罰ゲームで告白してきたクラスのショタコンギャルが高校生はショタじゃない! とキレながらめちゃくちゃ溺愛してくる話。

斜偲泳(ななしの えい)

第1話

 放課後、高校一年生の小鳩成こばと なるはドキドキしながら空き教室で待っていた。

 生まれて初めてラブレターを貰ったのだ。

 下駄箱に差し込まれた手紙には、差出人の名が書いていなかった。


「僕を好きになるなんて、いったいどこの物好きだろう……」


 成は冴えない陰キャオタクだ。

 背は小さくて童顔で、声変わりだってしていない。

 性格だって臆病で、教室ではいつも目立たないように息を潜めて暮らしている。

 我ながら、女の子にモテる要素などどこにない。


「イタズラだったらどうしよう……。ていうか、その可能性の方が高い気が……」


 成は前述の通り冴えない男子のアンハッピーセットみたいな男の子だ。

 そのせいで、昔から男女問わずからかいの対象になっていた。

 普通に考えて差出人不明のラブレターなんか嘘告以外あり得ない。

 頭では分かっていても、もしかしたらと期待してしまう。

 小学生みたいな見た目をしていても、中身は年相応なエロガキだった。

 程なくして、入口から一人の女子が入ってくる。


「……し、渋谷さん」


 相手が誰か分かった瞬間、成はイタズラなんだと確信した。

 渋谷結愛しぶや ゆあはクラスメイトのエッチなギャルだ。

 背が高く、全体的にムッチリしていて、胸とお尻が凄く大きい。

 風の噂に、Gカップだと聞いた事がある。

 セミロングの金髪に挑発的なタレ目をした、眩しい程に色白の美少女だ。


 スクールカースト最上位のギャル軍団に属していて、彼女にしたい女子、エッチしたい女子、オカズにした女子ランキング等の誰が集計したのか分からない非公式ランキング上位常連。

 当然モテまくりで、セフレが十人いるとか、パパ活してるとか、大学生の彼氏がいるとか、その手の噂を山ほど聞く。

 そんな子が成みたいな冴えない男子を好きになるなんて、絶対にあり得ない事だ。


 普段だって他のクラスメイト同様に成に下らないちょっかいを仕掛けて来る。

 見えない振りをしてわざとぶつかったり、先生の頼み事や掃除を押し付けたり。

 それでも今まではイジメと呼べる程酷い事はされなかったのだが。

 どうやら一線を越えたらしい。


「そうだけど。なに、その反応。あたしがラブレター出してあげたんだよ? もっと喜ぶべきじゃない?」


 不愉快そうに顔をしかめると、結愛は特に緊張した様子もなく、のしのしと成の元へやってくる。

 身長差と巨大な胸のせいで、成は〇ジラが近づいてくるような威圧感を覚えた。

 無意識に数歩後退りながら、成は何とか言い返す。


「だ……だって、これ、イタズラでしょ……」


 チラチラと、上目遣いに結愛の顔色を伺う。


「は? なにそれ。あんたさぁ、あたしが嘘告みたいな寒い事する奴だと思ってるわけ?」

「ま、まさか! 思ってません!」


 慌てて首を横に振ってから、成はハッとする。


「じゃ、じゃあ、本当に僕の事、好きなんですか!?」

「なわけないじゃん。罰ゲームで小鳩に告んなきゃいけなくなっただけ」

「……それって嘘告と同じなんじゃ」


 ボソリと成は呟くが。


「なんか言った?」

「いえ、なんでも……」


 結愛にジト目で睨まれたら何も言えない。

 成だって結愛が本気で自分に惚れたなんて思う程バカじゃない。

 それでも一ミリくらいはもしかしたらと期待してしまうのが男の子の悲しいサガである。


「そういうわけだから。小鳩、あたしと付き合って」


 いかにも形だけといった感じの適当な告白だ。

 そういう罰ゲームだから当然なのだろうが。

 了承した所でなに本気にしてんのとバカにされるのは目に見えている。

 空気を呼んで成は「はぁ……」と曖昧な返事をした。


「なに、はぁって」

「え、なにって言われても……」

「いや、あたし告白したんだけど。付き合うのか付き合わないのか、はっきり答えてくんない?」


 めんどくさっ!

