第16話 アリア 4
エイリュースの情報を得るために冒険者ギルドへ情報提供の依頼を入れておいた。目立つように羊皮紙を使ってもらい、報酬も弾んでおく。本意ではないが聖騎士としての名前も入れておいた。
あたし自信も調べて回った。あまり気は進まなかったけれど、娼館へも聞いて回った。ここの娼館は王都よりも神殿の力が強いようで、女のあたしに対してもまともに受け答えしてくれる。店員にも女性が多く、辺境伯の所よりよほど話しやすく協力的だった。
想像もしていなかったけれど、娼館は外からの情報に富んでいた。特に女性の間では情報が行き来しやすく、客として入らずとも、女の店員からある程度の情報を得られた。この点についてだけは、薦めてくれた領主に感謝したい――いえ、やっぱりナシ。
そして翌日、娼館で飲み物を奢ってあげた女性が、昨日の夕方、北の国の聖女様がこの町にやってきたと話してくれた。この町に来るなり大勢の人々に癒しを施していると、興奮気味に話していた。ルシャみたいに変わった子なのかなと一瞬、思ってしまった自分に、ごめんねルシャ――と心の中で謝った。
◇◇◇◇◇
さらに翌朝、ギルドを覗いた後、噂の聖女様に会いに行ってみることにした。聖女様は北の国と取引をしてるらしい大店の一角を借りて人々に無償で癒しを施していた。わざわざ庶民にも手の出やすい消耗品や珍しい食材などの露店の近くで施しをしていたため、店も繁盛しているようだった。あれは店の主人の意向だろう。
真っ白く長い髪に透き通るような肌、赤い瞳の聖女様はまだ幼く、そしてやわらかな微笑みを人々に向けていた。傍には護衛だろうか、青い鎧の男が控えていた。
人が減ってきた頃を見計らって、聖女様の前に立った。
「初めまして聖女様。アリアと申します。この良き日にお会いできましたこと、神に感謝いたします」
「初めまして、聖騎士様。わたくしもお会いできて光栄です。素敵な色の髪ですね」
「恐縮です。目立つので、その、勝気に見られることも多いですが……」
「素敵と言ってくれる殿方がいらっしゃるのね?」
「なんでもお見通しなのですね」
「そういうわけではありませんよ。アリア様くらいのお年なら気にかかる殿方のひとりやふたり、珍しくもないでしょう?」
――ひとりやふたり。確かにそうかもしれない。今はふたりになってしまってるもの。
あたしが自嘲すると、彼女もにこりと微笑む。
「……その、聖女様はこのような場所で施しをされるのは気にならないのでしょうか?」
「あら。わたくしとしては困っている人を集めやすく、宿と食事を提供していただけて、彼らとしては客を集めやすく、名を利用することができる――win-winの関係です」
「うぃんいん? ですか」
よく聞き取れなかったが、異国の言葉だろうか。
「お互い得をして、お互い幸せ――という関係ですね」
「なるほど」
意外とこの聖女様、世間慣れしてるのかもしれない。
「あ、最後にひとつだけ。エイリュースと言う王国の元騎士団長を探しているのですが、聖女様を訪ねては来ませんでしたか?」
「ん~。そうですねー。訪ねては来ませんでしたが……運命であるならばその想い人とは再開できるでしょう」
「そうですか。ありがとうございます。希望が持てました」
彼女の言葉はどこか『真実』を告げている気がした。
◇◇◇◇◇
次の日もエイリュースの情報を得ることはできなかった。ただ、聖騎士が恋人の元騎士団長を追ってきているという出鱈目な情報がギルドで流れていたので、――馬鹿馬鹿しい、むしろ奴の首を狙ってやってきた――大声でそう言ってやった。ユーキ以外の者を恋人などと呼ばれるのは冗談でも我慢ならない。
◇◇◇◇◇
翌朝、ギルドへ顔を出したあと、他を探すために出立の準備を整えていた。ただ、少し心残りがあったため、結局、町に残ってしまっていた。宿で昼食を取っていると、ギルドの職員が慌ててやってきた。――よかったまだいらっしゃった――そう言って手紙を渡してきた。
貧民の小さな女の子が『聖騎士様に有益な情報を』と言って渡してきたそうだ。
手紙を開けて読んだあたしは、――その子に報酬を――そういって職員に金貨を渡す。準備は既に終えていた。あたしは荷物を引っ掴んで宿を後にした。
封には北のルイビーズの聖女と書かれており、手紙には『会いに来てください』とだけ書かれていた。
◇◇◇◇◇
れいの大店に向かうと既に聖女様は出立された後だと告げられた。
やってくれる――そう悪態をついたが、内心、あたしは心が躍っていた。
「会いに行ってやろうじゃない!」
あたしは愛馬を急がせた。
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次回、ユーキ視点に戻ります。
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