ヒーロー、本音を聞かされる
「お前は……」
「『お前』じゃなくて怜央と呼んでください」
「……怜央は、俺のことが本当に好きなのか?」
自分で聞いておきながら、まるで不安になって恋人に気持ちを確かめているような言い方になってしまい羞恥で死にそうになる。
あの猫事件から数日が過ぎた。相変わらずエタニティを倒しに出動すると現場には怜央がいた。今回の敵はアッシュではなく戦闘員たちだけだったが、やはりしつこく付きまとわれたのか、ブルーが駆けつけた時にはどことなく疲弊しているように見えた。可哀想に、と敵ながら同情してしまった。
疲弊した戦闘員たちを蹴散らして、正直このまま帰りたかったが、怜央が目を輝かせてこちらを見ているので仕方なく変身を解く。少しくらいなら話してやろうと思ったのだ。どうも怜央に見つめられると弱い気がする。
それに、鶴見の用意した作戦がまだ残っている。試してみるちょうどいい機会だと思った。
それが間違いだったのかもしれない。
「僕はブルーさんのことが大好きです。その唇に触れたいと何度も思っていました。それ以上も、本当は……」
「は、はあ」
「ヒーローとしてのあなたを好きになったけど、僕だけのものにしてしまいたいのも本音です。ブルーさん、僕と結婚して貰えませんか」
「けっ、けっこん? 男同士で結婚はできないぞ」
「え、そうなんですか? 僕の生まれ故郷では同性でも問題無いんですが……でもブルーさんにもこちらでの生活がありますしね。わかりました、結婚はおいおい考えるとして、とりあえず僕と交際して貰えないでしょうか」
よくもまあそんなすらすらと言葉が出てくるものだ。怜央の生まれ故郷とやらがどんなものなのか気になったが、おそらく外国の血が混じっているのだろう。名前もそういう感じだし。だがそれが日本以外のどこであろうと今の青には気にならなかった。
それよりも問題は、今の怜央の状態にある。
質問の前に鶴見の用意した薬――嘘の吐けなくなるキャンディを舐めさせた怜央は、真実しか語っていないはずなのだ。
つまり、怜央は青とキスもそれ以上のこともしたいし、できれば結婚したいということで。あの分厚い手紙には何ら嘘がないということだ。
……いや、これが真実だとわかったところで、どうにもできないのでは?
こんな風に好意を向けられることに慣れていない青は、この先どうしたらいいかわからずパニックになるばかりだ。
いったいどうしろと?
鶴見の作戦が書かれた紙をそっと広げる。キャンディで怜央の好意が本物かどうか確かめ……本物だった場合は青が第三の薬を飲む?
第三の薬の効果は何も書かれていない。これが第三の作戦ということらしいが……。
何の薬なのか不安ではあるが、この状況を打破するためなら飲んでみるしかない。そう思った青は、意を決して三つ目の薬を飲み込んだ。
まず、じわじわと腹に熱が集まる。風邪を引いた時の様に背筋がゾクゾクして、でも、何か例えようの無い感覚。
「ブルーさん?」
「……あつい」
あつい。それ以上のことが何も考えられない。ぼんやりと残る意識でこれはあの薬のせいに違いないと考えるけれど、青にはどうにもできない。
足に力が入らずそのまま地面にしゃがみ込む。体のあちこちがムズムズして、触れてもいないのにペニスが硬くなっているのがわかる。
この感覚は猫になった時に似ている。あの時、怜央にしっぽの根元をぐりぐりされて、喉が鳴った。
……触って欲しい。
「ブルーさん、大丈夫ですか?」
心配そうに青の顔を覗き込む怜央。青がそんな熱を抱えているなんて夢にも思っていなさそうな。
「……さわって」
「え」
近くにあった腕を掴んで、縋るように。自分が何を言って、何をしたいのかもよくわからない。
ただ、この熱をどうにかして欲しい。怜央ならそれができるのだと本能が理解していた。
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