無所属ヒーロー 旧式ロボで広告塔となる

ひした

ウルフ、参上! 1

「ウルフスラッシュ!」


 渾身の一撃が怪人を切り裂くと、怪人は力無くその場に倒れ込むと激しい光を発して爆発した。

 爆煙が晴れ、通りがこの昼時に似つかわしくない静けさに包まれる。

 物陰に隠れていた人々が顔を出しはじめ、怪人を倒した男に感謝と称賛の声を浴びせた。


「ありがとう!パワーウルフ!「パワーウルフ!ありがとう!」「名前以外カッコいい!」


 コミカルなオオカミを模したマスクの下で目が細められる。それは降りかかる声によるものか、それとも自分の守る美しい街の海に照り返す太陽が眩しいからか。

 パワーウルフが人々を一瞥し颯爽と立ち去ろうとした瞬間、街頭スピーカーからけたたましい警報が鳴り響いた。


 『怪獣警報が、発令されました。住民の皆さんは、ただちに屋内や、近くの避難場所に、避難して下さい。繰り返します…』


 警報特有の大音量と、ゆっくりとしたアナウンスが非日常の侵略を告げる。



「みんな! 落ち着いてこっちへ!」


 通りの人々がパニックを起こさないよう誘導する。

 怪人と怪獣が連続で出現するなんて、今日この街はついていないようだ。だが、怪獣が出現する前にカタをつけられていたのはラッキーだった。


「落ち着いて避難するんだ。すぐに守護機が来てくれる」


 通りにいた住民たちを避難させ、取り残されている人がいないか確認してまわる。


 警報から3分ほどがたった。ここA市には常駐の守護機はいないが、そろそろ隣の市あたりから派遣された守護機が到着する頃だ。


「今回もメカニスの世話になんのかな」


 B市に本社を置く工業製品メーカー”メカニス”は、いつもここA市に守護機を派遣してくれている。今回もすぐに駆けつけてくれるだろう。

 ズン、と体内に響くような振動が空気を震わせた。海の方へ目を向けると怪獣が大きな水しぶきを上げながらその巨体を立ち上がらせているのが見える。


「もうあんなに近くにいるじゃネェか、まだ到着しないのか?」


 一抹の不安を覚えながらも取り残された人がいないか確認しながら自分も避難所へと急ぐ。


ピリリリリ!


 小走りで道を急いでいると、ヒーローに支給されている連絡用端末が鳴った。


「こちらパワーウルフ。こっちの避難は終わったから人手が必要なら対応できるぞ」

「いえ、A市内の避難は問題なく進んでいるので大丈夫です」


 端末から少し低めの冷静そうな女性オペレーターの声が聞こえた。


「あなたに連絡したのは守護機へ搭乗して怪獣に対応してもらうためです」

「ハァ!? 俺が!? いつもB市からメカニスが応援をよこしてくれるじゃネェか!」

「メカニスファイブは別件に対応中です」

「全員が!?」

「全員が、です。C市で発生した怪獣災害に対応するため、メカイグニスが出動しています。周辺地域は即応態勢をとるため守護機を待機させていて、しばらく応援は望めない状況です」


 C市の守護機に加えてメカイグニスを出動させているのだとすればかなり危険度の高い怪獣が発生したということだろう。


「……分かった。俺が乗るよ。ってA市には守護機がいねぇじゃネェか! どっかが貸してくれんのか?」


 この状態で守護機を貸してくれるところなどあるのだろうか。この際あまりものでも御の字だが。


「いえ。このA市にも旧型ではありますが守護機の登録があります。登録名は”ジェネレータ試験用実験機 02号”、登録企業名は”ノムラ工業”」

「ノムラ工業ってーと、野村のおっちゃんのところか……。近所なのに全然知らなかったな」

「実験機ですし、機密を扱ったりあまり人に見せられる物ではなかったのでしょう」


 実験機ってことは戦闘用じゃ無いんだよな? だがほかに手はないし何とかするしかないだろう。それよりも、だ。


「俺の経歴は見ただろうから分かってると思うが、あまり期待しないでくれよ」

「はい、適正については把握しています。ですがこの守護機にはかなり旧式の操縦システムが搭載されているので問題ないと判断しました」

「……そうか」


 視覚同期と脳は操縦によって、動いていないのに動いている感覚。胃がフワフワするあの感覚がどうにもダメだった。適性検査の会場からトイレに駆け込んだのは今でも苦い思い出だ。


