共倒れのバラ

齋藤景広

恐怖の恋

 1598年のアメリカ。一匹のトリケラトプスが悠々と草を食べていた。しかし、その背後には天敵のティラノサウルスが迫っていたのだ。ティラノサウルスは吼えた。トリケラトプスは逃げるが、ティラノサウルスはどこまでも追いかける。ついに両者は海の方までやってきてしまった。海には船があり、人間がそこにいた。

「主、豊臣秀吉公の遺言で、お前たちを連れて来いと言われたのだ。一緒に来てくれるか?」

 その人間は両者に魔法をかけた。両者は人語を話した。

「俺が行かなきゃいけないのか?」

「そうだ!その三本角の子も」

「ならば、行ってみよう。こいつといっしょに行けるならな」

「怖いよ!こんな奴とは離れたい」

「お前たちはいかにも強そうだ。お前たちが、日本を救ってくれることを期待している」

 両者はついに船に乗った。ティラノサウルスは海を初めて見たようだ。

「これが海か!俺たちがいた陸よりもずっとでかいんだな」

 トリケラトプスは怯えていた。

「あっち行って!僕は君のことが怖いんだよ」

(ああ、なんて愛しいんだろう。怯えているところを襲って食ってしまいたい。そうすれば、こいつの魂は俺の中でずっと一緒に居れるんだから)


 しばらくして、船は日本に着いた。

「まずは、朝廷に向かおう。貴族が歓迎してくれる」

「この者たちが、最強と名高き生き物か?」

「そうです!鋭い歯がある方がティラノサウルスで、三本の角がある方がトリケラトプスという名前です」

「せっかくゆえ、この子たちには個体名をやろう。その鋭い歯がある方はどういう名前の意味なんじゃ?」

「暴君トカゲという意味だ」

「そうじゃ、恐野康実という名前でどうじゃ!いかにも恐ろしい見た目ゆえ」

「ありがとう」

「三本角の方は、三条信光という名前にする。漢数字の三を入れた」

「僕、頑張るよ!」

「どうか、この日本を救ってくれたまえ!」

 恐野康実と三条信光は、京の街を歩いている。商人たちが二度見する。

「康実くん、僕のことはどう思っているの?」

「え?」

(ここで俺がお前のことを好きだと言ったら何て言うか。振られるに決まってる、俺はお前の天敵なんだから)

「どうも思っていない!ただ恐竜という仲間、それだけだ」

「本当に?」

「本当だ、俺がお前に恋をするわけ...」

「なんか言った?」

「いや何も!あっ、プテラノドンが空を飛んでいる!」

 康実と信光は同時に空を見上げた。プテラノドンは降りてきた。

「待ってたんだよ!俺は羽空成政だ」

「俺はティラノサウルスの恐野康実だ」

「僕はトリケラトプスの三条信光だよ」

「一緒に大阪城へ行こう!」


 歩いていくと、それはそれは立派な城が建っていた。

「あれが大阪城だよ。この国の権力者である人間が亡くなったらしい。城主だったんだけどね」

 アルゼンチノサウルスが大阪城の天守閣を覗き込んでいた。巨竜は康実たちの存在に気づいた。

「新しい仲間か?わしは、アルゼンチノサウルスの大城正家じゃ。80は超えておる」

「俺は、ティラノサウルスの恐野康実」

「僕はトリケラトプスの三条信光」

 正家の後ろから誰かが現れた。

「誰だよ!俺のじいちゃんに手を出す奴は!」

「違う恐竜だから血繋がってるわけないよね?」

「そういう意味じゃねえ!俺が愛してるんだ」

「これ、若造!わしの恋愛相手が勝手なことをしたな。こやつは南原秀俊じゃ」

「秀俊くん、よろしく!」

「こちらこそ!」

「ここ大阪にはたくさんの恐竜が集まっておる。権力者が死んだゆえ、いつ戦になるのかも分からぬ。それを食い止めるために我らがここにいる」

「俺なんかがいたらすぐ戦になりそうだけど」

「そんなことはない!我らがいることで、人間たちに戦をすることを思いとどまらせることができるのだ」

「そうかなあ」

「あと、恐竜と人間、もしくは恐竜同士で男同士恋に落ちることがここではよくある。そなたちもそうではないのか?」

「俺!?いやそんなわけないでしょ!実際、俺はこいつと敵対してるし」

「僕は康実くんのことが怖いんだ」

「わしと秀俊は恋愛関係にあるがな。奴は20歳位だが、わしは先ほども言った通り、 80歳は軽く超えている」

「そうなんだな。ほかの恐竜たちにも会ってみるぜ!」

「ありがとう!」

「気をつけて行けよ」

 康実と信光は、正家の元を離れた。秀俊は、恥ずかしくて正家の巨体の後ろに隠れていた。

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