どうやら私は乙女ゲームの聖女に転生した・・・らしい

白雪の雫

ライムミントside







「マリーローズ!ガニメデス王国が認めた聖女であるライムミントに対して罵詈雑言を浴びせただけではなく、命まで奪おうとしたそうだな!お前のような女を妃に迎える訳にはいかないし王妃になるなど民は納得せぬだろう!マリーローズ、お前との婚約を破棄する!」


 調査の結果、オノコスキー公爵令嬢による聖女に対する嫌がらせという言葉が可愛く感じる殺人未遂が真実だった事が分かったので王太子の婚約者だった彼女は国外追放。


 実家のオノコスキー公爵家は責任を取る形で伯爵に降爵となり、晴れてライムミントは王太子と華燭の典を挙げるのだった───。



 女の脳裡に過るのは、婚約者に対して断言した金髪碧眼の男性及び緑とか青とかの髪のイケメン達に守られる一人の美少女と、そんな彼等を睨みつける目つきは鋭いが美人である事が伺えるオノコスキー公爵令嬢の姿だった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「この場面って確か王太子による婚約者の断罪から聖女にして王太子妃誕生へと続くシーン・・・だっけ?」


 異世界転生ってネット小説とかで見るけど、我が身にそれが起こるなど夢にも思わなかった。


 鏡に映る自分の姿を目にしたと同時に前世を思い出し、ゲームではライムミントと呼ばれていた少女は頭を抱える。


 どうやら自分は【聖なる箱庭】という18禁な乙女ゲームの世界に転生した聖女・・・らしい。


 らしい。と思うのはヒロインのライムミントがオッドアイの超美少女だった事だけは覚えているが、ゲームの内容を余り覚えていないからだ。


「そもそも私は某A級スナイパーのように身体能力に秀でていて男の哀愁を漂わせているゴリマッチョが好みで、このゲームも一応プレイしたけど、恋愛よりヒロインの育成の方が楽しかったのよ。乙女ゲームに出てきた登場人物・・・というか攻略対象者って好みじゃないから全然名前を覚えてないのよね~。声優さんは分かるんだけどさ」


 というより攻略対象者を『赤』や『緑』という風に髪の毛の色で呼んでいたくらいだ。


 そんな彼女の前世は安西 優子という。


 兄弟が居なかったのに少女漫画より少年漫画を読んでいた小中学校時代(おかげで中二病を患っていたと同時にオタクでもあった。オタクである事を舐められない為に身体を鍛えた結果、柔道や空手などの有段者になった)、広く浅く色んなゲームをプレイしたり、BLにはまったり、同人誌即売会ではコスプレしていた学生時代、旦那と浮気相手から相場以上の慰謝料ガッポリ&株とかFXとかで大金を稼いでいたバツイチシンママな元日本人だった女が異世界・・・それも乙女ゲームっぽい世界にヒロインとして転生したのは罰ゲーム以外の何物でもない。


「ゲームのタイトルは【聖なる箱庭】だけどさ・・・・・・要するにこのゲームのストーリーを一言で言い表すとしたら、ヒロインが婚約者のいる男に言い寄る→でもって赤とか緑とかがヒロインを暴行したとか言いがかりをつけて婚約者を断罪する→ヒロインは攻略対象者達に囲まれて逆ハーを作るんだよね~」


 ヒロインは攻略対象者達と、やる事やっているから子供が出来るんだけどさ・・・


 ヒロインが産まれたばかりの赤ちゃんを抱いている時の攻略対象者達のセリフ・・・



『『『『初めまして、私(僕)達が君のお父様だよ』』』』



 あれは本気と書いてマジと読むレベルどころか頭のネジが全部取れちゃったレベルなんじゃねぇ?


 おまっ!


 父親が誰だか分からないのに(四人のうちの誰かである事は確かだが)そんなセリフが出るなんて正気じゃねぇーーーっ!!!


 これがヒロイン補正って奴なの!?


 ゲームなのに思わず身体を震わせながらツッコミ入れたわ!!!



 何を思って製作者はこんなタイトルにしたんだ!?


 逆ハーエンドを達成したヒロインが攻略対象者達に囲われるからなのか!?


 ゲームでは悪女とか悪役令嬢に位置付けられている婚約者達(顔は何となく覚えているが名前は覚えていない)の言っている事って正しいんだよね


 恋愛スイーツ脳な攻略対象者達を担当した声優さん達も仕事だと割り切って演じていたんだろうな~



 色々思うところはあるが転生しちゃったものは仕方ない。


 幸いな事に今の私はまだ五歳にもなっていない子供。ゲームが始まるまで十年以上の時間がある。


 ビッチエンド・・・ではなく逆ハーエンドを回避するべく、ライムミントは乙女ゲームに似た世界で生きて行く術を身に付ける事にした。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 十年後

 何とかという薬で子供になった少年探偵が掛けている眼鏡はマップ機能があるが、世界観は中世から近代ヨーロッパ辺りなのに魔法のおかげで文明が二十一世並みに進んでいるという実にご都合主義な乙女ゲームの世界。


 己の魔力を抑える瓶底黒メガネを作って貰いそれを日常的にかける事で、また三つ編みという陰キャに扮していたからなのか、十歳になったら教会で魔力測定を受けたライムミントは聖女に認定されなかった。


 教会に引き取られなかったおかげでライムミントはこの世界の常識だけではなく、貴族令嬢に必要な教養に知識、礼儀作法に淑女の嗜みに振る舞い等を学ぶ事が出来た。


 そんなライムミントだが、実は貴族子女は学園に通わないといけないという決まりがあった。


 乙女ゲームのヒロインって庶民・・・というか平民、或いは男爵か子爵令嬢というのがお約束だと思っていたのだけど・・・。


 ヒロインが伯爵令嬢というのはありなのだろうか?


(もしかしたら私が知らないだけで、伯爵令嬢がヒロインの乙女ゲームがあったのかも知れないわね・・・)


 ともかく、決まりに従いライムミントは乙女ゲームの舞台となる王立学園に通う事になるのだが、ゲームではヒロインの命を奪おうとする悪女というか悪役令嬢のマリーローズが婚約者を含む攻略対象者達に囲まれているところを何度も目にするのも、学園を卒業した彼女が他国のゴリマッチョ(攻略対象者達とは異なるタイプの、ゲームには出ていないイケメン)と夫婦になるのは別の話。






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