偽りのゴーレム ~剣と魔法の世界で場違い無双の戦闘アンドロイドがロングバレルマグナムとレーザーガトリングでナメた奴らを全員ブチのめす~
革酎
聖女暗躍
第1話 起動
再起動。
視覚霊線に通魔、脳幹回路に接続。
聴覚霊線、大気震動波と連動完了。
各構成躯体部、通魔。
全制御部、始動。
薄闇の中で、2メートルを超える巨躯がゆっくりと立ち上がった。
人型ではあるが、その表面は滑らかな金属状の物体に覆われている。
毛髪は無く、眼球も無い。いわば総金属製の動く人形の様なものだ。
『生体被膜、組成。人間態構築開始』
直後、巨漢の体躯は人間と全く同じ外観へと一変した。
瞬間的に黒い頭髪が長く伸び、闇よりも濃い漆黒の瞳が瞼の下に現れた。
『人間態構築完了。ソウルケイジAG13SⅡ型、命令入力』
一切の無駄が削ぎ落とされた筋肉の峰が、全身に浮かび上がる。屈強な肉体と端正な顔立ちを誇るその男は、闇の向こう側まで広がる冷たい床の上を音も無く進み、壁際に並んだ無機質な箱のひとつをこじ開けた。
中には衣類、武器、その他諸々の装備品が入っている。
『経過年数、1207年を計測。分子構造維持収納装置に異常無し』
それから数分後。
男は黒い上下に黒いコート、黒い革靴に身を包み、全身を闇一色に染めた。そして熱弾式の銃火器を持てるだけ装備し、超硬刃が鋭く光る大型ナイフとマチェットを二本ずつ、鞘に納める。
ひと通り装備を終えた時点で、男の脳幹回路にはあらゆるデータ、実行すべき命令の入力が完了していた。
『守護対象、特異星殿。敵性外星体を排除』
それから更に数秒後――それまで全く感情らしい感情の色が見えなかった男の瞳に、ほんの僅かながら意志の光が宿った。
『魂素展開完了。以後、魂素提供者若崎源次郎の人格及び記憶を本命令執行の主幹とする』
全身黒ずくめの歩く凶器と化した巨漢は、視界を人間式裸眼解析から赤外線解析へと切り替えた。
十数メートル向こうに、扉が見える。あそこから出れば、ミッション開始だ。
「これより作戦行動に入る。守護対象は現在、18歳、女性。戸籍名リテリア・ローデルク」
この時初めて、男は声らしい声を喉の奥から絞り出した。
まるで人間味を感じさせない、人工知能の如き硬い声音だった。
◆ ◇ ◆
透き通る様な青い空には、雲ひとつ浮かんでいない。
しかし、エヴェレウス王国のカレアナ聖導会に所属する特級聖癒士リテリア・ローデルクの表情は暗く沈んでいた。
この日彼女は、王都シンフェニアポリス近郊に出現した極大凶獣群と王都守衛騎士団の戦いが苛烈を極め、多くの死傷者が出たことを受けて、胸の奥に突き刺さる様な痛みを感じていた。
城壁外拠点に張られた守衛騎士団の前線基地で、聖癒士として多くの負傷兵の治療に奔走したリテリアだったが、戦いがひと段落つく頃には肉体的にも精神的にも疲労の頂点に達しており、立って歩くこともままならぬ程に足元が覚束ない状態となっていた。
それでもリテリアは、自身のことよりも、命を落とした騎士達のことばかりを考え、その心痛に美貌を曇らせている。
(もっと上手く、出来なかったんだろうか……)
聖癒士はリテリアひとりではない。カレアナ聖導会に所属する多くの聖癒士達が、王都を守る騎士達の為に駆けつけ、皆が必死の形相で凶獣に深手を負わされた者達の治療に当たった。
誰かひとりが頑張ったぐらいで、どうにかなる状況でなかったことは理性では分かっている。
しかしリテリアは、カレアナ聖導会に所属する聖癒士の中ではトップクラスに位置する特級の称号を持ち、その治癒術は頭ひとつ飛び抜けているとも評価されている。
実際、リテリアの治癒力に助けられた騎士の数は、他の聖癒士とは比較にならなかった。
にも関わらず、自分の力でもっと多くの命が救えたのではないかという後悔が先に立った。
血の気が失われ、冷たくなってゆく若い騎士達の姿が脳裏から離れない。特級聖癒士としての力を最大限に発揮すれば、もっと多くのひとびとが命を落とさずに済んだのではないかという悔恨が胸中で渦巻く。
今回現れた凶獣群は、数も種類も明らかに常軌を逸しており、従来の救護活動レベルでは到底どうにもならなかったとすらいわれているが、それでもリテリアは己を責めた。
目の前で死なせてしまった若者達の遺族に、どの様に詫びれば良いのか。
家族の身を案じて不安にさいなまれていた者達に悲報が届けられることを思うと、慰めの言葉すら投げかけられない様な辛さだけがリテリアの心をこれ以上も無いぐらいに重くした。
凶獣群撃退に沸く騎士達の歓声も、今のリテリアにはまるで遠い世界の出来事の様に思えた。
そのリテリアに、ひとりの青年騎士が声をかけてきた。
「特級聖癒士殿……その様に、ご自分を責めないで下さい」
全身血まみれではあるが、しっかりとした足取りでリテリアに近づいてきたその若者は、エヴェレウス王国第二近衛隊所属の二等近衛騎士アルゼン・バルトスだった。
アルゼンの隊はこの日の迎撃戦では特に多くの死傷者が出た部隊のひとつだったが、彼を含めて同隊の騎士達はリテリアに感謝の言葉を口にする者は大勢居たが、彼女への恨み言を口走る者はひとりも居なかった。
「お心遣い、痛み入ります、バルトス様」
リテリアはアルゼンの顔を真正面から見ることが出来なかった。
アルゼンの同僚騎士がリテリアの治癒も虚しく、敢え無く命を落としている。それなのに、どんな顔を向ければ良いのだろうか。
そんなリテリアに対し、アルゼンは覗き込む様にして穏やかに微笑みかけてきた。
「貴女は私の仲間を大勢、救って下さいました。寧ろ御礼をいうのは私共の方です」
だがそんな声も、今のリテリアには右から左だった。
兎に角、少しでも早くこの場を離れたい。
リテリアは軽い会釈だけを返し、それ以降はただ無言で、カレアナ聖導会の臨時詰所へと足を急がせた。
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