第3話
~2回への階段を登り中~
「ひとつ聞いてもいいか?」
「ん?なんだい?」
先頭を歩いていた青年は僕に質問を投げかける。
「貴方はどうしてそんな格好をしているんだ?」
「そんな格好って?」
「その服だ。ダボダボなズボンに見たことの無い鮮やかな刺繍の施されたベスト。それにとても煌びやかな装飾品を身につけているのも気になる」
「そ、そんなに変かい……?」
僕は改めて自分の服装を見直す。
確かに僕は異国の地からやってきたのでここらの服装には詳しくない。しかも50年もろくに塔から外に出ていないのだ。外の者達の服のトレンドなど知る由もない。というか毎朝天女が勝手にこんな感じの服装をさせてくるのでこれが普通なのかとも思っていた。
「まさかとは思っていたが、もしかして貴方は……」
げっ!遂にバレたか!?ついさっき自分の恋心に気づいてしまった矢先にバレて戦闘とかしちゃう!?やめてくれ!今僕の心は凄くピュアピュア乙女なの!傷つきやすいの!好きな人と戦闘なんてできっこないの!
「いや、ボボボボ僕は決してアアア怪しいものじゃ」
焦って汗ダラダラでロボットの様な動きをする僕をまじまじと見つめ、青年は口を開く。
「貴方は異国から来た踊り子なのか?」
「……え?」
「昔、街に似たような煌びやかな服装をした綺麗な女性の踊り子が路銀を稼ぐのにダンスを披露しているのを見たことがある。貴方もそうなのかと」
一瞬、時が止まる。が、すぐさま僕は思考を巡らせ答える。
「……そそそそうなんだよ!僕は踊り子さ!」
「やはりそうか。そんな豪華な衣装を用意できるとなるととても人気の高い踊り子と見えた。なにか1つ踊りを見せてもらいたいところだ。」
「え!?」
やべえええ!僕ダンスなんて踊ったことない!どうすれば!?いや待て、落ち着くんだ僕!毎回意味もわからず見せつけられ続けた天女達の舞を思い出してそれっぽく踊れば……
「ん?話している間に次の階に到着したようだ。踊りはこの塔を出て貴方を安全に送り届けた後にでも拝見させて貰うとしよう」
「そうだよ!そうしよう!ここは何が起きるか分からないからね!」
めちゃくちゃ早口で僕は答える。こんなに沢山話すのは久方ぶりなので自分でもこんなに口が回るとは驚きだ。
あっぶねええええ!よかった!運も味方につけるとは流石だ僕!
「ところであなたの名前をまだ聞いていなかったな。教えて貰っても構わないだろうか?」
「あ、ああ、いいよ。僕の名前はイミr……」
待てよ、ここで僕の名前を明かせばマジでラスボスだとバレるのでは?ここの塔の攻略は難しい事で有名だと天女達から聞いたし、しかもこの強くて完璧で美しい僕の名前を風の噂で聞いている可能性はある。
「イミ…なんだって?」
「イミ……えーと、イミリ……イミリア!イミリアだ!」
「イミリア、とても良い名だ。俺の名前はナーシン。よろしく頼む」
「ナーシン……こちらこそよろしく頼む!」
ナーシン……なんていい響きなんだ……
好きな人の名前と言うだけでこんなに良い言葉がこの世にはあるのかと僕はうっとりしてしまう。きっと今の僕はこの青年の名前が「ゴリラ」だろうが「ゲッパネズミ」だろうが「ブロブフィッシュ」だろうがこの表情を浮かべてしまっていただろう。
「イミリア、ここから先はまたモンスターが現れるかもしれない。俺のそばを離れないようにしてくれ」
「ああ!了解した!」
本名では無いが名前を呼ばれ嬉しくなり僕はわざとらしくナーシンの背中にくっつく。
そういえば第2階層はどういうところだったっけ?
僕は勇敢に進んでいくナーシンについて行きながら思い返していたのだった。
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