旅シリーズ5 韓国城めぐり 修正版

飛鳥竜二

第1話 1~2日目 ソウル城郭めぐり 修正版

※この小説は「韓国城めぐり」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


トラベル小説


 南フランスをいっしょに旅をした木村くんから連絡があり、今度は韓国の城めぐりをすることにした。11月に講師の仕事があき、1週間の休みがとれるということで、インチョン空港集合とした。

 私の地元からだと夕方着なので、その日はソウル泊まりにした。韓国には20年前に仕事の関係で何度も出張で来ていたので土地勘がある。市庁裏の2つ星ホテルに泊まることにした。高速鉄道でソウル駅まで行き、そこから地下鉄で市庁まで行く。そこから歩いて5分ほどでホテルに入ることができた。ビジネスマンでいっぱいの地下鉄でスーツケースを引っ張って歩くのは大変だった。

 今回の旅でネックになったのは、ホテルをどうするかであった。1週間の間スーツケースを持って移動するのは困難だ。ホテルを転々として、そこから城めぐりをするのも効率が悪い。レンタカーを借りることも考えたが、渋滞や交通事情の悪さを考えると韓国で運転はしたくない。移動はほとんどがバスもしくはタクシー。そこで旅の前半はソウルを基点にし、後半は釜山(プサン)を本拠にすることにした。夜行バスを使うので、ホテルの部屋に泊まらない日もでてくるが、1泊1万円の部屋で一人5千円の荷物置き代と割り切ればいいと考えたのである。

 夕食は、お気に入りのトンモクサルにした。地下鉄で新設洞(シンサルドン)まで行き、肉典食堂(ユックジョンシックダン)に木村くんを連れていった。豚のあご肉の焼肉である。日本でいうとトントロなのだが、厚みが違う。調理はスタッフが目の前でやってくれる。一口サイズに切ってもらってOKがでる。私は何度か食べているが、木村くんは初めてなので感激して食べていた。

「これって、焼肉のイメージ変わりますよね」

 と喜んでいる。

 翌日の朝食はホテル近くのプゴクッチブへ行った。人気の店で行列ができている。地元民ご用達の干しダラのスープの店である。二日酔いにいい朝食と言われている。食べ放題なので、木村くんはお代わりをしていた。私は付け合わせのナムルが大好きで、それをライスにかけて食べていた。もちろんスープもおいしい。おすすめの店である。

 その後、ホテルにもどり、リュックにドリンクや着替えをいれて出かけた。午前中の目的は大学道(テハンノ)である。そこから階段や坂道を上って城郭まで歩く。城郭沿いに東大門(トンデムン)まで歩くコースである。城郭は全て歩くと18kmあるとのこと。今日はそのうちのわずか2kmのコースである。

 大学路は学生の街であり、芸術家の街でもある。城郭に登る階段全体に川を泳ぐ鯉が描かれている。離れて見ると、鯉の滝登りに見える。そこを登ると、建物の壁や道路沿いに壁画や現代アートが展示されている。それぞれ足を止めて見るべく価値のある芸術品だ。ある建物の壁に描かれている天使の羽の前には観光客が列を作っている。手を広げて前に立つと、イカロスの羽のごとく写真におさまるのである。

 城郭沿いの道に出た。城壁が2m以上の高さのところもあれば、1mほどの高さのところもある。李氏朝鮮時代に兵士が実際に歩いたであろう場所に木村くんは興奮をしていたが、見える景色はビルばかり。城めぐりとしては今ひとつである。

 1時間ほど歩いて東大門にでた。周りはロータリー形式になっており、渡るのは結構大変だ。短い青信号で急いで渡る。大門とはいうものの南大門(ナンデムン)の半分ぐらいの大きさしかない。南大門は、昨日ソウル駅から見えたが2008年に火災に遭い修復されたものである。古さは感じない。それに比べたら東大門は当時の様子を残している。木村くんは、初めて見るので興奮しているが、私は水原(スォン)の長安門の方が印象的だ。

 昼食は広蔵市場(カンジャンシジャン)のユッケ通りに行った。日本では食べられなくなった生のユッケがここでは食べられる。タコとユッケを頼むと、ユッケの上にタコのぶつぎりが並んでいる。まだ足が動いている。踊り食いだ。木村くんは素っ頓狂な声を上げて食べている。お店のスタッフも笑いながら見ている。木村君の飾らない姿はいっしょに旅をしていて楽しい。

 一度ホテルにもどり、シャワーをあび着替えをして、午後の目的地、幸州山城(ヘジュサンソン)に向かった。ここは、インチョン空港からソウルに向かう途中、左に見える城跡である。かつてから気になっていた城跡だったが、なかなか行く機会がなくて私も初めて行くところである。

 ソウル駅から京義中央線に乗り、陵谷(ヌンゴク)駅で降りる。そこでタクシーに乗り、プリントした幸州山城の地図を見せて行ってもらう。下手な韓国語を使うよりよっぽど伝えやすい。500円ほどで目的地に着いた。小高い山の中腹に入り口があった。関係者はクルマで登れそうだが、タクシーはここまでということだった。(そう言っているように見えた)

