全国民ランキング最底辺の少年、実は万能スキル持ち。他人の身体を完全に乗っ取る能力で、悪人たちを懲らしめながら成り上がる
鈴木土日
最底辺の僕が隠し持つスキル
「ルティス、お前はもう要らない」
ハイザーは、はっきりと僕にそう告げた。
端正なその顔には、こちらを嘲弄する様な笑みが浮かんでいる。
僕が十五歳で冒険者の
けど今回はタイミングがちょっと、いや、かなり特殊だった。
「えっ、今?」
ここは、ダンジョンの奥地である。
三階層の最深部。茶褐色の岩壁に囲まれた、薄暗くてやや広めの空間だ。
壁に点々と埋め込まれた魔光石が洞内を照らしているため、一応の視界は確保できている。
ここからさらに奥へと伸びる通路の先に、下層へ続く階段がある。
四階層まで潜り、
「ああ、もうお前の役目は終わりだ」
そう言ったのは、斧戦士のグライだ。
二メートル近い巨躯を持つ、粗野で豪快そうな風貌を持つ男である。
ハイザーらのパーティーには、回復役が存在しない。かつてはいたのだが、何らかの理由で揉めて脱退したらしい。
そのため彼らはダンジョン探索の際、多量の回復薬を持参する必要がある。
それを運搬する役として雇われたのが僕だ。
「ここから先は、オレたちだけで行く」
すでに、僕が運んできた回復薬はほとんど使い切った。リュックの中に詰まっているのは、その空き瓶ばかりである。
つまり、僕はもう用済みという訳だ。
「ぼ、僕ひとりで、ここから地上まで戻れと?」
「ああ」
「ムリだよ、そんなの」
「だろうな」
「
「はあ? お前なんかのために貴重なアレを使えるワケねえだろ。いくらすると思ってるんだ。お前の一日分の
ハイザーは吐き捨てる様に言った。
危険地帯に意図的に仲間を置き去りにするなんて、殺人にも等しい許されざる行為である。
「これは立派な犯罪だっ!」
「ぶははっ。ここを何処だと思っている?」
グライが笑い飛ばす。
「目撃者がいなけりゃ、罪ってのは存在しないのと一緒だ。お前は、ダンジョンの奥で罠にでも嵌って行方が分からなくなった事にしておくさ」
確かに、ここにはぼくら以外に誰もいない。
「ぼ、僕で何人目だ?」
「あ?」
「うわさは聞いていた。あんたらが、ダンジョンで
「はっ、教えてやるよ。お前で三人目だ」
ハイザーは、まるで悪びれる様子もなく言ってのけた。
「バカらしくなったのさ。お前みたいなカスにカネを払うのが」
「人の命を何だと思っている?」
「お前ら低ランカーの命には、銀貨一枚の価値もねえよ」
「くっ……」
「あなた、ほぼ最下位らしいですね」
明らかな侮蔑の笑みを顔に浮かべてそう言ったのは、魔術師のノックスだ。
丸いメガネを掛けた、理知的そうなルックスの持ち主である。
この国では成人になると原則、みながランク付けされる。
順位を決定するのは、各々の「強さ」のみだ。
腕力や敏捷性、魔力量など総合的な観点から判定される。
ランキングの対象となる国民は、およそ百万人。
そのうちの上位一パーセント、すなわち一万位以内の者は、
一方の僕は、ノックスの言う通り最下位付近にランク付けされている。
そうなったのには、いくつか理由があった。
もっとも大きな要因は、僕が得た「スキル」にあるだろう。
この世界に生まれた者の誰もが、ひとつは与えられる神聖なる能力、スキル。
その如何が、ランクの高低により顕著に影響すると言われている。
【Jack】。
それが、僕が与えられたスキルだ。
この世界で使われている文字ではなく、読み方すらも不明であった。
もちろん使用法など分かるはずもなく、ゆえに僕は「スキルなし」と同じ扱いとされた。
「我々に感謝してもらいたいですね」
「えっ?」
「あなたのような人間はおそらく、何の役にも立たずに人生を終えたはずです。それが、ほんの僅かとはいえこうして我々の役に立てたのだから」
クツクツと底意地悪そうに笑うノックス。
「もし、僕が無事に外へ出られたら?」
僕の問い掛けに、グライが豪快に嗤う。
「ぶはははっ、あり得ねえ」
この付近には、
ほとんど最下位の人間が、ここから自力で脱出できるはずがない。
「万一の為に、少々、痛めつけておく」
ハイザーは腰の鞘から長剣を抜き、こちらへ歩み寄ってくる。
自分たちの犯罪行為をペラペラと打ち明けてしまった手前、是が非でも僕を生かしておく訳にはいかなくなったのだろう。
僕は肩を竦ませて、後ずさりをする。
蛇に睨まれた蛙。
ハイザーの目には、今の僕はまさしくそう映っているはずだ。彼は躊躇なく、余裕ぶった態度でこちらへ近づいて来る。
すぐ目の前まで接近すると、ハイザーは立ち止まった。
そこで僕は、怯える演技をするのをやめた。
ハイザーから笑みが消え、胡乱げな表情をする。
僕は彼の両目をしっかりと見据えた。
目を見張り、表情を引きつらせるハイザー。
さすがだな。瞬時に察知したらしい。僕が本当は「危険な存在」であると。
けど、もう遅い。
「ジャック」
僕は口の中で小さくつぶやく。
目の前の景色が歪んで渦を巻く。意識が外へ溶けして目の前の人物へ向かってゆく感覚。
真っ暗になった。
直後、すぐに視界は戻る。
僕のすぐ手前には「ぼく」がいる。
力なく前かがみに倒れこんでくる「ぼく」の身体を、僕は両手で支える。
「おい、どうした?」
グライが訝し気な声で訊ねてくる。
「どうやら、恐怖のあまり気を失ったみたいだ」
「ふん、情けねえやつだ」
僕は自らの掌を見やる。
大きくて皮が厚い。まさしく剣士の手である。
一定時間、他人の身体を完全に乗っ取る事ができる。
それが、僕のスキル【
相手の目を見つめて、「ジャック」と唱えれば発動する。
「そんなヤツは放っておいて、早く行こうぜ。ハイザー」
「そうだな」
僕は答えつつ振り返り、グライらと向き合う。
さあ、「お仕置き」の時間だ。
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