第Ⅴ話 妖精の森、隣人の家
声を掛ける勇気を出すため、お弁当の入ったカバンを握りしめる。
「……あの、これからどこへ」
「森を抜ける」
答えが返ってこない。折角声を絞り出せたというのに。
門を出てから、僕は、先生と一度も会話をしていない。
「銀糸」そう呼ばれていた使用人が綺麗にお辞儀をして送り出してくれたのを思い出す。
――「いってらっしゃいませ……」
全くという程、僕はどこに行くのか分からないでいる。
沈黙のまま黙々と脚を動かして暫く。僕たちは森の入口に着いていた。
今までは全く木なんて生えていなかったし、なんだか急に現れたみたいだった。
「――…………
入る寸前、先生が何やら呟き始めた。
ふわり、と優しい風が吹いて花びらが頬に触れた。
その風も、花も。自然に吹いて来た物とは全く違ったのに気付く。
「っ?!」
「
私と先生を、紫の小さな花と
「無知なる我らを送り届けよ______」
巡り巡って、碧の光が僕と先生を包んで、次第に淡く空へ消えていく。
「…………
「……ぁ……………」
呆気に囚われていたところを現実に引き戻され、僕は、
森に入って、すぐに気付いたこと。
――『見てみて、』
――『私たちの
――『やっぱり綺麗だわ』
「……」
ここには沢山の妖精が住んでいるらしい。
そして、何故かそれを、まるで日常であるかのように心を落ち着かせている自分がいる。
――『ねえ、
「わっ……」
――『まあ! 驚いた顔も可愛いのね!
「レイラ……?」
「もう一つのお前の呼名だ」
「!!……せ、んせ」
先生はいつの間にか私と妖精らしきそれ達との間に入り込み、壁になっていた。
――『!!
「……」
「この男はお前たちの
――『チッ……ボロ布のクセに…………どうせすぐに、お前から逃げてしまうわ!』
「……行くぞ」
「! ……は、はい!」
◇
先生と私は、歩き続けて、いつの間にか横を見れば湖が木々の間から覗いていた。
というところを通っているらしい。
……それよりも
「……」
僕は、コッチの世界を何も
――『ま……貴方がウワサ
――『こんな歳までよく生きていたわね……抱きしめてあげる』
「っ……!?」
「なッ……」
僕は腕を引かれ、二人の間に抱き留められた。一瞬で先生から引き離された。
――『
――『この子から
――『『図々しいにも、程があってよ……?』』
他の妖精より、僕よりもはるかに大きな二人の妖精は僕を胸で挟んだまま、蹴落とすような地を這う声で、先生を威圧した途端、風が吹く。
……潮の、匂い…………? いや、違う?
――『『ねぇ、ミラ?』』
「……」
ああ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます