【二章開始】TS美少女メイドゴーレムはデウス・エクス・マキナの夢を見るか
寝る狐はそだつ
第一章:アリス・イン・ファンタジーワールド
1-1.稀代の天才、あるいは筋金入りのバカ
至高の石頭、人形遊びの天才、筋金入りのゴーレム馬鹿。これらは全て、この部屋の主につけられた、華々しき異名の数々である。
帝国魔導研究院 先端ゴーレム開発室 研究室長 ルイス・アリウス。
研究室と銘打たれながらも、あまりに偏執的が過ぎるその研究方針には誰もついて行くことができず、現在この研究室に所属する人間は室長である彼ひとりとなっている。
そんな責任者として、人間的にも、このような責任ある役職には不適格と言える彼が未だにこの肩書をつけていられるのは、その多大なる研究成果によるものにほかならない。
夢の万能素材、マナマテリアル。
天然に算出されるマナ結晶を原料に生成された赤色の粘土状物質は、利用者の思い描いたあらゆる物体に変化が可能という、極めて自由度の高い新素材である。
まだ完全な量産化体勢は整えられていないものの、この素材の登場により世界の技術力は飛躍的に進歩するだろうと目されている。
この非の打ち所のない華々しい成果により、彼の地位は完全に揺るぎないものとなっていた。
そしてもちろんこの夢の新素材も、彼にとっては理想のゴーレムを作り出すために作り出した素材のひとつでしか無い。
まだ生産量に限りある夢の素材を、惜しげもなく己の研究…なかば趣味となっているそれにつぎ込む姿を見て、いつの間にかつけられていたのが、上記の異名の数々である。
アリウスは今、マナリアクターの低い重低音の響く中、無言で作業台へと向き合っている。
先程から部屋に備えつけられた通信機から呼び出し音が続いているのだが、何事もないかのように作業にのみ集中をする。
とはいえ、流石にこうもしつこく音を鳴らされると、どうしてもそちらに意識が割かれてしまうのも、否めない。
「マリオン、通信機を切っておいてくれ。物理的に。」
「よろしいのですか?」
「構わない、どうせまた早く会議室へ来いという、いつもの催促だろう。」
「承知いたしました。」
彼ただ一人しか居ないはずの研究室、その部屋の隅に待機させていたゴーレムに命じ、通信機の線を切断させる。
会議のサボりが余りに常態化したため、部屋に備え付けられた連絡用の端末の電源は切る事が出来ないよう細工をされている。
とはいえ、所詮は線がつながっているだけの機械である。物理的に切断してしまえば、なんの問題はない。
「ところでアリウス様、そろそろ一度休息をとられたほうがよろしいのでは?」
「あと少しで体が完成するからな。そうしたら休憩を入れる。」
「しかし、最後に睡眠を取られたのはもう」
「ここは後に回すと分からなくなくなりそうなんだ。
これを終えたら休憩を入れるから、お前もスリープしていてくれ。」
「…承知しました。そちらが済んだら、必ずお休みになってくださいね。」
体調を心配するメイドに対し、命令をすることで、半ば強制的に眠らせる。
ようやく部屋に静寂が戻ったことで、すべての意識をまた作業台にのみ向ける。
彼女はメイドゴーレムのマリオン。アリウスが自らの手で組み上げた、この時代における最新鋭のゴーレムである。
腰まで伸びるつややかな黒髪に、深く輝くルビーのように赤い瞳。その頭部には白いヘッドブリムをつけ、その体はいわゆるクラシックなメイド服というもので身を包んでいる。
そしてもう少しすれば、彼女は最新鋭ではなく、ひと世代前のモデルとなる予定である。
彼女は、アリウスが制作したゴーレムたちの中でも、間違いなく最高傑作であった。なにせ彼女は他のゴーレムとは異なり、限りなく真に近い知性を持っているのだ。
だが、完璧であると自負をしていた彼女でも、まだ足りないものがあったのだ。そしてそれは紛れもなく、天才を自称していた、アリウス自身の失敗であった。
ゆえに、アリウスは今こうして、己の全霊をかけて作業台に向かい合っている。
完全なる人類の上位互換。
他とは画一した究極の性能。
誰もが憧れる男の夢…………メイドロボ。
つまるところ、この男が目指しているものとは、究極のメイドロボである。
ゆえにこの男についたあだ名は全てまったくもっての正論であり、本人としても特に否定するつもりもない。
そんなアリウスの目の前には、まるで手術台のような、大きな作業台が鎮座している。
人が寝るためにはいささか金属質がすぎるそれの上には、一人の少女が横たわっていた。
腰まで伸びる絹のようにつややかなブロンドの髪は、一切乱れること無く照明の光を反射し、まるで金糸のように光り輝いている。
磁器のようにシミの一つもない肌は、未だ成長途中を思わせる少女の美しさを完全なまでに再現し、天使を思わせる美しさだ。
そして人形のように整い、だがどこか愛嬌も感じさせる可愛らしい顔は、彼女が真に生きており、今は深く眠っているように見える。
彼女こそが、アリウスにとってのさらなる最高傑作。そうなるはずである最新鋭のゴーレム、フィリア型5号機「アリス」である。
内部機構は全て人の機能を模して、しかしてその人類の限界を遥かに超える性能を持たせることができた。
人工知能はまだ試験段階の、理論上はこの研究所全ての計算処理を余裕で賄うことが可能な、霊子演算機なるものを利用した。
動力コアは都市の動力をまかなうことも可能という、まだ未発表の研究により小型化を実現した最新のマナリアクターを組み込んでいる。
どれも個人で所有するようなものではないし、してはいけないものである。していることがバレれば他の開発室の人間にぶん殴られる、とっておきの素材なのだ。
というよりも…演算器とコアに関してはそれぞれ専門の研究室から、試作品を無断で拝借したものである。
ゆえに、露見をすれば実際に袋叩きにあうことは間違いない。
まぁ、彼らもアリウスの不在時にこっそりマナマテリアルを持ち出しているようであるし、お互い様であろう。
なに多少の横紙破りなど大した問題ではない。結果を出せばいいのだから。
逆に言えば、結果が出ずにこれが露見すれば、間違いなくアリウスの首は飛ぶ。モノがモノだけに、場合によっては物理的に首が飛ぶ可能性すらあるのだが、そんなことは気にしない。
彼にとっての究極を目指すための掛け金としては、悪くはない。これは、今の彼にとっての最重要事項…人生をかけるに値する、必要な事柄なのだ。
........
それから、どれくらい時間が経っただろうか。
コアから体の各部に繋がる最後の回路をつなぎ終えると、その体表を丁寧に丁寧に、表面に僅かな歪みも出ないように、ゆっくりと閉じていく。
最後の仕上げに、皮膚を形作るマナマテリアルを操作すると、そこには継ぎ目などどこにもない、つややかな肌となっていた。
そうして、初めからその形であると定められていたかのように、まるで神がその造形を定めていたかのように美しい少女が、そこには横たわっていた。
これで、体は完成した。あとは頭脳となる霊子演算機に、予め用意していた人工知能のプログラムを流し込むだけで、夢の結晶が完成する。
悲願の達成を目前に、作業に一段落が付いた事で、限界まで張り詰めていた緊張が解け
ぷつりと
アリウスの意識は途絶えた
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