事実確認と追放を言い渡すに至った。


「強化魔法を使うこと自体は問題じゃないんだ」

「だ、だった良いだろ!!」

「なぜ無断で、それもバレないように使ってきた?」

「ッ!……それは……だって……ッ」


「お前は……俺たちを罠にはめて殺す気だったんだろ?」

「……え?」


こいつ何を意外そうな顔してるんだ?強化魔法をバレずに使う理由なんて相手を陥れる以外にどんな理由があるというんだ。


「俺たちが強化魔法に気づかず、本来ならとうてい敵わない強力な魔獣に挑んだ瞬間に強化魔法を解除する。当然、俺たちは全滅もしくは致命的なダメージを負う」

「な、なに言ってんだよ……!?」

「仮にどうにかしてその窮地を脱したとする。再起をかけて、今度はもっと弱い魔獣を相手にしようとしても苦戦、もしくは今度こそ全滅するだろうな」

「そんなのやってみなきゃわかんないだろ!」


妙な反論をする……俺たちが気づいていないと思っているのか?


「お前の強化魔法が俺たちの記憶や経験を代償にしているのは分かっている」

「……は?」

「魔獣の倒し方も分からず、武器もまともに扱えないのに何故か自分たちの強さを疑わない見習い未満の4人組だ。まともに魔獣と戦えるわけがない」

「な、なに訳わかんないこと言ってんだよ」


「お前の魂胆は見え見えだって言ってんだよッ!!」


グレンがテーブルを殴りつけながら怒鳴り


「あなたの事はギルドにも報告済みです」


イザベラが冷たく言い放ち


「次に街の外で会ったら殺すから」


タニアが殺害予告をし


「リック、お前は明確に俺たちのだ」


もはやこれまでだ。俺はもう一度、いやこれは最後通牒だ。

金か怨恨か分からないが、どんな理由であれコイツは俺たちの敵だ。

もう二度と道が交わることは無い



「リック、お前を追放する」

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