第14話
ある日のことだった。
通帳とカードが、送られてきたのだ。
口座の名義は倉山彩梨(くらやまさいり)。それは確かに自分の名前だった。
けれどおかしかった。新しく口座を作った覚えはなかった。
登録住所は現住所で、年齢性別、どれも正しかったし、登録支店はすぐ近くのところで、何も不自然ではなかった。
口座の中には、五千万円が入っていた。
それはまるで、カラカラに乾ききった広大な砂漠のど真ん中にぽつんと落ちてきた一滴の水みたいだった。
彩梨は決めたのだ。
疑念を持たず、その一滴を受け入れた。
私はこの口座を作った覚えはありません、なんて、銀行に問い合わせることをしなかった。
このお金、明らかに私の物ではないのですがどうしたらいいのでしょう、なんて、警察や役所に尋ねてみることもしなかった。
受け取ったのだ。全てを。
彩梨はすぐに行動に出た。仕事を辞め、彼氏と別れた。
この五千万円があったら、望みが手に入ることは容易に想像がついた。
それはつまり、自分が自分のためだけに生きる丁寧な暮らし。
痛みなく苦しみなく、淡々と。
その道へと、一歩を踏み出したのだった。それが、彩梨が二十五歳、八月の出来事。
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