俺は”戦闘”という名のクスリを摂取する。ー戦闘狂のイカれた異世界ライフー

古書館のトマミン

第1話 ”戦闘”という名のクスリ。

 壬生咲 源一(みぶさき げんいち)という男は戦闘を心から愛していた。

 そんな彼の人生は普通の人間から見れば狂っていると言わざるを得なかった。


 源一は地元でも有名な古武術道場の一人息子として生を受け、幼少から様々な武術を叩き込まれてきた。


(俺は一体、何をしているんだろう)


 そんな思考が四六時中頭を駆け巡っていく中で、彼は戦闘でしか喜びを感じれなくなっていたのだ。

 そんな源一は学生時代もロクでもなく、不良との喧嘩三昧、彼の事を周囲の人間は冷ややかな目で見ていた。

 そしてある日のこと、源一は父親に呼び出される。


「源一、なんで呼ばれたか分かっているな」


 父の目は真剣そのもの、しかし源一を見る目は敵を見るような冷淡なもの。


「親父....」


「お前に昔から様々なことを教えてきたが、数々の問題行動、これ以上は庇うことが出来ん」


 彼の父親は、源一の行動を幾度となく咎め続けてきたのだ。

 しかし源一は一切更生せず、教えた技術を振り続けていた。


「俺はただアンタに教えてもらった技術を有効利用しているだけだ、何が問題なんだよ?」


「ふざけるな、武術を伝授したからといって相手を傷つける為だけに振るえ、とは教えていない」


 そして父は源一を見据えながら続けた。


「お前は今日限りで破門だ、今すぐ出ていけ」


 父が言い放ったのはなんと、絶縁の宣告だった、しかし源一は大して驚くこともなく、冷静を装う。


「そっか、こんな日が来るんじゃないかって思っていたよ、いいよ出ていく、その代わりにひとつ頼みがあるんだ」


 そう、彼には一つだけ望みがあった。


「息子でなくなる前だ、いいだろう」


「この家の地下室に保管してある先祖の武器....それを俺に譲って欲しいんだ」


「源一....!? 何故その事を....」


 父は目を見開いて驚愕する、それもそうだ、壬生咲家はかつて江戸の町で暗躍する忍の一族だったのだ。

 父は必死にその事実を彼に隠していた。


「昔から知っているさ、俺が戦闘を愛するようになってからね」


 源一は貼り付けたような笑みを浮かべる、その表情は狂気そのものであった。


「ぐ.....」

(なんて恐ろしい気迫だ....もしかしたら俺はとんでもない狂人を育ててしまったのかもな....)


「で、親父....いいの?ダメなの?」


「いいだろう、好きなだけ持っていけ」


 そして彼の気迫に圧倒された父はそれを暗に認めた。

 その後、源一は地下室に保管されていた武具の数々を持ち、家から出ていった。


 それから彼は、裏社会に飛び込み、数ヶ月足らずで一気に名を挙げた。


 その道程で半グレに極道、挙句の果てに海外に飛び出し傭兵も経験した。

 様々な”戦闘”を経験した彼は何時しか、この世界全体が空虚な存在に見えてきたのだ。


(もう俺を楽しませられる強者はこの世界に存在しない....あぁ....あまりにも空虚だ....”戦闘”という名のクスリをもっと摂取したい!)


 そんな彼に一筋の天啓が舞い降りてきた、それは異世界という創作では定番の概念だった。


(異世界.....転生.....そこでならこの空虚な人生に価値を与えることが出来るのだろうか....いいや、出来るな)


 そして彼がとった選択は一つ、自らの脳天を撃ち抜いて自殺することだった。


(ああ、これなら異世界に行けるかも....もし行けなかったとしても俺という存在がこの世から消えるだけの....話)


 ズドンッ!!!!


 自らの頭を撃ち抜くと同時に視界は一気に暗くなり、彼は地球という空虚なフィールドから去ることになった。

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