厄災の魔神? ぶっ潰してやんよ
第36話 こんなタイミングかよ
クソ第一王子ラングレーが死んだことで部隊の総指揮権はキールのものとなった。これでクレレンマーを滅ぼし武功を立てればキールは王太子となる。そしてキールは俺の箱庭への不干渉を約束してくれた。なかなか話せる奴だ。
今後は持ちつ持たれつの良好な関係を築けば俺も色々やりやすくなるはず。俺の実力に権力も備わればまさにイキりたい放題だな。うん、俺の未来は明るい。
俺はルンルン気分でオルターナの肩に乗り王都ヨコーセを目指していた。オルターナを操っているのはキールだ。そしてキール自身は俺の箱庭の高級ホテルにいる。憑依中は無防備だからな。箱庭にいるのが一番安全だ。第一王子派だった奴等を警戒して護衛もつけてある。キールにはかすり傷一つ負わせないぜ。
「ジェノスさん、このオルターナ凄くいいですね! 普通に走っているだけなのにもうじきヨコーセに着いちゃいます」
オルターナに憑依したキールは楽しそうだ。声が女性なのは違和感ぱねぇけどな。
「高い運動性をもっているからな。こいつがいれば街一つくらい簡単に壊滅できるぞ」
「あれ? オルターナの索敵に変な反応がありますね」
「変な反応?」
オルターナにそんな機能あったのか。一体どう見えているのか非常に気になるんだが。
「はい。ヨコーセの近辺に強大な反応があります。なぜか点滅してるんですけどどういう意味でしょう?」
反応が点滅?
そもそもそんな仕様知らんからな。しかし強大な反応か……。この強大さが大きさなのか魔力とかレベルとかそういうものなのかもわからんのだが。
「わからん。まぁ行けばわかるだろ。どんな奴だろうとこの俺が潰してやるから心配すんな」
「そ、そうですね。オルターナもありますし、敵じゃないですよね」
まぁ普通ならそうなんだろうな。しかしこういうときってのは何かしらあるもんだ。神様のイタズラかなんなのかは知らんが、そういうフラグってやつがあるんだよな。
ん?
神様……。邪神イヴェル……。
あ、そういえばイヴェルの奴言ってたよな。
『そうだろそうだろ。そのうち箱庭も再現してやるからな。そうだな、災厄の魔神を倒す頃にはできると思うぞ』
で、既に箱庭は再現されていた。しかもイヴェルの奴は災厄の魔神の元凶だ。つまりあいつのさじ加減一つでどこに災厄の魔神が生まれてもおかしくないと。
しかも今度のはとびっきりのだとか言ってたよな。俺の実力を知ってるはずのイヴェルがそこまで言うんだ。相当危険な奴に違いない。
「……なぁ、キールは災厄の魔神って知っているか?」
「ええ、知ってます。大勢の使徒が集まってようやく倒せるヤバい魔神ですね。それがどうかしたんですか?」
「もしかしたらそれかもしれん。ペドラの奴も時期的にもうすぐだとか言っていたからな」
すまんな。真実は話せんのだ。あいつの性格ならやりかねん。ほぼ間違いなく災厄の魔神だろうや。
なんでかって?
その方が面白いから、だ。イヴェルにとってだが。
「ええええええええっ! なんでこんなタイミングなんですか!?」
「世の中の不条理というやつだな。だが俺なら一人でも勝てるかもしれん。お前は様子を見て無理そうなら逃げろ」
どうにもイヴェルは俺と災厄の魔神を戦わせたい感じだったからな。果たしてどんなエグいのが出てくるやら。オルターナが破壊されたらキールがどうなるかわからんからな。もし魂を破壊とかだったら目も当てられんぞ。
「わ、わかりました。そのときは箱庭に避難させてください。で、他の兵士にオルターナを任せます」
「その方がいいな。オルターナの戦力は正直ありがたい」
そのへんの兵士なら死んでも俺は困らんしな。戦争なんだから死ぬこともあるだろう。
「見えてきたぞ。なんか街の前に黒いモヤが集まってるな。いかにもって感じがするぞ」
「な、なんか人型に集まってません?」
黒いモヤは確かに人の形を型作っているようだ。そしてそれは次第に肉となり巨大な人型となっていく。
そして現れたのは一つ目の大きな巨人のようだ。サイクロプスなのかと言われるとそのイメージからは程遠い。
その全身は黒く巨大な目と口を持ち、背中からも腕が生えている。指の先が鋭利な刃物のように尖っており、しかも妙にでかい。全長20メートルくらいはありそうだ。
そして魔神は開口一番とんでもないことを叫びだした。
「うおおおおおっ! ジェノス出てこーーい、ぶっ殺してやる!」
ぶふぉっ!
なんで生まれたての魔神が俺を名指しするんだよ。これ絶対イヴェルの仕業だろうなやっぱり。
「あの、なんで魔神がジェノスさんを名指ししてるんでしょう……?」
「あー、きっと神様のイタズラってやつだろうな」
神様っつーか。邪神な。しゃーない、俺が直々にぶっ殺してやるか。
「多分かなりヤバイ奴だろうから箱庭の中にいろ。んで他の兵士と交代だ」
「そうですね。わかりました」
俺は箱庭への扉を開き、キールの憑依しているオルターナを戻らせた。そして少ししてオルターナが戻って来る。
「ジェノス殿。あのような魔神この私めが倒してご覧に入れましょう。なに、このオルターナがあれば無敵です」
キールの奴なんて言って交代したんだろうな。こいつやる気満々じゃねぇか。あの魔神の力を測るにはちょうどいいかもしれん。
「そうか、では手伝ってくれ。危ないと思ったらサッサと戻れよ?」
「はい、お任せ下さい」
「よし、なら行くぞ」
俺とオルターナは魔神に向かって走り出す。オルターナには既に気づいていると思うんだが無視しているのか?
「おいこらクソ魔神。俺がジェノスだ。来てやったぞ」
「ほう……。お前がジェノスか。なるほど、ゲームのアバターそっくりだな。一緒にいるのはオルターナか。マジであのゲームのチートを持ってるんだな」
ん?
なんでこいつ俺がやってたゲームのアバター知ってるんだよ。もしかしてこいつ転生者か!
しかも俺様最強伝説のプレイヤーなのは間違いない。
「お前、俺を知ってるのか。さては俺様最強伝説のプレイヤーだな?」
「その通りだ。お前が覚えてるかどうかは知らんが俺のハンネを教えてやる。俺の名はタマランチュラだ!」
魔神が興奮して自らの名を明かす。
タマランチュラ……。俺はその名前に聞き覚えがあった。
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