子犬と一緒に転移したけど、子犬のほうがチートです!

@nanami-7733

拒否権が無いのは理不尽では無かろうか?

第1話 その日私はわんこに会った

 またダメだったな・・・・

 軽く座っていても錆びたブランコは少し揺れるだけできぃきぃと耳障りな音を立てる。

 少し前までは親子連れもいたけど、お昼前に立ち去って、車の音と錆びた遊具の音しかしない昼下がり、亜矢は一人公園でぼうっとしていた。


 勤めていた会社の業績が悪化して、倒産したのは2か月前。

 両親が家を遺してくれたので、住む場所も貯金もすぐには困らないが、いつまでも無職でいられるわけもなく、次の職を探さないといけない。

 とはいえ、不況の中、すぐに転職できるほどの資格も技術もない。

 両親も事故で亡くなっているし、両親はどちらも兄弟姉妹がおらず、祖父母も亜矢が小学生の時に亡くなっている。祖父母の葬儀でも親戚にあった憶えがなく、伝手もコネもない。

 まだ無職になってからたったの2か月だし、世間にはもっと厳しい人もいると思いながらも、未来の見えない状況で少し疲れを感じるようになってきた。


 ぼうっとしていても仕方ないし、そろそろ家に帰っておひるごはん用意して・・・面倒だからスーパーでお惣菜買っちゃおうかな・・

 そんなことを考えながらブランコから立ち上がり、ふと公園の入り口のほうに目を向けると、茶色いものもこが目についた。

 子犬?いや、小型犬だからあれで成犬なのかな?あれってトイプードル??

 首から赤いロープを引きずっていて、まるでお散歩中に逃げてきたみたい。


 そっと近づいてみると人に懐いているのか、ふんふんと足のにおいをかがれた。


「どこから来たのかな?」


 しゃがんでそっと手を伸ばしてみるとさらに手に鼻を近づけてクンクン。


「これだけ慣れているなら飼い犬だよね。ご主人様はどうしたの?」


 そう語りかけて首のロープに手を伸ばし、ロープをつかんだ瞬間、一瞬ぐらっとした。

 地震?

 そう思って顔を上げて周りを見ようとして見ようとして・・・


「・・・・・・・・・・・・・どこ、ここ」



 足元はさっきまでの公園の土と同じ白っぽい地面で前後に道がつづいているのもいいけど、その先にあった車道はなく、ブランコやジャングルジムがあった場所は深い森になっている。

 森のど真ん中の一本道にしゃがんでいる自分。


「えっと・・・」


 頭が真っ白になるとはこういうことか。

 人間驚くと何もできなくなるんだな・・・。

 あとになって振り返ればそう思う。

 だけど、あのときは、本当に何が何だかさっぱりで、何分ぐらいそうしていたのかもわからない。




「くぅーん」


 手をくいくいと引っ張られる感触で私は再起動した。

 トイプーがロープを引っ張るように先に行こうとしていた。


「そっちに行きたいの?」


 トイプーがこっちを見ている。

 そうだね。

 確かにここでぼうっとしていても仕方ない。

 ここがどこだかわからないけど、だれか人を探さないと。


「くぅーん」

「ごめんね。ちょっと待って」


 そういいながら携帯を取り出し、マップアプリを立ち上げるけど、現在地がわからないみたい。

 GPSもWiFiも何もかも効いてないっぽい。

 通信回線が何も見つからないなんてことあるのかな・・・GPSって地球上どこでも引っかかるわけじゃないの?

 ここ地下じゃないよね。

 どう考えても地下じゃないのに??


 どうせ一本道。前に進むか後ろに進むかだし、山奥に進みそうなら戻ればいい。

 こういうときには犬の勘に従ってもいいのかも・・・。


 そんなことを考えながら、赤いロープを持ってトイプーの行きたそうな方向に向かって歩いていくことにした。

 それが吉と出るか、凶と出るか、そんなこと誰にもわかりっこない。

 えぇい、行っちゃえ!そんな気持ちで足を進めた。




 知らない場所を歩くと、同じ距離でも普段知っている場所を歩くのより時間がかかるように感じる。

 同じ1kmでも知らない場所を目的地が見えない状況でずっと歩くのって、ちょっとしんどい。

 だから、時間がかかっているように感じるだけ、きっと。


 と思いながらもついつい携帯をみてしまう。

 もうさっきの場所から20分ぐらいは歩いてる。

 これだと1km以上歩いているはず。

 だけど、ずっと森の中。

 時々鳥のような声は聞こえるし、少し遠くでガサガサいう音はするけど、動物も見かけない。

 幸いなことに山をのぼっているような感じはしない。残念ながら下っている感じもしない。

 でも、逆に起伏のないただただ広がる森っていうのも珍しいような・・・

 それにこの道。明らかに人の手が入っているとしか思えない道。

 雑草もないし、ずっと白っぽい土の道が続いている。

 トイプーちゃんはずっと疲れる様子もなく、時々木のほうをくんくんしてマーキングしながら歩いてる。

 幸い、大はしないので助かってる。

 トイプーちゃんがいないともっと心細かったかも・・・


「わん!」


 ずっと横を歩くようにしていたお利口なトイプーが少し前に出たので、先を見たら、・・・掘っ立て小屋??

 何かの道具でもおいているのかな?って感じの小さな小屋が右手に見えてきた。




「ごめんください。どなたかいらっしゃいますか?」


 そういいながらノックする。


「お入り」


 誰かいる!よかった。ここがどこか教えてもらおう!


「失礼します」


 そういって扉を開けた瞬間、扉の中から光があふれてきて私たちは光に包まれた。




 目をぱちぱちして少し目が光に慣れかけた。

 真っ白な空間。上も下も前後左右、ただ白い。

 いつの間にか入ってきたドアも消えてる。

 白い世界の中にその人は椅子に座ってこちらをみていた。


「ようこそ。僕の世界へ。歓迎するよ」


 ニコニコ笑いながらそう言った。

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