ヒーロー、やらかす
目を開けるとまず見知らぬ天井が飛び込んできた。どうやら部屋の中心に一つしかないベッドに寝かされており、周囲には何も無い。殺風景過ぎる部屋にはどこかで見覚えがあった。
ここは、怜央の部屋だ。
理解すると同時に、意識を手放す前にあったことが次々と再生されていく。鶴見の薬を飲んで、そうしたら体が熱くなって……それで、何だかとんでもないことをしてしまったような。うん……した。
いっそ全て忘れてしまいたかったのに一度蘇ってしまった記憶は脳裏に焼き付いて消えそうにない。誰か自分を殴って記憶を遠くへ飛ばしてくれないだろうか。それか、今すぐ地中深くに埋まってしまいたい。
ドロドロになった服やシーツはいつの間にか替えられており、パジャマを着せられていた。サイズがピッタリではあるが、これはいつ用意したものなのだろうか。
腹をそっとさすってみたが、たぶん体内も綺麗にされている。奥まで注ぎ込まれたあれだとかも。
「あ、起きちゃいました?」
声と共に部屋の主が入ってくる。
「お腹空いてませんか。トーストくらいしか用意できませんけど」
どのくらい寝ていたのかわからなかったが、言われてみれば空腹だと気づく。頷くと少ししてホットミルクとトーストが運ばれてくる。こんな家にも一応食料は存在したらしい。
眠る前の行為の気恥しさから怜央の方を見れない。サクサクに焼けたトーストに齧りつき、明後日の方角に目を向ける。怜央はそれを気にした様子もなく、ただにこにこと青を眺めていた。
「これで僕とブルーさんは『恋人』ですね」
「むぐっ」
口いっぱいに入っていたパンが詰まりそうになり、慌ててホットミルクを口に含む。
何かおかしな単語が聞こえたような気がする。
「気持ちを確かめて、体を繋げて、立派な恋人ですよね。『正義のヒーロー』が体だけなんて爛れた関係をするはずもないですし」
「……あ、ああ」
「これからよろしくお願いしますね、ブルーさん」
にこにこと上機嫌な怜央に、とても薬のせいでうっかり体を繋げたなんて言えるはずもない。そんなの『正義のヒーロー』としてあるまじき行為だ。
仮に本当に両思いだったとしても、すぐに行為に及んでしまうのも十分『正義のヒーロー』としてあるまじき行為だろうに、それには目をつぶった。
体だけの関係や一夜の過ちだったことにするよりは、恋人同士だから盛り上がって致してしまったという方がまだマシなように思えたからだ。
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