 内心でイラっとしながら、成は仕方なく口にした。


「じゃあ、ごめんなさい……」


 答えなんか最初から決まっているのだから、わざわざ言わせる必要もないだろうに。

 成はそう思っていたのだが。


「はぁ?」


 結愛は露骨に不快そうな顔をした。


「小鳩の分際であたしの告白断るとか生意気なんだけど」

「えぇ……」


 そんなの言いがかりにも程がある。


「だ、だってこれ、罰ゲームですよね?」

「だからなに? 罰ゲームだって告白は告白じゃん。小鳩なんかに振られたら一生の恥なんだけど!」

「なんだよそれ……」


 結愛はまるで、成が悪いみたいに詰めて来る。

 恐らく結愛は、自分から告白しておいて、OKした成を振りたいのだろう。

 それで明日、ギャル軍団の前であのバカ本気にしちゃってさ、アハハハ! と笑うつもりに違いない。


 臆病者の成でも流石にこれには怒りを覚えた。

 こうなったら、絶対にOKなんかしてやるものか。


「ぼ、僕にだって選ぶ権利はありますから!」


 ありったけの勇気を総動員して言い放つ。


「はぁ? 小鳩の癖に言ってくれるじゃん」


 ビキリと結愛のこめかみに怒りマークが浮かび、すぐに後悔した。

 最底辺の陰キャなチビがトップカーストのギャルに逆らってしまったのだ。

 ただでは済まないだろう。

 下手したら、クラスぐるみでイジメられるかもしれない。

 でも、今更吐いた唾は飲み込めない。


「だ、だって……」


 怯える成に、結愛はのしのし近づいてくる。


「あんたがその気なら、あたしにだって考えがあるから!」


 結愛が両手を振り上げた。


「ひぃっ!? ぼ、暴力反対!?」


 ビクッとして成は目を閉じる。

 次の瞬間。


 むぎゅぅっ♡


 成の身体は幸せな感触に包まれた。


「――っ!?」


 驚いて瞼を開けるが何も見えない。

 わかるのは、顔面が柔からな二つの塊に挟み込まれているという事だけだ。


(渋谷さんに抱きしめられてる!?)


 その事に気付き、成はカチンと固まった。

 息を吸うと、鼻の奥にむわっと胸の谷間で蒸れに蒸れた濃厚な女の子の甘い香りが広がった。


 たった一呼吸で成の脳は破壊された。


 頭の中が真っ白になり、バチバチと極彩色の火花が散ってチリチリ痺れる。

 電気みたいなゾクゾクが背骨を通ってお尻に流れ、成の股間でパチンと弾けた。

 なにかのスイッチが勝手に入ったみたいに、成の相棒が起立する。


 その事に気付いて成は慌てた。

 隠したいが、変な動きをしたら興奮している事がバレてしまう。

 そんな事になったら一巻の終わりだ。


「ほら。どう? あたしの事好きになった?」


 なった。

 本心とはかけ離れた本能が即答する。

 恐らくそれは相棒の声だ。


 成自身は恐怖して、プルプルと震えるように首を横に振る。

 真っ赤になって震える成を胸に抱き、結愛は勝ち誇るようにニヤリとした。


「本当にぃ?」

「――ぁぅっ!?」


 成を抱く結愛の手が力を増した。

 のみならず、全身を成の身体に擦りつけるようにグリグリと動かす。

 ムッチムチの生足が成の股を強引に割り、下から突き上げるように押し付けられた。


 心臓が爆発しそうな程ドキドキしていた。

 けれど成は気にならない。

 それ以上に相棒がドクンドクンと脈打って、今にも暴発しそうだった。


「や、だめ、は、はなしてぇ……」


 こんな所で至ってしまったらそれこそ高校生活ジ・エンドだ。

 成は必死に身を捩って逃げようとするが、余計にムッチリとした結愛の身体に食い込むだけでビクともしない。


 そんな成の姿を見て、結愛の瞳にぼんやりと暗い炎が灯った。


「……あは、あははは。超ウケる。あんたさぁ、それでも男? 弱過ぎじゃん」


 言葉の鞭で成を嬲ると、結愛は成の頭に顔を近づけ、スハスハスゥ~ッと猫を吸う様に深く息を吸った。


「ぶはぁ……。やっばぁ。ガキ臭すぎじゃん。赤ちゃんかよ」


 成の頭はとっくの昔にオーバーヒートして、まともな思考など出来る状態にない。

 ただただ恥ずかしくて、イヤイヤと身を捩る事しか出来ない。


「ほら。わかったでしょ? あたしの方が強いんだから。あんたに拒否権なんかないわけ。だからおとなしくあたしの彼氏になれ。そしたらさぁ、もっとイイ事出来るかもよ?」


 耳の中を息で犯すように、ねっとりと結愛が告げた。

 成は限界だった。

 代わりに相棒が返事をした。


「なりまふ……。しぶやしゃんの彼氏になるから……。ゆるひてぇ……」


 トロトロに溶けたトロ顔で、成の小さな唇が必死にパクパクと言葉を吐き出す。

 それを見た結愛の顔が「いひっ」とニヤけた。

 ハッとして結愛が平静を取り繕うと。


「あは、あははは……。そうそう、それでいいの。てか小鳩チョロすぎだし!」


 結愛に解放された瞬間、小鳩は腰が砕けてヘロヘロとその場に崩れ落ちた。

 暴発こそしなかったが、精神的にはほとんど達していた。

 薄い胸を押さえて苦しそうにハフハフと息を荒げる成を、結愛は発情した猫みたいにフーフー息を荒げながら凝視している。

 そして不意に我に返り。


「じゃ、じゃあ、そいう事だから……よろしく!」


 逃げるようにその場を去った。

 全身に染み込んだ結愛の余韻が身体を麻痺させ、成は暫く動けなかった。

 甘い毒が薄まると、天井を眺めながら成は呟く。


「……いや、なにこれ?」


 さっぱり意味がわからない。

 わからないが……。


 それはともかく、成は急いで家に帰り、結愛の余韻が消えない内に怒れる相棒を鎮魂した。


「ふわぁ……。めっちゃ出たぁ……」

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