狐 兎 百面相
@ironlotus
過去は変わらず、只私を後から睨みつける影がある。
未来がどれだけ明るく道を照らしても、影だけは私に常住坐臥付きまとう。
私に、今を生きる事を赦さない。
お前の罪だ。言葉なくして語り続ける。
いつでも投げ出す事も出来た、と反駁する。
好き好んで、引きずり歩いた昨日だ。
「…御身様、なんだか顔が暗いですよ?」
「あゝ…わかるかね…。」
覗き込むような、窺うような声に、目を開く。
僅かな月光を反射して燦めく
氏素性の不確かな私を傾慕する、小さな狐だ。
昨今ようやく人への変化を覚え、人の、童の姿のまま、私にすり寄ってくる事が多い。
まだ親の肉を離れ難い小さな命なのだ。
彼女の親は、既にこの世を去っている。
産んだ親の血筋なのか、毛並みもよく、気立てもよく育った。
狐としては、どこに嫁に出しても恥ずかしくはない。
もっとも、今となってはこの場に合わせて人の姿で巫女服は着るし、それだというのに耳と尻尾はまだしまうことが出来ないので、いかんせんサブカルチャーじみた見た目をしている。
「どうしてそんなに悲しそうなのですか、今日の
小狐は、私を
名乗るべき名が無い事を告げると、小狐は「では、
「これを見てみなさい。」
取り出だしたる文明の利器、スマートフォン。
昨今の妖怪変化は、情報化社会にも適応する。
人であれ、神であれ、変化を求められるのは同じことである。
小狐が傍らから覗き込んだ画面には、このように表示される。
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きうびちゃんだよ @ninetail_chaso_dayo 1日前
尻尾の無くなった九尾の狐 無インテール
🔃0 ♡2
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「夜を徹して考えた小咄が少しも跳ねなかったのだ…」
小狐の顔はみるみる渋り、百面相を呈した。
まだ、腹芸はできぬ子だ。内には、外に出すままの思いが渦巻くのだろう。
老狐の身に落ちる影を、日向を歩く若者にまで伸ばすことはない、と私は考える。
子は、親の思うより聡いぞ、と長い影は言う。
そうかもしれないと、私自身も思う。
そんなことは既にお互い承知で、演じる茶番なのかもしれない。
だが私は願う。
かの狐の明日が、少しでも明るくありますように。
そして、今日も良き日でありますように、と。
狐 兎 百面相 @ironlotus
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