【余談】ヒーロー、魔法少女に助けられる

 

 世界征服を目論む悪の組織エタニティ。そして、エタニティを倒すためにフレイムとブルーというヒーローが戦っている。

 ……はずなのだが。






 ブルーはいつも通り鶴見に言われて現場に駆けつけたのだったが、どうもおかしい。たしかに民間人が襲われているようではあったが、敵はアッシュでもなければ戦闘員でもない。銀髪の美しい少年が謎のモンスターのようなものに指示を出している。

 エタニティの新人だろうか。それにしては大物感漂わせているし、あまりエタニティっぽくない。


 ……なんだろう、ジャンル違いと感じるのは。


 モンスターは大ダコで、うねうねと伸ばした触手を使って民間人の青年を一人拘束している。海水などでは無さそうなぬめった何かが青年の体中に浴びせられていて、あれは被りたくないなとヒーローとしてはダメな感想を抱いた。ヒーローである前に一人の人間だ。嫌なものは嫌だ。べとべとしそうだし、気持ち悪すぎる。


「……はなせっ」


 青年は腹に巻き付けられた触手を両手で掴み、自分の体から引き離そうとしている。だが予想通りビクともしない。

 このまま攻撃しては青年が巻き添えになってしまうし、そうなるとまずはタコを引き剥がすしかない。でも、あれに触るのは嫌だな。

 何とか触らずに青年を助けることはできないだろうか。などと考えながら、出ていくタイミングを待っていた。決して、戦いたくないからではなくて。見知らぬ敵のところにただいきなり飛び出していくのも危険だし、ブルーがやられてしまえばここにヒーローはいなくなってしまう。

 ……まあ、ブルーがやられたらフレイムが来るのだろうけど。


「ちょ、だめだって……っ」


 青年が焦っている。何が起きたのかと思えば、腹に巻きついているものとは別のタコの足が青年のシャツを捲り上げる。ぬめったそれが素肌を撫でる感覚は想像しただけでもおぞましい。

 シャツの中に潜り込んだタコ足がどこに触れているのかはブルーから見えないが、どうも腹から上に動いていっているようだ。


 あんなぬめぬめしたものに触られて可哀想に。助けてやりたいが、何かいい方法はないものか。


「……あっ」


 ……『あっ』?


 青年の顔がほんのりと赤くなっている。なんだろう。何か、見てはいけないものを見ているような気持ちになるのは。


 シャツの、おそらく粘液に触れた部分が溶けていく。腹を撫でているのだと思っていた触手が、もっと上まで伸びているのが見えた。

 破れたシャツの隙間から痛々しいほどに充血した赤い突起。


「やっ……んんっ」


 青年の口からはやたら甘い音が漏れる。

 この状況は……どうしたらいいんだろうか。


 それなりにヒーローとして働いてきていたブルーだったが、このような場面に遭遇したことがなかった。だってエタニティにこんなR指定な敵はいなかった。


「やっ……」


 というか、これ、助けるべきなのか?

 たしかに青年は拒絶の言葉を口にしているけれど、それはやたら甘ったるく響く。まるで続きを乞うように。

 いや、でもここで青年を見捨てたらヒーロー失格だろう。


「あっ、んっ……も、そこだめっ」


 どうしようとずっと考え込んでいると青年の格好がどんどん大変なことになっていく。上半身の衣服は粘液で溶けてほとんど残っていない。下半身はまだ触れられていないのか無事だが、別の触手がそちらへ伸びようとしている。


「も、見てないで早く……助けろよ、スドー」


 やばい、何も出来ずに突っ立っているのがバレたのかと血の気が引いたが、呼びかけられた名前にはてと首を傾げる。





「――シャーベット・ブリザード」



 声のした方角から大ダコに向かって、吹雪が吹く。それに触れたタコはダメージを受けているようだが、青年の肌には触れたそばからするりと溶けていく。そうしてすっかりベタベタの粘液を洗い流してしまった。


「遅い!」


 助けられた青年が吠えた先には、セーラー服のようなものをコスプレっぽく着こなした少女がいた。手には魔法少女が持つようなステッキ。

 ……魔法少女?


「ごめん、つい」

「お前はいつもいつも……」

「君たち毎回飽きないよね」


 銀髪の少年、襲われていた青年、魔法少女らしき人物の三人が話している。どうも知り合いのようだが、そうなると本当に青年がピンチだったのか疑問である。


「じゃあね、また」

「もう来るな!」


 少年が煙のように消え、後には青年と魔法少女だけが残される。あとは、それを遠くから見守るブルーか。


 ……まあ、敵は去った。助けたのはブルーではなかったけど、また別のヒーローがいたのだからそれでいい。

 なるほど、ブルーがジャンル違いと感じたのはこのせいだったのか。あの少年は魔法少女の敵だった――魔法少女なんて、本当にいるんだな。


 何はともあれ平和が訪れた。ブルーの出番はこれで終わりだ。


 まあ、今回何もしてないけど。






「あ、間違えて魔法少女の敵を斡旋しちゃった……まあいいか、どうせスドーが行くだろうし」


 鶴見博士が魔法少女の生みの親であることは、今のところスドーくらいしか知らない。


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