第49話

 日に日にかおりの熱烈アピールが強まっている。プロジェクトは解散したというのに、かおりは晴に付きまとっている様子だ。


 多くの女子はかおりの味方となっており、美男美女カップルが誕生するのではと密やかに噂が流れている。


 彼氏をつくるという勝負の期限まで、残り二週間。


 杏子は誰とも進展がない。そんな時に要から連絡が入った。


『大冨さん。この間言ってたこと、そろそろ試してみない?』


 杏子は要と一緒に、とある計画を立てている。それに杏子はもちろんですと返事をした。


 この不毛な勝負をふっかけてきたのは晴だ。どうせ負けるにしても、お互いにはぐらかさずに向き合うことが必要なはずだった。


 こじらせすぎた二人を修正するには、もうこれしかない。


 ――数日後。


 杏子は『今日は帰らない』と晴にメッセージを送った。すると要の思惑どおり、晴からすぐに連絡が来る。


 不機嫌オーラ全開で呼び出され、人目のない非常階段に呼び出される。


「帰らないってどういうことだよ」


「そのままの意味よ」


 気に食わないという顔をされたので、杏子は深呼吸して理由を述べた。


「杉浦さんと飲んでくるの。彼のお家に珍しいワインがあるらしくて」


「飲み終わったら帰ってくればいいだろ?」


「野暮なこと言わないでよ」


 晴がピクリと眉毛を動かし、どん、と杏子の横の壁を殴りつける。


「……俺を怒らせたいわけ?」


「彼氏ができたら、婚姻届を破棄してくれるんだよね」


 今にも口から火を吹き出しそうな晴に、負けるものかと杏子はガンと見据えた。


「俺よりいい男ならな」


「時期部長候補で経理課の王子。優しいし真摯だし、私の嫌がることをしてこない。おまけにお酒も強い」


 晴の手が伸びてくる。キスされるかと思いきや、触れずに手を引っ込めていった。


「あっそ」


「泊まってきていいよね?」


「好きにしろよ。あんこの責任だ」


「大人なんだから責任くらいとれるよ」


「なら、別にいいんじゃない?」


 晴はそう言うと杏子から離れて、非常階段を去って行った。

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