争いが戦争になるとき、それは英雄が生まれるとき。

あざみ みなり

第1話 単なる人間の小競り合い




「彼らがなぜ死ななくてはならないのですか!!!!」


 敵地への出陣を僕らに命じた大佐に朝子さんは訴える。


 確かに、この出陣が大戦に与える影響は皆無と言っても過言ではない。


 けれどこの出陣に僕は賛成だ。敵の研究所をつぶすことはこの戦いにおいて最も必要なことだ。科学の急速な発展により列強諸国の軍事バランスの崩壊が招かれた。それによって戦争が勃発したからだ。


 強国は資源を求め侵略を進め、小さな国は圧倒的な軍事兵器による攻撃を前に怯えて隠れている。


 我々、神流国(かんなこく)は大陸から離れた島国の小国でありながら、世界水準でもトップレベルの科学技術をもっているため列強諸国との大戦を何とか乗り切っている状態だった。


 朝子さんが僕を心配してくれる気持ちは理解できる。しかし、僕はそんな彼女を横目に無視し輸送車に乗り込んだ。


 「別に僕は特攻隊ではないぞ」


 そうボソッと言った小声を機内にいた数人の仲間に聞かれた。


 戦争に行くのに死を恐れていない。そんな僕は彼らには少し気味悪く映ったらしく目をそらされてしまった。当然だ。


 でも、そんなこと気にする必要は一切ない。どうせ数時間後には彼らの骨は一本も残っていないのだろうから。


 もちろん戦場に行くのは今回が初めてではない。しかし、僕のように二十歳の近い平民の男でこの国にいるのは基本的に戦場に向かえない病人か、何十回も戦場に投入されているのに生き残っている変人しかいない。僕はこの場合後者である。


 僕は自分の戦闘機に乗り出撃すると今日も朝子さんが作る晩御飯を考えながら敵国の研究所を弾丸の雨でお掃除する。


 研究所とはいえど敵国の軍事施設である以上、こちらから奇襲を仕掛けた後は対航空ミサイルがしつこいほど追尾してくる。


 隣で、十二、三ほどの少年が泣き叫びながら迫りくるミサイルから逃げていたがとうとうつかまってしまい爆裂した。


 それを皮切りに次々と、戦闘機が研究所の方へと墜落していった。これでは特攻隊とほとんどやっていることが変わらない。もちろんそれは分かっていた。一つ違う点があるとすればこの部隊には毎回何事もなかったかのように生還してくる男がいるということだ。


「ご苦労だった、下山少佐。今回も君一人か。もう君少佐なのか、今殉職したら私の階級に並ぶぞ?」


 月岡大佐は平然と帰ってきた僕をいつものように少し気味悪がりながらそして冗談をまじえながら近づいてきた。


 入隊したときに数万人いた同期はもう両手両足で数えられるほどしかいない。しかも残りのほとんどが研究員と転向している。今では一般兵器を使っていたころと比べて殺傷能力が格段に向上した武器が普及している。


 一般兵士が携帯している銃ですらコンクリートの壁を貫通する程の威力を出すことができる。ほとんどの人間はどんなプロテクターをしていても即死である。


 この戦争に英雄は生まれない。それは人間の勝負でなく、武器同士の対決となっており、兵士は使い捨ての駒となるのがほとんどとなってしまっている。


 月岡大佐と共に幹部の作戦室までいき、上層部の連中の前で今回の作戦結果について報告をした。


 「僕以外の子たちはあっさりと死にました。一応敵の研究所には多大な損害を与えました。」


 「何か言いたいことでもあるのか?」と指揮官うちの一人が僕に対してそう突っ込んできた。


 「少し疑問があるんですが、どうしてまだ有人の戦闘機を未だに使っているのですか?」


 嚙みついてみた。


 上の人たちはどんな死戦も乗り越えて帰ってくる異質な僕を毛嫌いしている。組織運営をするにおいて特異性のある人間は何をしだすかわからない。そういった理由だろうと大佐殿もおっしゃっていた。


 それに、貴族どころか騎士の家系でもない僕に活躍されるのは面倒なのだろう。ほら、既得権益とかさ。


 「君もわかっているだろう? 無人の戦闘機を戦場に出陣させてしまうとハッキングされて相手国に乗っ取られるんだよ。それを防ぐためのアナログなんだよ」


 もちろん知っている。だが、そこで当たり前のように犠牲を受け入れているこいつらには腹が立つ。


 月岡大佐も貴族ではないが騎士の家の出であるため殺人兵器が飛び交う前線に行くことはない。別にそれに対して不満があるわけではない。


 大佐は今年で三十歳となり、息子、娘が成長していくにつれて実際の戦場に出ているのが十代前半の子供達ということ現状にすこしやるせなさを感じているらしい。


 もちろん、国も子供達に押し付けているわけではない。つい五年前までは最低でも徴兵されるのは十六歳からだった。しかし、今では七つの子でも普通に戦闘機での訓練をしていつでも出撃できるように備えている。


 これの一番怖いところは彼らが自らの意思でそこにいるということだ。政府や軍がプロパガンダを流したり、洗脳教育をしたりしたからではない。皆の父が、兄が、友が敵地、海上、空で弾けたのをその目で見ているからだ。


 子供が兵士の大部分を占めるという倫理的な観点を問題にするような国際機関も既に機能していない。


 今の子供たちには当たり前のことになっているのだ。反対に前の時代を知っている貴族たちのほうが月岡大佐のように無力感を覚えている人が多くらいだ。


 「それじゃあ、あの寮母さんによろしくな。」


 報告が終わり作戦室から出ると大佐と作戦室のすぐ目の前で別れた。


 「それと、いくらお前でも今度は死ぬかもしれないんだからあの人の心配もわかってやれよ、少佐」


 大佐の背中を見届けていると、振り返ってそういった。




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