第9話 おじさんと女子大生②


 「かんぱーい」


 そういうと、綾乃はドリンクを飲み干す。

 俺はシラフだからね。正直、そろそろ帰りたいんだが。


 綾乃は、学校のことや家族のこと、高校の時のことなんかを話してくれる。それと、このバイトのことも。綾乃の大学は公立だが、自分で家賃や学費を負担しているらしく、割のいいバイトとして始めたらしい。


 たしかに、勉強時間を確保しつつ、学費や生活費を自分で出すのは、並大抵のことじゃない。普通のバイトでは厳しいのは想像がつく。


 こういうバイトをしてる子って、ブランド物が欲しいとか贅沢したいだけなのかと思ってたが、俺の偏見だったようだ。


 「ごめん」


 俺がそういうと、綾乃は「へんなの」って笑い、席から立とうとする。すると、足元がおぼつかないらしく、倒れそうになった。

 

 これ以上飲ませると、まずいことになりそうだ。


 俺は綾乃を車に乗せ、送ることにした。住所を教えてもらい、ナビに入れる。すると、綾乃はすぐに、くーくーと寝息を立てた。


 綾乃のアパートの前に着いたので、声をかける。


 全く起きる気配がない。

 『まいったな……』

 

 一時間ほど待ったが、起きない。

 さすがに、朝までこのままという訳にもいかない。


 部屋まで送り届けるか。


 綾乃の肩を抱えて、アパートの階段をあがる。綾乃は決して太っていないのだが、だらんと脱力している人を運ぶのは、すさまじく重く感じるものらしい。


 なんとか家の前までつき、綾乃のカバンから鍵を探してドアをあける。家に入ると、綾乃の重みでバランスを崩してしまった。


 玄関に、綾乃に覆い被さるように倒れた。


 綾乃の長い髪が、俺の頬をはたくようになびき、大人の女性とは違う、甘いフルーツのような香水の匂いがした。綾乃は汗ばんでいて、俺の身体に、熱を帯びたパストが押し付けられている。


 すると、衝撃で目が覚めたらしい。

 ぱちっと綾乃が目を開いた。


 凛とした目元からは想像ができないような、とろんとした視線で俺を見つめてくる。両手を俺の首に回して抱きついてきた。


 「郁人さん。今日のこと、瑠衣に言わないで欲しい?」


 「それはそうだけど……」


 「じゃあ、今日は泊まっていって」


 「え?」


 「なんだか寂しい。エッチしてなくて、欲求不満なんでしょ?」


 「なんで分かるんだよ」


 「分かるよ」

 

 そういうと、綾乃は右手を俺のベルトの隙間に挟み、スルッとズボンの中に滑り入れた。そのまま俺の下半身を握るようにして撫で回す。


 そして、20歳そこそことは思えない、掠れた妖艶な声で言った。


 「こんなにしちゃって可愛い」


 綾乃はズボンから手を抜くと、ペロッと指先を舐めた。


 「……おいしい。ねぇ。きて」


 「ゴムとかないし」


 「そのままでいいから」


 綾乃はそういうと、目を瞑って。


 ん?


 

 ……気づくと、綾乃は寝ていた。


 『おいおい……』

 

 俺は、綾乃を抱き抱えると、ベッドに寝かせる。そして、外からドアの鍵をかけ、鍵をドアポストに入れた。


 なんだかお預けをされた気分だが、何にせよ、危難は去ったらしい。よかった。


 次の日、俺は仕事に身が入らなかった。

 欲求不満なのは、事実なのだ。


 あんな中途半端にされて、欲求不満に拍車がかかってしまったらしい。


 モチベーションも上がらないので、今日は定時で上がることにした。会社を出る。


 すると、会社の外の花壇に座っている女の子がいる。綾乃が待っていた。


 

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