第44話 おじさん。女子高生とおサボりする。

 

 りんごがショートカットになっていた。

 前の長い髪も良かったけれど、ショートも似合っている。うなじの辺りはスッキリすいていて、スポーツ少女っぽい。


 でも、こんなにバッサリいっちゃって。

 何かあったのかな。


 失恋? 

 好きな相手ができたとか?


 おれは冷静を装って聞いた。


 「似合ってるね。でも、何か心境の変化?」


 すると、りんごは俺の腕に抱きついてきた。


 「あれっ。もしかしたら、ちょっとはヤキモチやいてくれました?」


 「そりゃあね」


 「安心してください。わたしのはじめては、郁人さんって決めてるんです。心配ならキスマークつけます?」


 りんごは冗談のつもりだろうけれど、俺は自分を棚上げしてやきもちをやいてしまったらしい。心の中がゾワゾワして、居ても立っても居られないような感覚。久しぶりだ。

 


 りんごを抱きしめる。

 そして、上着のジッパーをさげると、胸元にキスをしてチューと吸った。


 すると、りんごは、逃げるように肩をすくめた。


 「あん……。くすぐったいよ」


 「りんごが、妬かせるからだよ」


 「えへへ。あのね。綾乃ちゃんも瑠衣さんも、みんな髪の毛長いから、個性出したいなって」


 俺はりんごの頭を撫でた。



 風呂は入ってベッドに入る。

 少し本を読んだのだが、アルコールが入ってるせいか、あまり集中できなかった。


 寝ようかと電気をけす。


 (コンコン)

 ドアがノックされた。


 ドアをあけると、りんごだった。

 りんごは、大きな猫の抱き枕をかかえて、ドアの前に立っていた。


 「なんだかお父さんのこと思い出したら、寂しくって。一緒に寝ていいですか?」


 俺が頷くと、りんごは笑顔になって、ベッドに潜り込んできた。頭を撫でて欲しいらしく、俺の手首を掴んで頭の方に誘導された。


 りんごを抱きしめた。

 不思議と性欲は感じなかった。


 それからは、九条との思い出話を聞かせてもらったり、俺が知っている九条とカオルの話しなどをして過ごした。りんごが知らない話もあったようで、幸せそうな顔をしていた。


 りんごは九条のことを、思い出にできているようだ。

 思い出せるということは、少しずつでも整理できているということだろう。よかった。


 俺が話した中でも、ずっと前に、俺がカオルにフラれた話がお気に召したらしい。過去の失恋話を人にするのって、なんか失恋の二次被害にあってる気分だな。


 話を聞き終えると、りんごは言った。


 「郁人さん。わたしとエッチするとき、ママのこと思い出したらイヤですよ?」


 りんごとカオルはよく似ている。


 りんごをカオルの代わりと考えたことはなかったが、「確かに」と思った。むろん、そんな事はしない。


 おれは、りんご自身を気に入ってるのだ。

 カオルのことを思い出したら、むしろ、萎えると思う。


 りんごと九条の話をするのは楽しかった。

 俺も久しぶりに親友に会えたような気分だった。


 気づけば、りんごは寝息をたてていた。

 りんごの可愛い寝顔を眺めていたら、りんごの口がむにゃむにゃと動いた。


 「……パパ」


 りんごは幸せそうな顔をしている。

 夢の中で九条と会えているのだろうか。

 

 いつのまにか、りんごを抱きしめたまま寝てしまった。



 次の日、雀の鳴き声で目覚めた。

 

 ずいぶん寝てしまった気がする。

 時計をみると、朝の8時半だった。


 あーあ。やっちまった。


 おれもりんごも到底間に合わない時間だ。

 りんごは確か午前授業と言っていた。


 今さら行っても、あまり意味はないだろう。

 俺も今日はアポはないし、問題はないかな。

 

 それに、りんごの幸せそうな寝顔をみると、起こすのはかわいそうに感じた。


 俺は会社とりんごの学校にメールをした。

 今日は2人でおサボりだ。


 ん。そういえば。

 つむぎは? あいつも学校いってないんじゃ?


 俺がつむぎの部屋に行こうと身体を起こすと、サイドテーブルにメモが置いてあった。

 

 「初夜の余韻を邪魔するような無粋な真似はしたくないからな。我は1人で学校にいくぞ。りんご姫を頼む。つむぎ」


 なんだか感違いしているようだが、学校に行ってくれたようで良かった。


 すると、りんごが起きた。

 寝ぼけ眼を擦っている。


 「おはよぅ。あーっ!! 学校寝坊しちゃった。大変」


 俺が欠席の連絡をしたというと、安心したようだ。りんごは、悪戯っ子の目になった。


 「わたし、この服の中に何も着ていないんです。…触ってみる?」


 俺は昨日、りんごを幸せにするという誓いを思い出したばかりなのだ。さすがに、今日は揉めない。


 「18まで楽しみにとっておくよ。それよりも、どこか行きたいところはない?」


 せっかくのおサボり休日だ。

 いつも家のことを頑張ってくれてるりんごに、息抜きさせたい。


 りんごは、少し考えると、こういった。


 「わたし、遊園地にいきたい。これくらいの季節になると、お父さんが連れて行ってくれてたんです」


 

 午後から下町にある遊園地に行くことにした。

 

 お目当ての遊園地につくと、りんごが手を繋いできた。いつもの恋人繋ぎではなく、握手のような繋ぎ方だ。


 ……今日の俺は、パパ役らしい。

 下心を出さずに、役目を果たそうと思う。


 まずは、ゆらゆらと揺れる家のアトラクションに乗った。これは、家の方がグルングルンまわることで、お客さんに自分が回っていると感違いさせるアトラクションだ。

 

 満喫した、と言いたいところだが、激しく酔ってしまった。昔はこういうの得意だったんだけどな。

 

 おじさんは、こういうのは苦手らしい。

 すると、りんごは俺のことを指差して笑っている。


 そのあとは、射撃をした。

 俺が撃つ係だ。りんごが、ターゲットの選定と指示を担当する。俺がマトをらずすと、りんごが口を開いた。


 「パパ!! あれ狙って!!  ……あっ、ごめんなさい。郁人さん」


 俺はりんごが指差したぬいぐるみを狙う。

 今日の俺は、やはり「パパ」らしい。


 だから、りんごの頭を撫でる。

 すると、りんごはくすぐったそうな顔をして口を綻ばせた。

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