必ず儲かる投資があります

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プロローグ

 佐多島周助さたじましゅうすけが困惑していたのは、ポストに入っていた黒い封筒を見たからだった。

 差出人も宛先もない、真っ黒な封筒。ダイレクトメールの類とも思えないし、誰かのいたずらとも思えない。

 周助はひとまず、部屋に持ち帰ることにした。

 川崎市の築年数の古い、ワンルームマンション。家賃は月に4万円で、当然ユニットバスだ。

 部屋は、備え付けのクローゼットにベッドと机があるだけの殺風景なものだった。一番高級なのは、机の上のモニタと、足元にある型落ちのデスクトップパソコンとなる。もしくは格安スマートフォン。キッチンが別なのはマシか。

 それよりも、この封筒はなんなのかと思う。

 漫画や小説にあるような、デスゲームの誘いでもあるのだろうかと思う。そんな雰囲気だ。

 確かに周助は、今年30歳になるにもかかわらず、就職をしたことがない。無職とは言わないが、ずっとフリーターである。年収も低い。


 高校を卒業後、色々とアルバイトをこなした結果、落ち着いたのはコンビニの店員だ。年々、システムが複雑になり、やらなければいけない業務の量が増えているとはいえ、コンビニは無数にあるし、競合店に変わってもやることは基本的に同じだった。よって、不況になっても仕事が無いということはないはずだ……という考えなのである。

 こんな底辺の生活だから、人生を変えられるという誘いがある可能性もゼロではないと考えてしまう。しかし、デスゲームなどというものはフィクションの世界なのである。現実にそんなことがあるはずがない。


 周助はそう思いながら、黒い封筒を開封した。

 そこには、1枚の手紙が折りたたまれていた。


「はあ?」


 誰もいない部屋で、つい声を上げてしまった。

 まさか、『必ず儲かる投資』の誘いとは思わなかった。

 どうやら自分は選ばれたらしい。

 この投資は100万円が1年で3倍…つまり、100万円が300万円になるらしい。

 そんなバカなことがあるはずはないと思った周助だったが、もし詐欺であるのなら、もっと巧妙な手紙を送ってくるのではないだろうか?とも思う。封筒に入っていたのはこの手紙だけであり、これだけ資産が増えましたとか、海外旅行をしている写真とか、そういった豪華なパンフレットはなにもない。

 そして、高額なセミナーを受講する必要も、高額な情報商材を買う必要もないとのことだ。


 周助が考える投資といえば、株や為替が思い浮かべられる。もちろん、調べるのは面倒だし、難しそうなので手を出そうと考えたことはない。

 コンビニで長いキャリアを持っている周助は、色々なアルバイトと出会ってきた。出入りの激しい業界なので、新しい人は頻繁にやってくる。

 数年前に、同僚の茶髪のチャラチャラした若者とこんなやりとりをしたことを思い出す。


「サタジマサン、株ってやってますー?」

「よくわからないし、手を出したことはないね」

「サタジマサンもやっといたほうがいーっすよ!長期的に見れば、増えていくんすよ。財産築きましょうよ!」

「でもさ、資金もないし」

「そこは大丈夫っす!最近『ミニ株』ってのがあって、1/10の料金でも買えるんですよ」


 その話を聞いた周助は、そんな資金でどうやって財産を築くのかと思う。1億円が1億1000万円になるなら熱いが、10万円が11万円になって嬉しいものなのだろうかと。

 周助は丁寧にはぐらかせた。

 彼がその後どうなったかはわからない。仕事についていけずに1ヶ月も経たずに辞めてしまったからだ。


 次に、為替の話を思い出した。15歳ほど年上の真面目そうな男からだった。

 彼がアルバイトにやってきたのは、会社をリストラされたからとのことだ。陽気な性格ではないが、仕事はしっかりと覚えてくれ、真面目な男だった。


「佐多島さん、FXって知ってます?」


 確か、そんな話を振られた。


「ドル円とかユーロ円とか、有名なのは数個なんで、株みたいに銘柄を選ぶ必要がないんですよ。そこがいいんですよね」


 彼が言うには、為替は24時間、市場があいているため、仕事をしていない時間でもトレードができるのがいいらしい。レバレッジも大きくかけられるため、100万円が一晩で倍になることもあるそうだ。

 周助は追求しなかったが、一晩で倍になるならゼロになることもあるのではないか?と思った。

 実際、彼とそんな話をした直後に権力者の発言で為替が大きく動いた。その直後にアルバイトをやめてしまったので彼がどうなったのかはわからないが、大金を得てリタイアということは無さそうだ。


 インターネットの掲示板やSNSでも、勝ち組や負け組が続々と出ている。10万円を数億円にし、急落して破産した者だっている。

 正直なところ、勝ち組はどうでもいい。どうしても嫉妬してしまうので、見たくない。

 だが、負け組の話は別だ。

 周助は大昔からインターネットの掲示板を見ているが、たまにSNSの負け組の話でスレッドが立つことがある。そういうものを見るのが好きだ。


「それにしても……」


 周助は、どいつもこいつも、投資に手を出すものなんだなと思う。確かにお金は欲しいし、汗水たらして働いても自分の環境から金持ちになることは不可能だろう。かといって勉強をするのは面倒だし、資格を取って就職ということも難しい。おまけに、30歳になり、今後は就職の選択肢も減っていくだろう。

 そう考えると、この手紙を信じたくもなる。1年に3倍というのが本当であれば、生活が激的に変わる。

 100万円であれば、なんとかある。この金額は彼が出せる限界といったところだ。

 いや、そんな表現のお金ではない。10年でなんとか貯めた全財産である。


 手紙の下のほうを見ると『サラマンダー・エクスプレス』という会社の主催らしい。

 聞いたことがないのでインターネットで検索をしてみると、確かに実在していた。創業10年ぐらいの中小企業で『商社』らしい。商社というのが何をやっているのかがよくわからないので調べてみると、企業が欲しがっているものを仕入れて売るような内容とのことだ。

 欲しがっているものというのは、国内で手に入るものとは限らず、海外から仕入れることもあるようだ。

 サラマンダーというのは架空のドラゴンである。この竜のように早く仕入れて届けるというようなネーミングに見えるが、この竜は速いのか?と思う。よくわからない。もっと有名な速いドラゴンのほうが良かったのではないか?とも思う。

 なんにせよ、興味を持った周助は、話ぐらいは聞いてみようと思い、メールで問い合わせをしてみることにした。


 返事はすぐにきた。

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