ウルフパーツセットB 1
~A市~
「なぁ、この前のメカイグニスとロジタイタンの共闘見た?」
「見た見た! めっちゃかっこよかったよな~」
「あと、A市にも守護機が出てきたってのもアツくね?」
「アツいアツい。でもウルフ要素どこ?」
話しながら歩く二人の若者が、街頭テレビの前で立ち止まった。
「あ、またこのCMやってる」
「最近めっちゃこれ流れてくるよな」
『ワイルドな爽快感を体験せよ! 弾けてキレる
超炭酸の衝撃。ウルフヴァイオレット!!』
「まさかあそこがコラボするなんてな~、びっくり」
「これでやっと二つの派閥の争いも平和に近づく......」
二人がテレビから流れるCMについて語っていると、隣の工場らしき建物から人影が出てくる。
「あ! パワーウルフだ!」
「ほんとだ! パワーウルフさん、握手してください!」「俺も!」
「おう、いいぞ」
パワーウルフと握手を交わすと、二人は満足そうに去っていった。
その背中をしばらく見送った後、パワーウルフは端末を開きオペレーターへとつなげる。
「待たせたな。今終わったところだ」
「ノムラ工業との打合せ、どうでした?」
ノムラのおっちゃんに今後の活動も踏まえて提案を出していたが、今日がその結果を確認する日だった。
「コッチの提案はだいたい叶えてくれたよ。もう実装まで済んでるからすぐにでも動かせるんだと」
「それはよかったです。これで大方の装備に対応できるようになるはずです。それで、オファーの件についてですが......」
前の戦いで話題になったことでいくつかの企業がサポートの申し出をしてくれていた。オファーは複数あるが少しずつ信頼を築いていこうという方針でまとまっている。
「まず最初は”バリアブル”にしようかな」
「主に食玩を扱っている会社ですね」
「そうそう、俺も昔よく遊んだな~。まだあのシリーズが続いてるとは思わなかった」
バリアブルは色々な武器のパーツになんかガムとかが入っている食玩を作っている会社だ。長年スーパーのお菓子コーナーで一定の地位を保ち続けていたが、海外展開に成功したことで一気に成長した。
「ではそのように伝えておきます」
「ああ、頼んだ」
端末の通信を切ると、自動販売機が目に入った。そういえばコラボ商品が出るって言ってたっけか。
小銭を入れ目当ての商品のボタンに指を伸ばしたところで、端末が鳴った。
「パワーウルフだ」
「A市内で怪人発生です」
「分かった。すぐ向かう」
短い受け答えの後、場所を確認してから端末をしまうと、近くの家の屋根に飛び移り、屋根伝いに現場へと急いだ。
「なんか最近多くネェか......?」
「「あ! パワーウルフ!」」
ぼやいていると先ほどの二人の声が下から聞こえてくる。
パワーウルフは振り返らずに手を振ると大きく跳躍した。
怪人はショッピングモール内の広場にいた。片腕が刃状の人型で背丈はパワーウルフとほとんど同じくらいだ。
住民たちは対災害用防壁が下りた店内に避難できたようで人影は見えない。予測警報が上手く働いたようだ。
屋根の上から様子を窺っていると、広場中央の噴水を破壊するのにご執心のようでこちらには気づいていないようだ。
タイミングを見計らって飛び出し、怪人に向かって真っすぐ落下する。
「(ウルフ・クラッシュ!)」 「......ギ!」
爪を突き立てた掌底を放つが、すんでのところで躱されてしまった。割れた地面から手を引き抜き距離をとると怪人と対峙する。
刃物を相手取るときの心得は人でも怪人でも変わらない。まともにやりあってはならない、刃を振るわせてはならない。刃が影響力を帯びた時点でこちらの圧倒的不利が確実なものとなってしまう。
何もさせずに倒してしまうのがベストだが、最初の一撃はよけられてしまった。ここからは難しい戦いになるだろう、とパワーウルフは覚悟した。
怪人が一歩ずつ距離を詰め、パワーウルフが一歩ずつ後退する。
怪人がさらに大きく踏み込もうとしたその時、パワーウルフが爪にエネルギーを集中させた左腕を突き出して見せる。光り輝く爪を警戒し怪人は踏みとどまる。
(このままじゃジリ貧だ、まともにやりあえば良くて五分。コッチも何か武器があれば......、武器......)
パワーウルフはおもむろに端末を取り出すと通信をつなげる。
「どうしました?」
「こっちにウルフ号をよこしてくれ」
「え? ......分かりました」
パワーウルフが端末をしまう。
張り詰めた空気の中、二つの影は動かない。
「ギギ!」
先に動いたのは怪人の方だった。目にもとまらぬスピードで接近する。
「ウルフ・クラッシュ!」
今度は地面に向かって掌底が放たれると、土埃が上がり、破片が飛び散る。
怪人が刃を切り払い、土埃が晴れるとそこにパワーウルフの姿はなかった。
いつの間にか空中にいたパワーウルフは、怪人の頭を飛び越え反対側に着地する。
再びにらみ合う二つの影。
「来た......!」
パワーウルフの耳が列車の近づく音をとらえた。
今度はパワーウルフの方から距離を詰める。二歩、三歩、踏み込み足を止める。
「ウルフ・エアスラッシュ!」
五筋の光跡を残し腕が振り抜かれ、空を切り裂く爪撃が怪人に襲い掛かる。
怪人は刃を盾のようにしてそれを受け止めると衝撃で後ずさり、地面には爪跡が刻まれた。
『貨物が到着しました。立ち入り禁止エリアに入らないでください......』
「グギギ? ......!?」
突然のアナウンスに怪訝そうな様子だった怪人は足元が急にスライドすると、一瞬体勢を崩した。
「ウルフ・クラッシャー!!」
残像を残す程の爆発的な踏み込みの勢いそのままに怪人に掌底を叩きつける。
その衝撃は怪人を突き抜け、後ろにあったかろうじて形を保っていた噴水を粉々に吹き飛ばした。
「グ......ギ......」
怪人は膝をつくと力なく崩れ落ち、爆散した。
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