第20話
*
高校三年生の秋が近づいた時に、杏子の進学は決まった。
まじめに勉強をして成績を上げ、そして推薦状をもらっていたのに加えて、自己推薦できる材料をかき集めていた。それもあって、行きたかった大学にすんなり入ることができた。
他の子たちはこれから受験が待っているという中で、クラスでたった一人、三年生でも数人しかいない合格者に杏子は入っていた。
そのことで、クラスの子たちと深い溝ができてしまった。
焦りが渦巻く中、杏子は他の子たちと別れて下校するようになった。受験のプレッシャーをわかっていたから、他の子たちにかける言葉が見当たらなかった。
そんなことがあって、比較的早く帰宅する杏子を校門で出迎えるようになったのは、同じく高校受験にすんなり合格してしまった晴だ。
派手に色を抜いていた髪の毛は、受験用に真っ黒になっていて、あまりにも似合っていない。今までチャラチャラした仲間と押し寄せてくることがほとんどだったのだが、その友達も受験のため、晴も一人になることが増えていた。
晴の両親は海外出張が多い。母親同士の仲が良いから、晴は杏子の家に来たり、泊まったりをくりかえしている。ちゃんと見ていないとすぐに喧嘩に出かけてしまうので、杏子は彼のお目付け役も兼ねていた。
能天気な両家の親たちは、思春期のけんかっ早い中学生を一人で家に置いておくよりも、大学受験を終えた杏子と一緒に留守番させたほうが安全と考えているふしがある。
年頃の男女だということをすっかり忘れた呑気な両親は、二人を家に置いたまま出張に行ってしまって不在だった。
「あんこ、帰って来るの早くない?」
晴はテレビの前でお菓子を食べながら大人しくしている。友人関係が芳しくないなどと晴に言ったら、それをネタに脅かされるに決まっているから黙っておいた。
しかし、さすがにずっと一緒にいるだけあって晴は鋭かった。夜になると、ベッドでちょっとだけ悲しくなっていた杏子の上に馬乗りになってきた。
「放して、晴!」
「やだね。なんで泣いているか言うまで放さない」
攻防の末、杏子は腕力で晴にかなわないことを知った。
身長はやや晴の方が大きいとはいえ、ほぼ変わらない。なのに、男の子というだけでこんなにも力の差があるのかと愕然とした瞬間、晴を男の子として認識してしまった。
「嫌だ、言わない……言ったた晴はまた私のこといじめるじゃん!」
「あんこをいじめて泣かせていいのは俺だけなんだから、当たり前だろ!」
杏子にとっては理解できない理屈だったのだが、いろんな心労も重なって、涙が出てきてしまった。
晴は一瞬だけ驚いたあと、ムッとした顔になった。
「泣くなよ。他の奴のせいで泣くなんて許さないからな」
晴は噛みつくようにして杏子の唇を奪った。
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