第25話 しよ?

 俺たちは追い出されるように大賢者様の邸宅を後にした。ハルやアオ、ハルカたちとは別行動だったため会うことは無かったが、久しぶりにアリアたちとゆっくりできるんだ。それだけで胸がいっぱいだった。


 まずはこのボロボロの服を何とかしないと。アオの魔法で斬り裂かれ、キリカには足をすっ飛ばされ、とにかく上も下もボロボロ。クロークは借りたが、先に家へ帰ることにした。ただ、キリカとルシャは市場に寄ってから帰ると言って、アリアと二人だけで下宿へ戻った。



 ◇◇◇◇◇



「先に体だけ洗ってくれば? 服は出しとくから」


 アリアの勧めで、バスルームで水を浴びる。そういえば、魔鉱がふんだんに手に入るようになったら、シャワーを浴びられるとか大賢者様が言っていたな。しかもお湯で。これからまた頑張ろう。


 貼り付いた襤褸ぼろ切れのような服を剥がしていくと、体中に渇いた血がこびり付いていた。傷は全て塞がっていたが、よくもまあこれだけこき使ってくれたものだ。おまけに香水の匂いまで付けてきてくれている。俺は平気でもアリアの機嫌を損ねるのは困るから、念入りに洗った。


 水を浴びた俺はローブを羽織って部屋へ戻る。ベッドの上には着替えがあった。ただ、着替えの上には何故か便箋が置いてあった。俺は便箋を手にする。


 『そのままここにいて』――ん? 何だろうと思った次の瞬間――


 いきなり背後から突き飛ばされ、つんのめってベッドに倒れ込んだ。

 さらに俺は跨られたまま、強引に仰向けにさせられる。

 いくらかはだけたローブを纏い、赤い髪を垂らした少女が首を傾げ――


「しよ?」


「雰囲気はいいの?」


「もう我慢できない。それに――」


「懐かしいしね」


 俺はアリアと上下を入れ替え、彼女にキスをした。



 ◇◇◇◇◇



 俺たちは何度も体を重ねた。しかし結論から言うと、彼女は未だ処女だ。ちょっとズルくない?――って思ったけど、俺とアリアはまだ恋人関係を楽しみたいし、何より彼女が俺を元の世界に返すわけにはいかないと、聖騎士の祝福に固執したためだ。


 しかしステータス上は処女ってそもそもどういうことよ、女神様。あとからルシャに聞いた話では、祝福と引き換えに責任もって女神様が元に戻します――って言ってたけど何を戻すのよ何を。



 ◇◇◇◇◇



 アリアは祝福に満ち満ちていた。キリカとルシャはと言うと、夕方ごろにのんびり帰ってきた。謀ったな!――などと言うまでもなく二人とも笑顔だったが、夕食に起き出してきたリーメが――明るいうちからやるな――と、何もかも台無しにしてしまっていた。



 ◇◇◇◇◇



 夕食後、アリアとまた二人になる。


「せっかくの雰囲気なのに今日の今日で悪いんだけど、ルシャにも祝福を授けてもらえないかな」


 ううん――と俺は頭を振った。


「かみさまとお話するんでしょ?」


「ルシャが話したの?」


「ハルカと話してて、なんとなくわかったかな」


「そっか。ユーキが気にするから秘密にしてって言われてたの。でも、ユーキが好きで祝福を受けたいのは本当だからって」


「ルシャは優しいね」



 ◇◇◇◇◇



「眠ったね」


 アリアがルシャの髪を撫でる。


「かみさまと話してるんだね」


 俺とアリアはルシャの部屋から出る。新月や満月の晩の祝福ではこうして女神様と話をしているらしい。ルシャの自信や柔らかな慈しみは女神様との時間が生み出しているのだろう。彼女を誤解していたとアリアに話す。


「ユーキと離れてつらかった時、ルシャが話してくれたの」


「そっか」


 祝福の前、ルシャにそのことを話すと彼女に謝られかけたけど――


『大丈夫だよ。好きなら謝らないで』――と抱きしめておいた。


 おかげでルシャは安心して俺を受け入れてくれた。



 ◇◇◇◇◇



 夜が明ける。

 ようやく戻ってきた朝の目覚めだ。昨日までアリアはルシャの部屋で寝ていた。今朝は俺の隣。彼女の髪に鼻をうずめる。アリアの匂いがする。


「ちょっと頭の匂いなんて嗅がないで」


 起きてた。


「アリアとは相性いいからさ、アリアの匂いは大好きだよ」


「へんなの」


「キモいって言われてもいいよ」


「言わないよ。それより暑い」


「暑いね」


 お互い裸で肌を寄せ合って寝るとこんなに暑いのか。雪山で遭難したら、裸で温め合うってマジなのか。汗かいて逆に冷えそうだ。


 涼むためにアリアと少し離れて仰向けになると、アリアが覆いかぶさってくる。


「暑いけど逃がさない」


 二人で笑い合ってると部屋のドアが開いた。


「朝からやってんのか。朝ごはんどうする?」


「「リーメ!」」


 リーメことリメメルンさんはアリアにさんざん文句を言われるも、この日以降もたびたびベッドに潜り込んでくるのは変わらなかった。前より暖かいそうだ。なんだかなあ。







--

 やりました。


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