愛しかった婚約者にさようならを

橘塞人

コレットⅠ

 戦争が終わった!

 私が生まれ育ち、今も暮らしているこのラフラン共和国は、5年にも渡って隣国ツイード帝国との戦争をしていた。その戦争が終わったらしい。外では号外が飛び交い、ビラもまた舞っていた。

 人々はこれから訪れる平和な日々に喜び、浮かれていた。必ず訪れるであろう明るい未来に喜び、浮かれていた。

 この私、コレットもまたそうだった。私は両親との3人でリゴンのアパートに暮らしながら、ツイードの空襲に命の危険を感じていた。そんな日々が終わったのだから。

 戦争に行った大切な家族も帰ってくる。街の人達はそう喜び、母もまた。


「コレット良かったねぇ。戦争が終わった。ジョエル君も帰って来るよ!」


 私にそう言い、私もまた満面の笑みを浮かべた。ジョエルは私の幼馴染であり、婚約者でもあった。

 そのジョエルは1年前に徴兵され、戦地へと行ったままである。その彼もまた、帰ってくる。愚かにも、帰ってくるものだと思い込んでしまっていた。それがあのような形で裏切られるとは。



『こちらで真実の愛を見付けた。僕はラフランへは帰らない。婚約破棄してほしい』



 帰還兵の出迎えに人々が沸き立つ中、私にはそんな手紙が送り届けられた。それは終戦から一ヶ月後のことだった。

 私は怒りに手を震わせながら、不誠実な人間の出した手紙を読み進めていった。その内容はこういうものだった。



 ツイードとの戦争で前線に送られ、そこで捕虜となった。収容された先でツイードのとある女性と出会い、恋に堕ちた。恋心は燃え上がり、子供までできた。こちらで結婚し、これからはツイード人として生きていく。コレットとは結婚出来なくなってしまったが、コレットの幸せは祈っている。

 家経由で慰謝料は支払うので、僕への怒りはあるだろうが受け取り、将来の為に活かしてほしい。

 と、そんな内容だった。



「!!」

 私は怒りに任せ、手紙を床に叩きつけた。が、破り捨てることまでは出来なかった。こんな手紙を書くのにも、あれこれ悩んだんだろうなとその姿が容易に思い浮かんでしまったせいだ。

 ただ、叩きつけて大きな音を立ててしまったので、両親が心配してやって来た。その両親もジョエルからの手紙を見て、これまで見たことがないという程の怒りを見せた。

 こんな不誠実な人間だったとは思わなかった!

 こちらも空襲に怯えながら日々を暮らしていた中、敵国女性と恋仲になるなんて最低な裏切り行為だ!

 と、そんな事を口々に言い、私もまたその通りだと思っていた。

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