第12話 番外とある女の子の日記帳

この日記帳を受け取った日を俺はよく覚えていない。それは単になんでも無い快晴の日だったからか。はたまたその日記帳の言葉一つ一つに心奪われたせいか。果たして俺には分からない。


まなこ瞳。16歳

 「恋について語れることはあまり多くないです。好きになることが多かった人生です。初恋は幼稚園の先生、あなたに好かれるために私なんでもした、生け垣に受精したツツジの花を全て刈り取ったのはごめんなさい私でした。だってあなたがすきだったから次に好きになったのはクラスのあの子でした、顔が整っていたので好きでした、でもバレたら恥ずかしいので少しだけそっけなく接しちゃいました、ごめんね。

小学校では学年が一つ上がるごとに好きな人が変わりました、一年間限定の片思い、中学でも高校でもそう。でも全部私の大切な人なんです。

だからというわけでは無いけれど片思いに疲れちゃったのかなとも思う。

あなたに告白した理由。

好きだと思った。好きだから一緒にいたいし離れたく無いし出来れば相手にも自分を好きになって欲しい、もちろんこんな気持ちはエゴで自分勝手な独りよがりだってことも分かってて、でも心のどこかでそれをしなきゃ自分の為にならないっていう、ある種の自己中心的だけの部分がある。言い訳しようと思えばいくらでも相手を慮った言葉が出てくるのだけれどそれは全部建前で本当は自分がただ気持ちよく生きていきたいがための言い訳に過ぎないんだ。それも分かってる。きっと相手も薄々気づくものだと思う。吐き出した言葉って飲み込めないからさ。ちょっと突き進んじゃった。妙な駆け引きとか相手の出方を伺うみたいな事もしようと思えば出来たのかな、いや、無理か。私は百戦錬磨じゃ無い。別に可愛いわけでもかっこいいわけでも、ましてや性格がいいわけでも無い。だからさ好きという気持ちを押し付けてみた、一方的に。嫌われちゃったらどうしようかな、それは怖いな。

と。

なんてのは日記だって分かってる。全部わかってるの私。だから辛い、ねぇ早く返事してよ無視しないでよ。なんで黙ってるの。

そんな1日


ねぇ私のどこがダメだったのかな、私じゃあなたの不安を埋められなかった?あなたにとって私ってなんだったんだろうって。思った。あなたと過ごした時間大好きだった、映画を観て隣で泣くあなたが映画の主人公なんかよりずっと魅力的で、切なかった。あなたがくれた言葉、仕草全部が好きでした。ねぇこっち見てよ。私のこともっと見て。好きだと言ったのにあなた否定も肯定もしなかった、それってずるいと思わない?だから早とちりしちゃった。あなたが期待させたから私また間違えちゃった。あなたのせいよ?責任とってよ。私の事どう思ってる?嘘よ。嫌いって言ってよ嫌ってよ、二度と会いたく無いとか顔も見たく無いって言ってよ。嘘でもいい冗談でもいい下手くそでも棒読みでもなんでもいい。お願い

私を突き放して。

友達でいようなんて、ふざけないで

私は友達以上を望んでいるのよ。なんで友達でいようなんて残酷な事言えるの。

恋人として見てよ。私をあなたの恋人に、隣にしてよ。

あなたが望む余裕も私なら与えてあげられる。あげるからさ。考え直してよ。お願い。

そんな生殺しは傲慢よ、あなた私がどれだけ勇気を出したと思ってるの、いいえ分かっていないわ全くこれっぽっちも。一日中悩んだわ、いいえあなたを初めて好きと思ったその瞬間から私ずっと悩んでた。今か今かと、勇気なんていくらあっても足りなかったから送信ボタンは重力で押したわ。それくらいなの。あなたが好き。

でも、貴方を困らせるつもりはなかった。ごめんね。嫌な思いもこんな私のために心を痛めて欲しくなかった。出来ることなら私が我慢するべきだって分かってる。

分かって…。」


ところどころ滲んだボールペンの文字は情景を写すのに全く過不足なくありありと物語っており、ついにそのあとの文字は判別できないほどに掠れていた。それはきっと。いやあえて語るべくも無い。

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