「守護機が到着します。搭乗準備」


 地面が振動しはじめ、金属の擦れる甲高い音が響いてくる。

 地下の物資輸送列車が到着した音だ。


『貨物が到着しました。展開エリア内に入らないでください。』


 ホログラムによって立ち入り禁止エリアが示されると、エリア内の地面がスライドして地下との口を開く。

 『貨物を展開します。』と再度アナウンスが流れると、速いともゆっくりともつかないスピードで”貨物”がせり出してくる。


 「こいつが俺の乗る守護機……。丸いな」


 そのシルエットは、とても丸かった。

 丸っこい体に曲線を描く平べったい頭。脚が短く低重心で、腕は身体に対してアンバランスなほど大きい。

 まぁ、戦闘力と見た目は関係ないだろう。


「頭の後ろにあるハッチから乗り込んでください」


 ウルフ・ジャンプの跳躍力で頭の上に跳び移りオペレーターの指示通りにハッチを開いてコックピットへと乗り込む。

 中は薄暗いが意外と広く、操作パネルが設置されているが、人が2,3人は入れそうなくらいの余裕がある。


「あ~起動スイッチ、起動スイッチ……。これか」


 守護機はある程度規格が定められているため基本的な操作はだいたい同じだ。昔勉強した内容がよみがえってくる。

 起動スイッチを入れるとコックピット内の照明が次々と灯り、操作パネルにはたくさんの情報が映し出された。


「操縦桿とかはどうやって出すんだ……?」


 操作パネルに関係ありそうなものがないか探っていると、上から何やら駆動音がしたので目を向けてみる。すると、コックピットの天井から手足の拘束具が付いたイスが下りてきた。

 これに座れということだろうか。

 おとなしく座ると予想通り手足が固定されてしまう。今から拷問でもされそうな感じだ。


「……で、これからどうすればいい?」

「え~っと、そのまま立ち上がればいいようです」


 オペレーターの言うとおりに手足を拘束されたまま立ち上がろうと力をこめると、イスが立ち上がる動きに合わせて身体に沿う様に変形する。そしてそのまま吊り上げられて、今度ははりつけにされたような格好になる。

 俺にそういう趣味はないんだが……。


「この機体は脳波操縦ではなく、装着したコントローラーが取得した操縦者の動きをそのまま入力する方式をとっています。これなら適性がなくとも問題なく操縦できます」

「確かにそれなら大丈夫そうだ。実際に体を動かすっていうのも俺の性に合ってる」


 『操縦システムのキャリブレーションを開始します……』


 システム音声がそう告げると、装着されたコントローラーの各部が細かく駆動し、機体の姿勢と同期される。


『操縦システムのキャリブレーション完了……』


 調整が終わると拘束されている感じはなくなり、まるで地面に立っているような感覚になる。


『視覚同期を開始します……』

「よしッ、街を守護るぞ……!」


 短く息を吐き気合を入れなおす。

 眩暈のように一瞬目の前が暗転すると、次の瞬間、目の前にいつもより小さな街が広がっていた。

 あまりの普段との高低差にクラクラするが、動きながら慣らしていくしかない。ジェネレータ―がうなりを上げ、最初の一歩目を踏み出す。


「カ、カラダが重い……」


 操縦システムから現在の状況に合わせてフィードバックが返ってくるが、動作が重く思うように動けない。


「この機体は実験用なのでジェネレーターも最低限のものしか積んでいないようですね。これで出力は最大のようです」

「く、くそぉ……。とにかく、援軍が来るまで何とか繋げるぞ……」


 短い脚を一定のリズムで動かし、ノッシノッシと歩を進める。


「そういえば、こいつの名前なんだったっけ。たしか、実験用なんちゃら……みたいな」

「”ジェネレータ試験用実験機 02号”です」

「長いし覚えにくい! そうだな……。よし、今日からこいつは”ウルフ号”だ! もっと速く駆けるんだウルフ号!戦わずして怪獣の上陸を許すわけにはいかネェ!」

「……別名登録しておきます」

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