第25話 過去
薄暗いNDSラボの一室。奈緒美は机の上に広げられた資料を見つめていた。玲奈が失踪事件に関与していることは間違いないが、それだけではない。自分が家族を失ったあの日の出来事が、ここにきて再び甦っていた。彼女は心の奥底でこの件に長い間向き合うことを避けてきたが、今では避けられない事実と直面している。
「奈緒美さん?」玲奈が静かに声をかけた。彼女もまた、失踪事件に関する新たな情報を共有されることに緊張を隠せないでいた。
奈緒美は少し迷いながらも、玲奈に目を向けた。「玲奈、あなたに話しておかなければならないことがあるの。私が家族を失った事件…その背後に、あなたの過去が深く関わっていることが分かったの。」
玲奈の顔に驚きの表情が浮かんだ。「どういうことですか?私と奈緒美さんの家族が…」
「そう、繋がっているのよ。」奈緒美は静かに資料を閉じ、深呼吸をした。「数年前、私の家族が巻き込まれた事故があった。あれは、事故なんかじゃなかった。玲奈、あなたを守るために紗絵子さんが動いた結果、私の家族もその影響を受けてしまったの。」
奈緒美の言葉が響き渡る部屋の中で、時間が止まったかのように沈黙が続いた。玲奈は震える声で、「私が…私のせいで…」と呟きながら、涙を堪えた。
「違うのよ、玲奈。」奈緒美は玲奈の肩に手を置き、強くその目を見つめた。「あなたのせいじゃない。私の家族は、あなたを守るために動いた結果として巻き込まれたんだ。紗絵子さんが玲奈を守ろうとしたように、私の家族も正義感から動いていたの。私たちが今、真実を解明することが、彼らの犠牲を無駄にしないためにも必要なの。」
玲奈は涙を拭いながら、小さく頷いた。「でも…どうして今まで何も知らなかったんでしょう?お母さんはずっと何かを隠していたけれど、それがこんなに大きなことだったなんて…」
「紗絵子さんは、あなたを守るためにできる限りのことをしたの。」奈緒美は、資料の中からペンダントの写真を取り出した。それは、彼女の家族が事故の日に持っていたものと同じ形だった。「これを見て。あなたのお母さんが持っていたこのペンダントが、失踪事件の鍵になっている。そして、私の家族がこのペンダントを見つけたことが、彼らが狙われた理由だった。」
玲奈は写真を見つめ、思い出したように言った。「お母さん、このペンダントを見ていつも悲しそうにしていました。でも、何も言わなかった…」
奈緒美は玲奈の手をしっかりと握りしめ、「紗絵子さんはあなたを守りたかっただけ。だけど、今私たちはその秘密を解き明かすためにここにいるの。あなたが過去と向き合い、未来を切り開くために。」
玲奈は少しずつ落ち着きを取り戻し、「奈緒美さん、私…もう逃げない。お母さんが私に残したものを守るために、そして、奈緒美さんの家族のためにも、真実を追求します。」と強い決意を表明した。
その時、部屋のドアがノックされ、高橋剛が入ってきた。「解析が完了しました。奈緒美さんの家族が残した日記に重要な手掛かりがありました。玲奈さんの出生に関する重大な情報が記されています。」
奈緒美と玲奈は顔を見合わせ、強い絆を感じながら頷き合った。「行きましょう。」奈緒美は決意を胸に、立ち上がった。これから待ち受ける困難な真実に立ち向かうために、二人は再び立ち上がる。
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廃工場に到着した奈緒美と玲奈、高橋剛は、慎重に内部を調査していく。荒れ果てた機械や埃まみれの床が静寂を物語っているが、その奥に隠された真実が眠っていることを三人は知っていた。
奈緒美はペンダントを手に取り、壁に埋め込まれた鍵穴にそれを差し込んだ。すると、ゆっくりと隠し扉が開き、内部には紗絵子が遺した手紙と、奈緒美の家族が残したメッセージが保管されていた。
「ここに全てが隠されていたのね。」奈緒美は手紙を手に取り、震える手でそれを開いた。内容は、玲奈の出生の秘密と、彼女を守るために紗絵子がどれほどの犠牲を払ったかが詳細に記されていた。
「玲奈、これを読んで。」奈緒美は手紙を玲奈に渡し、彼女がゆっくりとその内容を読み始めた。読み進めるうちに、玲奈の目からは次々と涙が溢れ出した。紗絵子の愛情と犠牲が、ここまで深く彼女に注がれていたことに初めて気づいたのだ。
「お母さんがこんなにも私を…」玲奈は声を詰まらせながらも、最後まで手紙を読み終えた。「奈緒美さん、これからどうすれば…?」
「まずは、紗絵子さんが守ろうとした真実を明らかにすることよ。」奈緒美は玲奈を見つめながら、「そして私たちは、この陰謀を暴いて、過去を乗り越える必要がある。玲奈、あなたが望むなら、私は最後まで一緒に戦うわ。」
玲奈は力強く頷き、奈緒美と共にその隠された真実を追求するために再び立ち上がった。廃工場に響く静寂の中、二人の決意が固く結ばれた瞬間だった。奈緒美は家族を失った痛みを乗り越え、玲奈は紗絵子の愛を胸に、新たな未来へと歩み出す覚悟を決めた。
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