第7話



 ◇◇◇





 「…う、うーん…」





 やばい。



 頭が痛い。



 なんだ?



 ここはあの世か?



 …なんか、思うように動けないな…



 なんだこれ…



 …なんで、手が後ろに…?




 長い夢を見ていた気がして、気がつくと、そこはコンビニの駐車場だった。


 周りはすっかり日が暮れてて、チカチカと点滅する外灯が、群がる虫の中心に見えた。


 遠くには車の音が聞こえる。


 涼しい風が、さやさやとあたりの草むらを揺らしていた。



 …えっと



 目が覚めてしばらくは、頭の中がぼーっとした。


 記憶が混濁してて、さっきまで自分が何をしてたか、すぐには思い出せなかった。



 …なん…だ…?



 …一体、何が…




 ガシャガシャッ




 フェンス…?



 …つーか、なんで、俺はここに…?




 少しずつ記憶が蘇ってきて、思わずハッとなってしまった。


 そうだ。


 さっきまで俺はコンビニにいた。


 コンビニにして、変なおっさんが目の前にいて…



 目まぐるしいフラッシュバックが、火花を散らしたように蘇った。


 あり得ないくらいの近さで、さっきまでの時間が覆い被さってきた。



 ナイフ…!



 そうだ。



 俺は確か…




 「目が覚めた?」




 おもむろに傾けた視線の先で、俺は自分が、「幻覚」でも見ているのかとさえ思ってしまった。


 声がした方を見ると、そこには「人」が立っていた。


 コンビニの店員。


 青と白のツートンカラーの制服。


 俺のよく知っている、——女の子が。



 「…天ヶ瀬…?」



 自分で自分を疑った。


 思わず、目を見開いた。


 天ヶ瀬なわけがないと思った。


 彼女は俺のクラスメイトだが、ここは学校じゃない。


 第一…



 ついさっきまであった記憶が、少しずつ鮮明になっていく。


 …そういえば、さっき天ヶ瀬を見た気がした。


 意識が途切れる間際だった。


 俺を呼ぶ声がして、苦しくなっていく自分がいて…




 「ほんと、余計なことしてくれたね」




 …は?




 わけがわからないまま、胸の方に視線を移す。


 

 …あれ?



 …ナイフは…?



 なんで、…刺さってないんだ?



 シャツは赤かった。


 でも、そこにナイフはなかった。


 痛みも、息苦しさもない。


 あるのは、混濁する意識と、夜の静けさだけで。

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