郁人おじさんの恋愛無双。
おもち
第1話 おじさんと女子大生。
これは、綺麗な恋物語などではない。
醜いわたしと可憐な彼女達との回顧録だ。
私は会社員をしている。
人並みに大学をでて、人並みに暮らしている。学生の時にはそれなりに優秀だったと思うが、いつのまにやら、近所の神童は、どこにでもいる凡人になってしまった。
生まれてから、必死に何かに打ち込んだことはない。だから、頑張ってる人をみると、すごく応援したくなって、そして、少しだけ寂しい気持ちになる。
そんな私だが、15年程前に結婚して、子供がいる。だが、何かが満たされない。
妻は賢く美しい。大きな不満はないハズなのに、満たされないのだ。自分は何のために生まれてきたのか、何のために今の生活をしているのか、いつも頭のどこかで考えている。
後輩には偉そうに、人の生きる道なんてものを語ってみたりするが、それはどこかで見知ったような借り物の言葉で、自分はずっと迷子なのだ。
だけれど、無情にも朝はやってくる。
そして、私は、心のない人形のように朝食をとり、最近出てきた自分のお腹を眺めながら、振り子時計のように電車に揺られて会社に向かう。
そんなある日、変化が起きた。
駅の改札を出て、雨上がりの眩しい空を見上げたとき。
目の前で女の子が派手に転んだ。
手に持っていたバッグは地面に叩きつけられ、中の化粧品やペンなどが地面に散乱する。
その子は、腰下までありそうな髪をポニーテールのように結っている。髪色は茶色く、前髪は風になびいて小躍りしているようだった。
女の子はこちらを振り返ると、バツがわるそうに笑った。
はっきりした二重は長いまつ毛で強調され、茶色がかった瞳は、より大きく見えた。彼女は、水晶のように透明な瞳で私を見つめると、ぷるんとした形の良い唇を開いて言った。
「いったーい。講義にに遅れちゃう……」
周りの雑踏は彼女を認識していないらしい。地面に腰をついている彼女なんて、まるで存在していないかのように人混みは淀むことなく流れていく。
わたし……俺は、地面に飛散したペンやらブラシやらを一緒に拾い、ひと段落したところで、彼女の膝に血が滲んでることに気がついた。
彼女にハンカチを差し出した。
「その……、これ使ってないから良ければ」
女の子はハンカチを受け取ると、ニコッとして言った。
「もう学校間に合わないし。って、ありがとうございます。おじさん。暇だったら、遊びにいかない?」
彼女の名は、瑠璃。
俺の運命を少しだけ変えることになる女の子。
何でもない日常。
どこにでもいるおじさん。
それは、誰でも一度や二度は遭遇するような、ありきたりな出来事から始まった。
気づけば、俺は女の子に応えて頷いていた。
会社をサボるのなんて何年振りだろうと思いながら、会社に電話して、とっくに他界している母に何度目かの危篤になってもらう。
俺の電話と、少しだけの高揚感がひと段落するすると、女の子が話しかけてきた。
「ごめんなさい。いきなりで迷惑でしたよね? わたしはルリ。…水…橋 瑠璃。おじ……、おにいさんは名前は?」
気づけば、『自分は何のために?』、なんて内向的な悩みはどこかに吹き飛び、彼女の純白のような笑顔に魅入っていた。
【表紙】
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