第26話 ついていきます
俺たちは再び登城していた。呼び出された場所は20人程度が入れる部屋で、奥には北の聖女様、つまりハルカの席が用意されていた。ハルカの両側には従者さんとヘイゼルが立っている。
俺たち――リーメは居ないが――の他にはハルとアオ、大臣、それから法的なことに関わる文官達、そして最後に元騎士団長エイリュースが中央に立っていた。今は束縛もされておらず、大臣の言葉に忠実な様子だった。
先日の会談では、主に勇者への呪いとドバル家公子への襲撃を罪に問われていたが、『陽光の泉』の面々が受けた被害の方が我々としては問題でもあった。その点の話し合い――というか示談の場であった。
俺の体と入れ替わった状態だったが、実質、エイリュースの行動として正しく認知され、被害を受けたとしてアリア、ルシャ、キリカが抗議していた。特にルシャは距離を置くよう言われていたにも関わらず、接触したのみか貞操の危機に及んでいたからだ。
◇◇◇◇◇
話し合いの結果、大臣はその代償としての賠償金の支払いと、エイリュースの王都追放、それから『陽光の泉』に手を出させないことを誓約させた。いずれにしても彼の流刑は今後間違いないそうだ。ただそれでも、命だけは助けてやって欲しいと大臣は願った。
俺は奴の使いこんだ金を大臣に請求した。すっからかんとまでは行かなかったが、結構な額を魔女の祝福や呪いに使いこまれてしまっていた。こちらももちろん支払ってくれることになった。
ハルとアオについては、大賢者様からの依頼で動いただけで、また、ハルへの呪いについては別に罪に問われるということだったので特に賠償は無いそうだ。本人たちも納得している。
そして、さすがのエイリュースも体を小さくさせていた。俺も彼のドバル家での立場に全く同情が無いというわけではない。ただ、どうあってもルシャやヘイゼルにしたことは許せなかった。
一連の処分を言い渡された後、大臣に連れられ部屋を出ていくエイリュース。
彼はふと、ハルカの隣に立つヘイゼルの方を見る。
「ヘイム…………いや、ヘイゼル。一緒に来てくれ」
エイリュースがヘイゼルに向かって手を伸ばす。
「――頼む」
真剣な奴の懇願に戸惑うヘイゼル。ハルカも心配そうに見つめている。
そして――
「も、申し訳ございません!」
ヘイゼルはハルカに深く一礼すると、エイリュースに駆け寄った。
ハルカも、そして事情を話してあるアリアたちも驚きを隠せない。従者さんも悲しげな顔をしている。ハルやアオも眉をひそめている。俺もエイリュースの罪をこの場で問うためだけに彼女の背中の醜い傷を晒すのは
はしと、俺は目の前を通り過ぎるヘイゼルの腕を掴む。
「俺の金は返さなくていい。だが代わりにこの子を貰い受ける!」
――俺はこんなことには納得できない! ヘイゼルも、エイリュースも驚いていた。
「しかし、人の売買は禁止を……」
「別にこの子を買うわけじゃない。こいつから離せばあとは自由にする。それで彼への罰にしてくれ」
文官に反論した俺へ、エイリュースは怒りを隠せないでいた。
しかし――
「ユ、ユウキ様についていきます……」
ヘイゼルは震える両手で俺の腕を掴んだ。そして――
「(助けてください……お願いします……)」
悲鳴のような小さな声で呟く。
「(任せろ――)」
俺は大臣や文官達の顔を見渡し――
「――この子もこう言っている。いいな?」
大臣も了承し、文官達も納得した。
エイリュースはヘイゼルの様子に目を見開いていたが、やがて項垂れると、とぼとぼと部屋を出て行った。
◇◇◇◇◇
俺はヘイゼルをハルカの所へ連れて行く。が、ハルカはツンとしてそっぽを向いてしまう。
「知りません! 祐樹に面倒見てもらいなさい」
「拗ねちゃったよ……」
「ふーんだ」
「聖女様!」
従者さんが慌てる。文官達もほとんど退出しかけていたので聞こえては居ないだろうが、せっかくの聖女様が台無しだ。
アリアたちもハルたちもヘイゼルを取り囲む。
「よかったね。よかったね」
アリアが泣きながらヘイゼルを抱きしめた。
「一時はどうなることかと思った」
アオがハラハラしたとヘイゼルの頭を撫でていた。
「背中の傷は時間がかかっても私が責任もって消してあげます!」
ルシャが言うんだ、間違いないだろう。
「また女の子誑かして……」
「いや、キリカ。今の見てたよね? どうしてそうなる」
「四人が五人に増えたって変わらないよ。面倒見てやれよ」
ハルが笑って言う。まあ、しばらく自立するまで面倒は見るさ。
◇◇◇◇◇
その後の話ではあるが、大臣から賠償金がルシャ達に送られた際に、なぜか断った俺にも見舞金として大金が送られてきていた。
何でも、エイリュースを追い詰めたときに俺を後ろから刺したのが大臣の手の者で、ヘナス襲撃後にエイリュースと連絡を付けたあと、護衛として置いていたらしい。そういう話をハルカから聞いたので、その詫びだろうとのことだった。
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