ウルフ、参上! 2

 パワーウルフの声の勢いとは裏腹に全く変わらない歩調で、怪獣が近づいてきている海岸線へと向かう。


「本件の怪獣は”中級”に認定されました。エネルギー放射攻撃は確認されていません」

「それはラッキーだな。ステゴロなら俺の得意分野だ」


 取っ組み合いなら、こちらが不利だったとしてもやりようはいくらでもある。

 やっとのことで海岸線へとたどり着くと怪獣はすでに防波堤の近くまで迫っていた。その背丈はこちらより一回りほど大きい。警戒しているのか歩みを止め、大きな後ろ足で立ったままいかつい爬虫類のような顔でこちらをにらみつけている。


「とりあえずこれ以上街に近づかせないように。できれば引き離す......」


 意を決して海へと一歩踏み出すと、怪獣が威嚇の咆哮を上げる。

 構わず進み続けると怪獣も戦闘態勢に入ったのか、距離を計りながら横方向に動き始める。


「ハッ! 狙いがわかりやすすぎるぞ!」


 ウルフ号が踏み込むのに合わせて怪獣は体を回転させ長い尾で薙ぎ払うように攻撃してくる。ウルフ号がすぐに間合いを外すと、その目の前をビュンと音を立てながら尾がかすめた。


「そのご自慢の尻尾もこの距離なら使いもんにならネェだろ!」


 怪獣がしっぽを振りぬいた隙にウルフ号は距離を詰めるとその拳を振り上げる。そのまま振り下ろされた拳はパンチというにはゆっくりすぎたが、身体に釣り合わない大きな腕の質量は十分な破壊力を持っていた。

 拳が怪獣の顔面に到達すると、その衝撃が空気を揺らす。怪獣は苦悶の唸り声をあげ、のけぞり後ずさった。


「よし、このまま畳みかける!」


 ウルフ号が次々に拳を繰り出し、怪獣を沖の方へと押し出していく。


「? なんか様子が変だな......」


 押されるままだった怪獣が拳を受け止め、ぐっとこらえるようになったことにパワーウルフは違和感を覚えた。拳からフィードバックされる感覚も変化している。


「目標の表皮が硬質化しています」


 オペレーターから報告が入る。


「少し硬くなったくらいで......!」


 踏み込みながら大振りに拳を叩きつけると、金属同士がぶつかったような衝撃音とともに火花が散る。

 怪獣はじっとこらえて微動だにしなかったが、ウルフ号は反動をまともに受けて大きくのけぞった。


「んなっ!?」


 体勢を崩したところに怪獣が頭突きで追い打ちをかけると、ウルフ号は水しぶきを上げながら転がって一回転した。


「今のウルフ号の出力じゃ少し硬くなられただけで途端にきつくなるな......」


 ウルフ号が立ち上がっても怪獣は動く様子を見せずじっとたたずんでいる。


「パワーウルフ。援軍はまだめどが立っていないですが、装備の提供を提案している企業があります。現在輸送中です」

「了解だ、今はそいつに期待するしかネェか。どうせなら怪獣を一発でぶっ飛ばせるようなのが欲しいところだ......」


 再び怪獣へと接近するが目の前まで行っても反応を示さない。カウンター戦法に味を占めたようで、試しに一発拳をお見舞いするとすぐに頭突きが飛んでくる。


「おっと、危ネェ」


 パワーウルフは現時点では有効な手がないことを悟ると、じっとしている怪獣とただ対峙するほかなかった。


「こっちの時間稼ぎに付き合ってくれるなら悪くネェか?」


 しばらくそうしていると、怪獣はしびれを切らしたのか動き始める。こらえ性のないやつだ。


「芸がなさすぎるんじゃねぇか? 俺がしつけてやる!」


 再び放たれた尻尾攻撃に対し、今度は逆に間合いを詰め根元で受け止める。


「ってウォォイ!?びくともしネェ!」


 そのまま投げ飛ばそうと尻尾をつかむが、ウルフ号の圧倒的パワー不足によりそれは叶わなかった。さらに、尻尾をつかまれるのを嫌がった怪獣がウルフ号を引きはがそうと尻尾を振り回し始めると、ウルフ号はただ尻尾にしがみつくことしかできない。


「パワーウルフ! 装備が到着しました!」「ヌォォオ! 今ァ!?」


 ウルフ号は散々振り回されると、ついにはつかまっていられなくなり宙へ投げと出されてしまう。


「ぉおお、落ちるぅう!」


 そのまま放物線を描くと海岸の近くに大きな水柱を立てて落下した。


「ったぁ~......。 装備の方は?」

「はい、近くに展開します」


 オペレーターが言うと海岸から少し入ったところの地面から、守護機用の装備ラックが二つ生えてきた。

 急いで近くまで行くと、ラックの一方には長方形の赤色をした盾のような装備、もう一方にはほとんど同じに見える形状で青色の装備がマウントされている。


「ウルフ号には実験のためにあらゆるモノを装備できるジョイントシステムが搭載されています。装備をあてがえば、あとはシステムが自動で対応してくれるはずです」


 言う通りに腕を赤い方の装備に近づけてみると、勝手に腕の位置が調整され装備と接続し、ボルトで固定される。

 すると、いきなり知らない男の声が通信に割り込んできた。


「いや~、この度は我がポッパー社の提案を採用していただきありがとうございます!」

「......? どうも。てかどちら様?」

「装備を提供いただいたポッパー社の方です」

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