第24話 使徒というもの

「ペドラ、お前には聞かなきゃならんことがある」


 あの後俺は神殿に趣きペドラに面会を求めた。ルルナちゃんは顔も見たくないだろうから別行動だ。


 そして応接室に通され、今俺の眼の前には神官服を着込んだペドラが座っている。もちろんお茶とお茶菓子も用意させた。


「聞きたいこととはなんでしょう?」


 ペドラはもうすっかり俺に対しては敬語で接するようになっていた。ボコボコにしてやったからな。それが普通だ。


「俺は使徒になるとき、邪神イヴェルに他の使徒を殺せと言われた。そして最後に誰が残るかのゲームだと聞いていたんだよ。なのに俺の前のイヴェルの使徒が死んですぐに俺が現れたと言っていたよな? どういうことだよ」

「ええ、確かにジェノスさんの前のイヴェルの使徒は俺が殺しましたよ。今から20年前くらいですかね? もちろん俺が最後に生き残った使徒ってわけでもないです」


 殺した、ってのを顔色一つ変えずに言えるんだな。俺も人のことは言えんが。


 そういやこいつ100年以上生きてるって話だったよな。なんでこいつこんな若々しいんだよ。


「お前何年生きてんだよ。全然歳食ってないじゃないか」

「使徒は不老ですよ。ステータスには載ってませんがね。これでも100歳辺りで数えるの面倒くさくなりましたが160年くらいは生きてますよ」


 至って平静にペドラは語る。使徒が不老なんて聞いてね~ぞ。てことはいつかはルルナちゃんも俺を残して逝ってしまうわけか。切ないな。


「聞いてねぇぞ不老なんて」

「そうなんですね。それと、邪神イヴェルの話したゲームの内容は半分は嘘だと思いますよ。だって、決闘は神聖なものとして推奨されてますが別に殺さなきゃならないわけじゃないですし」


 この世界、リレイダールの情報は自分で確かめろと言われてたな。もしかしてこの嘘込みなのか?


 あんまり気にしてもしょうがないが、なんか気になるんだよな。


「なんのための決闘なんだよ」

「俺はラフティ様からは碌でもない使徒は殺してスキルを奪えばいいけど、まともなのは残してねと言われてます。じゃあそもそもなんのために使徒がいるか、っていう話になるんですけどね」


 イヴェルの話と全然違うじゃねーか。あの神は何考えてんだよ。


「なんのために使徒がいるのかなんて考えたことないぞ。俺は好きに生きろと言われてるしな。で、半分以下嘘というのはどういう意味だ?」

「邪神イヴェルにとってはそういうゲームなんじゃないか、ってことです。あらゆる使徒からスキルを奪えば最強じゃないですか。殺しても次が湧いて来るわけですし、使徒も新人のうちなら大したことはないでしょ」


 理論上可能なのか。仮に次の使徒を用意するにも十年単位の時間が必要なら達成は可能だよな。


「要するに邪神イヴェルが一人でそういうゲームとして遊んでるわけか。他の使徒はどうなんだろうな」

「どうですかね。使徒には頭のおかしい奴もいますけどね。一応使徒にも派閥があるんですよ。俺は戦いの神イシュリムの使徒アルセナ様の派閥ですね」

「派閥があるのかよ。もう一つの派閥はなんだ?」


 もしかして派閥同士で争ってるっていうやつなのか?


「太陽神マクムートの使徒サルカンの派閥です。こいつの派閥には正義の神の使徒ジョー、商売の神アルキンドの使徒ジョアンナがいますがハッキリ言って関わらない方がいいです。ちょっと頭がアレなんで」


 いや、お前も十分頭おかしいと思うんだがな。性的嗜好を満たすためにロリペド族を作る奴に言われるって相当アレなんだろうなきっと。


「邪神イヴェルの使徒はどうだったんだよ」


 俺の前任がこいつに殺されてるんならサルカン派だったのかね。頭のおかしい奴等と一緒にされたくないんだが。


「どちらの派閥にも与してませんでしたよ。なかなか手強かったですが、ジェノスさんに比べたら雑魚でしょうね」

「そうか。なら俺は好きにさせてもらおう。派閥とか興味ねーしな」


 そうか、ならしがらみはないな。ま、前任が誰かなんて知らねーし関係ない話だがな。だから前任がペドラに殺されたのはむしろ感謝しかない。こいつが殺してくれたおかげで俺がこうしてここにいられるわけだからな。


「あー、少なくとも正義の神の使徒は喧嘩売ってくると思いますよ。正義の神は邪神を目の敵にしてますから。実際前もそうでしたし。返り討ちにあって新しく来た使徒がジョーなんですよ。ですのでジェノスさんが派閥に入るならアルセナ派一択ですね」


 正義の使徒だけに邪神の使徒は悪だと言いたいんだろなきっと。それで返り討ちに遭ってりゃ世話ないけどな。


「アルセナが幼女なら味方してやるよ」


 さすがに派閥の頭が幼女はないだろ。遠回しにどっちにも属さないと宣言したつもりだったんだがな。


 世の中の不条理を思い知らされたわ。


「本当ですか!? ありがとうございます。アルセナ様は見た目は完全に幼女ですよ。当然合法ロリです」


 マジかよ。思わず椅子からずり落ちそうになったわ。もしかして使徒ってのは変な奴しかいないんじゃないだろうな?


「マジか……。ま、とりあえずアルセナ派には敵対しないくらいには気をつけてやるよ。見た目が幼女を殺すのはさすがに俺でも無理だわ」


 幼女は世界の宝だからな。たとえ悪でも俺は幼女の味方なのだよ。


「それでだ、使徒の目的ってそもそも何なんだ? なんのための決闘なのかそこがよくわからん」

「使徒の目的はアルセナ様が言うには百年に一度やって来る災いの魔神を倒すためらしいですよ。俺も戦いましたが強かったですね。そういえばもうじきやって来る時期ですよ。この大陸のどこに現れるかはランダムなんですけど」


 そんな災厄があるのに派閥があるのか。全員で協力体制敷かないのかよ。ま、こいつでも戦えてるなら俺なら一人で勝てるかもしれんな。つまりはその程度の存在ということだろう。


「そうなのか。まぁ、見かけたら俺がぶっ殺しておいてやるよ。しかしなんで派閥なんかあるんだか」

「ああ、それはですね。サルカンがアルセナ様を手籠めにしようとして返り討ちにあったからですかね? しかも決闘じゃなく夜這い仕掛けたらしいですよ。それ以来アルセナ様がサルカンを嫌っててサルカンはなんとしてもモノにしたいというのが原因ですかね? それでサルカンの擁護派と非難派に分かれたのが由来です」


 ……この世界の使徒は碌な奴がいない事だけは理解したわ。

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