第52話
「ずっと大冨さんをいじめてきて、それが好きって言うのはよくわかんないなぁ」
要の疑問に晴はふんと鼻を鳴らす。
「俺がいじめておけば、あんこに誰も手を出さないからな。あんこの両親にも、いつもよろしくって言われていたし」
「だからって、あんなにいっぱい泥団子投げることないじゃん」
「あんこが避けないからだろ!」
「なるほどね。それで向井くん、婚姻届けはどこにあるの?」
「……あんこの実家」
それには杏子のほうがビックリした。
「どこにあるの?」
「おじさんとおばさんが持ってる……」
「え、それってつまり……?」
「あんこの初めてをもらった責任取らなきゃだからな」
全部話したよ、と晴は深く息を吸ってから吐き出した。
「あの時は知識もなかったし、大変なことになるんじゃないかって焦った。だけど、全部俺のせいだから責任取らないとと思って婚姻届けを書いたんだよ」
「それならちゃんと、理由言ってくれたら良かったのに」
「言えるかよ。あんこのほうが怖くなるに決まってるだろ。だからおじさんとおばさんに婚姻届けを預けて、責任取るからお嫁にくれって」
そこまで話すと、晴は杏子の腕を掴んで要から離した。
「立派になったらねって言われたから、頑張ってきた。嫌だったけど、海外に行けば課長になれるっていうから行った。ずっとおばさんたちと連絡とって、あんこの様子聞いて、協力してもらってた」
それは杏子のまったく知らない話だ。
「会社でいじめられて辞めるって聞いて、俺の会社に来るようにおばさんに言ってもらった。陰で俺が部長どもにあんこを猛プッシュしたんだ」
どちらにしても、と晴は呟く。
「俺はあんこを迎えにいく予定だった。だって俺は、今も昔もあんこの結婚相手だからな。あとは、お前が俺を選ぶか選ばないかってだけで」
やっぱり、不毛な勝負だったのだと杏子は力が抜けた。
「晴も私もバカだな……ほんとバカ。私だって、晴しかいないのに」
杏子は晴にくっついて、溢れてくる涙を彼のワイシャツで拭いた。
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