ブートオン! 電脳レスキューレンジャー!

仁嶋サワコ

プロローグ〜特別賞でレンジャー任命?

プロローグ〜1

 夏休み! ゲームに漫画まんがにダラダラが最高。宿題なんてもちろん無視むし

 そんな家から出ない娘の日々にえかねたらしいお母さんがチラシを見せてきた。

らん、お母さんの会社も出るけど、行かない? 休みが取れそうなの」

 S市子どもITまつり。

 わたしが住むN県S市に関係があるIT企業が子供向けにこんなイベントをやるらしい。会場はS市の真ん中にある研究けんきゅう施設しせつSSPエスエスピー(S市サイエンスパーク)だ。

 あー、そういえば自由研究か習字か読書感想文か何かやれって言われていたっけ?

 ちょうどいいと思い、わたしはお母さんといっしょに、出かけることにした。



 そうして向かったS市子どもITアイティーまつりはとても充実じゅうじつしていた。

 ゲームができたり、クイズラリーがあったり、眼鏡めがねをつけて立体りったい映像えいぞうを見たり。

 プログラム教室は定員で申し込めなかったけど、大満足!

 一区切りついた頃、お母さんの会社のブースに行くことにした。

 実はこれで二回目。お母さんの仲の良い後輩こうはいがそろそろ係の時間なんだ。

「来てくれたんですね岡崎おかざきさん! 娘さんですか?」

「はい。蘭って言うんです」

岡崎おかざきらんです。はじめまして」

 きれいな女の人にちょっとドキドキする。働く女って感じでステキ!

 そこからお母さんと後輩さんは話し始めた。本当に仲が良いようだ。

 普段家で仕事しているお母さんの会社の人を見られるなんて新鮮しんせん

 …………でも。

 話、長過ながすぎ!

 ここのクイズはやっちゃったし、近くでも見ようかな。

 そう思ってとなりのブースをちらりと見る。

一般いっぱん社団法人しゃだんほうじんエニアック』

 お母さんの会社よりもだいぶ小さいブースだ。ちょうど男子が立ち上がって、はなれていくところ。わたしと同い年か下くらいの小柄こがらな子だ。

 ガラ空きになったところだし、わたしはブースに座っているピンクのシャツの男の人に話しかけた。若いサラリーマンって感じで、ちょっと格好かっこう良い顔してる。

「ここは何やっているんですか?」

 男の人はガバッと立ち上がって、両手を広げた。

「おー、キミはココが見えるのカイ! 連続とは何て幸運なんダ!」

 ものすごくテンションが高い。

「クイズアプリなのサ! その名も『電脳でんのうレスキューレンジャーテスト』」

「何ですかそれ」

「ソレはおいといてくれたまえ。参加賞もあるし、高得点だと特別賞もプレゼントしちゃうから、ぜひやってくれないカナ?」

 わたしは後ろを見る。

 お母さんはまだしゃべっている。他の人もえたようで、あー、これ長くなる……。

 うん、どうせヒマだし、やってみようかな。

 わたしがせきに着くと、タブレットにはこんな文字が光っていた。

一般いっぱん社団法人しゃだんほうじんエニアックプレゼンツ 電脳でんのうレスキューレンジャーテスト』

 はじめるをタップする。

 まず、画面にどこから来たかの選択せんたくがあった。区単位なので、A区と選択する。

 ここからが問題だ。


第一問 この中で一番ふさわしいパスワードはどれだ?

(1)ANGOU1234

(2)PassworD

(3)K1!0a%&zm


 ふーん。よくあるITテストみたいな感じ?

 パスワードは分かりやすいのはダメ。これは、お母さんが口すっぱくいっていることだ。

 答えは(3)を選択だ。


第二問 「んぽひた」という文字があるよ。

次に書く決まりの通り、アとイの箱にかさねていくと、ロの箱にはなんという言葉が出てくるかな?


【決まり】

その1:アと書いてあるときはアの箱に入れるよ。イと書いてあるときはイの箱に入れるよ。

その2:言葉はイの箱に入った順番に読むよ。

その3:ア、ア、ア、イ、イ、ア、イ、イの順番に並べるよ。


【例】

「もどこ」をアアイアイイの順番に並べると、「こども」になるよ。


 ええっ! 突然とつぜんややこしい!

「か、紙と鉛筆えんぴつはありますか!」

「ハイ、どうぞ」

 男の人が、メモちょうとシャープペンシルを貸してくれた。順番に書いてみることにする。

 アの箱に「ん」と「ぽ」と「ひ」を入れる。

 イの箱に「ひ」「ぽ」を入れる。

 アの箱に「た」を入れる。

 イの箱に「た」「ん」を入れる。

 つまり、答えは「ひぽたん」だ!

 ……って、何それ。

 次が最後のようだ。


第三問 あなたはヒーローになりたいですか?


「これ、クイズですか?」

「ハハハ! 思ったコトを書けばいいよ!」

 うーむ。わたしはヒーローについて考える。

 ヒーロー。つまり、助けられる側ではなく、助ける側ということ?

 だったら、答えは「はい」一択いったくだ!

 お父さんやお母さんの昔のゲームをたまにやらせてもらうけど、有名なものからマイナーなものまで、ヒーローに助けられるヒロインはとても多いんだよね。

 助けを待つヒロインって正直しょうじきつまんなそう。ヒーローの方が断然だんぜん楽しそうだ!

 送信ボタンを押すと、男の人は駄菓子だがし詰め合わせをくれた。やったね。

「ハイ。これがまず参加賞ネ。データがコチラに来るまで少しお待ちをば……」

 言っているうちに男の人の息が荒くなった。

「おおぅ、高得点! しかもA区在住! 理想的だ!」

 男の人は机の上にあった箱をごそごそあさる。

「これをドウゾ!」

「あ、かわいー」

 特別とくべつ賞かな。キラキラ光る赤い石のおしゃれなブレスレット。

 さっそく左手首につけてみる。普段赤はあまりつけないけど、いい感じ!

「こんないいものをありがとうございます!」

「いや-、コチラこそ、想像以上の収穫しゅうかくだヨ。ありがとう!」

 あいさつをして、お母さんの会社のブースに戻ると、ようやく話が終わりそうだ。

「ごめんね、蘭。退屈たいくつしなかった?」

「ううん、となりのブースでクイズしたら色々もらえたよ!」

「あ、お菓子もらったんだ。たくさん良かったね」

「ほらこれも――」

 わたしはブレスレットを見せたけど、お母さんは「あら、ふ菓子おいしそう」というコメントだけだった。つまんない。

 そんな感じで、子どもまつりを楽しんだわたしは、帰宅して夕飯やお風呂を済ませた後、レポートを書こうと学校のタブレットパソコンの前に座った。

 ――はずだったんだけど。

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