 入城チケットを買って、坂道を歩き始める。歩道はすべて舗装されており、昔の雰囲気はない。ここは文禄・慶長の役の際、3万の秀吉軍が攻めたところだが、クォン将軍率いる朝鮮軍と民兵・僧兵2300人が戦い、日本軍が敗走したとレリーフに書かれている。歴史上、この敗戦が秀吉軍の敗走の第一歩だったわけである。ただ兵の数については、あてにならない。今までも誇大な数字に惑わされたことが多々あったからである。でも、急峻な山は守りやすく攻めにくい城であることには変わらない。秀吉軍得意の兵糧攻めができなかったことが、外地での戦いの困難さだったのだろう。少し歩くと分かれ道があり、右は舗装路、左は土塁コースで砂利道である。迷わず土塁コースをとった。

 初めは土塁の下を歩く。攻める秀吉軍の立場である。10m以上の高さの土塁に囲まれ、弓矢や投石の的になる。身を守るものはほとんどない。これではたまらない。20分ほど登ると見晴らしがよくなった。土塁の上というか尾根の部分に入り、ふもとが見えるようになった。遠くに漢江(ハンガン)が見える。インチョン空港からソウルに向かう高速鉄道や高速道路も見える。あたり一面がよく見える。これなら秀吉軍の動きがまるわかりだ。

 そこからは李氏朝鮮時代の建物が並んでいる。朝鮮戦争で破壊されたということで、全て復元されたものである。博物館に入ると、昔の武器等が展示されている。中に20本ほどの矢が一度に発射できる連弩があった。後で調べてみると故障が多く実用的ではなかったようだ。

 ミニシアターがあり、秀吉軍との戦いの様子が上映されていた。秀吉軍が陳腐な姿で表現されているのには笑うしかなかったが、朝鮮の人々が協力して戦う様子には必死さが伝わってきた。特に女性たちが前かけに石を入れて運んでいる様子には驚いた。女性が戦場に出るというイメージがなかったからである。こういうところが韓国女性の強さなのかもしれない。

 2時間ほど歩いて、駐車場にもどってきた。タクシーを拾おうと思ったが、来る気配はない。観光シーズンなのだが、平日では無理なのか。しかたなくバス停でマウルバス(地域周回バス)を待つことにした。バスかタクシーが早い方に乗ることにした。バス停には時刻表がない。地元の人はスマホとかで情報を得るのだろうが、我々にはその術(すべ)はない。

 バス停の近くに異様な物があった。アメリカ軍の水陸両用戦闘車が置いてあったのである。いわゆる上陸舟艇である。車の先端には大きな口が描かれた一種のオブジェである。韓国内を歩いていると、時々こういう朝鮮戦争時代の物が置かれている。韓国民にとっては、もっとも記憶に残っている戦争なのだ。

 マウルバスがやってきた。持っていたTマニーカードでピッとのる。木村くんには妻が使っていたカードを渡してある。日本でいうスイカカードみたいな交通カードだ。これでソウル市内と近郊の電車・バス・タクシーが乗れる。それに多くのところで買い物もできる。便利なカードだ。

 マウルバスがどこへ行くかわからないが、どこかの駅には行くだろうと思い、周りの景色を見ていた。近代的な高層マンションのそばに青い屋根の民家があり、狭い畑がある。典型的な田舎の風景だ。あと10年もすれば、こういう景色は見られなくなるだろう。

 20分ほどで鉄道が見えてきて、駅が近くなった。地下鉄3号線の地上部分の花井(ファジョン)駅に到着した。新しい駅で、地下鉄なのに普通の駅舎なので違和感がある。この3号線はソウルを縦断する路線で、やたらと長い。オレンジ色の車両ですごく目立つ。

 ホテルにもどる前に南大門に立ち寄る。遠くから見ただけでは片手落ちだ。火災の後に復元されたので古さは全く感じない。なんかけばけばしい感じがする。日本の安土桃山時代と同じ時期だから無理もないかもしれない。こういう文化が日本に伝わった可能性もある。

 夕食は南大門市場(ナンデムンシジャン)のカルグクス通りに行った。韓国うどんのお店屋さんが10軒以上連なっている。その中の1軒のカウンター席に座り、カルグクスとビビンバを注文した。値段は800円ほど。リーズナブルだ。まさに庶民の味だ。最初にでてきたキムチがあっさりした味でおいしい。浅漬けのキムチは日本人に合う。でも、周りにいるのは韓国人らしき人ばかり。観光客は我々だけのようだ。

 カルグクスは鍋ごと煮込むので、煮込みうどんに似ている。鶏白湯の味がしておいしい。完食してもいいかなと思ったが、残すのがマナーだと知っているので少し残した。ビビンバは完食した。するとおかみさんが

「サービス」

 と言って、小さな丼に入ったものを差し出した。冷麺である。木村くんと顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。あったかいカルグクスの後に冷麺。おもしろい組み合わせと思った。冷麺の味はそれなりだった。

「マシッソヨ」(おいしかったよ)

 という言葉を発したら、おかみさんはにっこりしていた。

 2日目終了。

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