第2話
早速僕は1階に到着した。ものの5分くらいで。そんな早くどうやって来たかって?それはもちろん窓から飛び降りて浮遊術でちょちょいのちょいですよ。なにせ僕仙人だから。
さてさて、今回の挑戦者ってどんなやつかなー。僕の今までの経験上で統計を取りつつ予想すると大体この塔に来るやつってのは自信過剰でゴツくて乱暴で横柄で品性の欠けらも無いやつばかりだったからな。僕がその顔を拝むまで殺られるんじゃないぞスーパーエクストラ激弱顔面醜悪異臭解放へっぽこ挑戦者(予想)。
僕は1階の松明のついた薄暗い階層の中を順繰りと見渡す。どうやらもう奥の方まで行ってしまったみたいだ。この先には巨大な両開きの扉があり、そこを開けると第1の試練が待ち構えている大広間がある。とりあえずはそこに向かってみる。
その大広間に向かって歩みを進めるとズシン、ズシン、という微かな地響きが大きくなっていく。
ということはもう既に第1の試練のボスに挑んでいるということか…。この僕に報告が入ってからまだ30分と経っていないというのに、なかなかやるな。
感心しているうちに僕は例の扉の前に到着する。そして扉を少しだけ開ける。堂々と入っても別に問題は無いのだがこっそり挑戦者が苦しんでいる姿を見るのもまた一興と考えたからだ。
ここは1階、試練はレベル1のスライムを切るというもの。レベル1のスライムと言えばモンスターの中で下級も下級。下手すりゃ木の棒でも戦える相手だ。それだけ聞けばこの試練はとてつもなく簡単に聞こえるだろう。だが実際はこの1階で力尽きるものも少なくない。何故ならば……。
扉の向こうを見つめると青いプヨプヨと蠢くものが部屋を覆い尽くしている。
そう!ここは1000匹のスライムが待ち構える部屋!コイツらを倒さなければ次の階には進めない仕組みだ!この圧倒的数の暴力に勝てるかな?
ニヤリと笑みを零しながら僕は挑戦者がどこにいるのか探す。すると奥の方にスライムに囲まれている人影を見つける。後ろを向いているせいで顔は見えないが背丈はあまり大きくない。一見すると頼りなさそうに見える。しかしその人物は大変な重そうな甲冑を着込んでいるにも関わらず、迫り来る大量のスライムを剣で物凄い速さで切り刻んでいる。
なんだコイツは……この僕がやっと目で追える程の素早い剣さばきだ……。こんな人間がまだ居たとは……。一体どんな手練なんだ?早く顔を見せないかな。
驚き半分、ワクワク半分で見ているとあっという間にスライムは残り1匹になってしまっていた。件の人物は大きく件を振り上げる。
『ひぇぇ……!』
スライムは意を決して大ジャンプをかまし、扉の方へ逃走を図ろうとする。いきなりの逃走に驚いたのか挑戦者は一瞬動きが止まる。何とか挑戦者の顔をかすめる形で背後にまわる。が、振り向きざまにあっさりと斬られてしまう。そして遂に顔を僕に見せた。
やった!見え……。
僕は目を見開いた。
こんな素早く正確な斬撃を繰り広げ続けられる者など顔面も相当ゴツいゴリラの熟練オッサンだと思っていた。
だが実際そこに居たのは1人の青年だった。まつ毛は長く、瞳は髪と同じくらいの艶やかな漆黒。色白く若々しいハリのある肌が決して派手では無いその色を際立ててまさに「美青年」という言葉がピッタリな……いや、そんな言葉では片付けられないほど……
う、美しい……!なんと凛とした佇まい!流石に僕ほどでは無いが美しすぎる……!
その姿に目を奪われているとその熱烈な視線が伝わってしまったのか、青年は気配に気づき剣をこちらに向ける。
「誰だ!」
しまった!早くここから立ち去らなければ!
そう思い、1歩下がろうとするが、何故か体に力が入らずに僕は床にへたりこんでしまった。
ど、どうなってるんだ!?身体中が痺れたように動かない!?しかも顔が焼けるように熱い!凄まじい速さで心臓がバクバク動いて……
「出てこい!コソコソと卑怯なモンスターめ!」
扉が勢いよく開かれ、僕はその青年とご対面してしまう。
やばっ……!
「!?」
剣を僕の目の前に向けた青年は僕を見るなり驚いた表情で固まっている。が、すぐに剣を鞘に収める。
「人間だったのか……いきなり剣を向けてしまいすまない」
「あ……いや……」
「そんなところで何をしているんだ?もしかして……」
バレたか……!?ラスボスって……!
僕はゴクリと唾を飲む。
「もしかして……道に迷ったのか?」
「……へ?」
いや、いやいやいや!道に迷って試練の塔に入る馬鹿がどこにいるんだ!少女漫画のドジっ子ヒロインでもそんなことせんわ!でも待てよ?コイツの真剣な顔から見ると本気で言ってるのか……?まあ、モノは試しだ。乗ってみるか。
「そ、そうなんだ。なんだかフラ~っと歩いていたらこんなところまで来てしまってだな……」
「やはりそうなのか」
コイツ、アホだーーー!!
「可哀想に。こんなモンスターだらけの所に迷い込んでしまうだなんて。俺が家まで送り届けてあげよう」
めっっっちゃ親切なアホだーーー!!
「さあ、家に帰ろう」
青年はへたりこんでいる僕に手を差し伸べてくれる。僕は手を取り、起き上がる。
「あ、ありがとう。だがこの塔は確か1度入ったら最上階に行くまで出られないんじゃなかったかな……?」
「そういえばそんな事を試練の塔の門番に言われたな」
ふむ、と青年は顎に手を当て考える。
「ならば共に最上階へ行こう。」
「へ!?一緒に!?」
「それしか道はなさそうだからな。案ずることは無い、どんな敵が襲ってこようとも俺が必ず貴方をお守りする」
「守るって……」
確かに僕は見た目が華奢で可憐でそれにて自他ともに認める程美しくとても戦闘向きには見えないだろうが中身500歳を超える仙人。超能力に呪術に魔術に秘術なんでもござれで多分この青年より全然強いんだがなあ。なんとも複雑な心境……。
いやそもそも家ってここなんだが……。
「いや~、えーと……でも……」
僕が躊躇いを見せると青年はいきなり僕の手を取り、その凛々しい顔を僕の顔に近づける。
「心配しなくていい。俺はこの近くの町の城に使えている騎士だ。まだ見習いだがそこそこ戦えるつもりだ。それに困っている市民を助けるのもまた俺の使命。どうか安心してついてきてくれ」
青年は人の気も知らず、ニコリと控えめに笑ってみせる。だがその笑顔たるや美しすぎて後光が見え始めるレベル。
眩しい……!笑顔が眩しすぎる~~~!
僕はまた顔が沸騰するほどの熱さを帯びていることを感じる。この暑さが手からこの青年に伝わってしまうんじゃないかと心配してしまう程に熱い。
「ついてきてくれるな?」
「は、はいぃぃ…///」
もう拒否する理由など何処にも無かった。
僕はこの騎士見習いに一目惚れしてしまったのだ。
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