第17話


 「あのまま死なせておくのは、忍びなかったからさ?」


 「…わけわかんねーよ」


 「うん?」


 「わけわかんねーって言ってんだよ!一体何が起こってんだ?!」


 「…はあ。これだから“人間“は」


 「ああ!?」


 「大体、キミが悪いんだよ?へんな正義感をかまして近づくから、こういうことになる」


 「…どういう…」


 「なんで近づいたりしたの?」


 「…なんでって、そりゃ…」


 「助けられると思ったの?」


 「…わかんないけど、ただ…」


 「ただ?」


 「ただ、なんとなく」


 「…はあ」


 「なんだよ…」


 「くだらないね。本当に」


 「くだらない?」


 「自分の身も守れないくせに、誰かを助けようと思うわけ?」


 「…は?そんなんじゃねーよ!」


 「じゃ、何?」


 「なんつーか、…その」


 「もういい。とにかく、最後に言い残すことがあるんだったら、どうぞ」


 「…ちょ、ちょっと待て!言ってる意味がわからないんだが!?」


 「言葉通りの意味でしょ。キミはもう死んでるの。こうして話ができるのは、私が“血”を分け与えたから」


 「…はい??!」


 「説明するのもめんどくさい。時間は無駄にしたくないの。何もないんだったら、このまま楽にしてあげる」



 会話は成立しなかった。


 …成立しないっつーか、会話にならなかった。


 天ヶ瀬は天ヶ瀬で、別人みたいだった。


 いつもの彼女じゃない。


 天ヶ瀬はこんなこと言わない。


 “口調”だってそうだ。


 声のトーンが明らかにおかしい。


 どこか尖ってて、どこか、…攻撃的で。



 言ってることの意味がわからなかった。


 理解しようとはした。


 俺なりに、彼女の言う言葉の一つ一つを拾い集めようとした。


 けど、ダメだった。



 「待て待て!!」


 

 俺は咄嗟に声を荒げた。


 彼女はナイフを握り直し、刃についた血を舌で舐める。



 …なんで舐めた?


 いや、そんなことより…



 もう一度刺してくる。


 不意にそう感じた俺は、言いようもない身の危険を感じていた。


 すぐにでも逃げ出したかったが、それができなかった。



 (…どうすればいい?)



 打開策は見つからない。


 身動きも取れないし、何もかもが「変」だ。


 これが夢じゃないなら、なんとかしなきゃいけない。


 なんとかして、抜け出さなきゃ。


 けど、どうすれば…


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