閑話「あの日」
2016年3月
僕は現在、明日に行われる異能力学の小テストのために自主勉強中だ
喉乾いたな、ついでに何か食べよ
勉強の途中、少し休憩しようと二回の自室からリビングに向かう
確か昨日買ってきた・・・
「・・・何してるの」
「なにも・・・してないわ。こいつが勝手にはじけただけよ」
そこで目にしたのは昨日買ってきた大袋(5KG)のキャラメルポップコーンが部屋中に散乱した光景だった
何もしてないわけない。だって両手に袋だったものを持っているんだもの
「力入れちゃダメって言ったじゃないか・・・」
「わかってるわよ。ちょっと入れ過ぎただけよ」
華蓮のちょっとはちょっとじゃすまない
せがまれて買ったはいいものの・・・これは片付けるのに苦労するな・・・
油もキャラメルも散乱している。カーペットクリーニング・・・あーあ、ソファまで・・・
「片付け手伝ってあげるから、とりあえず全部拾ってね」
「わ、わかった・・・」
耳と尻尾が下がった犬みたいだ
そそくさと拾い始めた
「どこに入れようか・・・袋は・・・ダメだな」
袋は真っ二つ。入れ物としての機能を失っている
「華蓮、いっその事拾いながら食べて」
「う・・・わ、わかった・・・」
華蓮がこれくらいでお腹を壊すことはない
行儀は悪いし、人様に見せられるような光景じゃないけど今は僕と二人きりだ。我慢してもらおう
入れ物は華蓮の腹の中で決定した
何時間もかかりそうだなこれ・・・掃除機と油取れるものもってこよ
華蓮は映画を見ながら食べようとしていたらしくぶつくさ言いながら次々と入れ物に散乱していたものを入れていく
悲しそうな顔をしているけど機嫌が悪いって感じじゃなさそうだ。むしろ申し訳ない気持ちの方が大きいような気がする
まあでもこんなことで頭を悩ませられるってことも悪くはない
「平穏に過ごせてるって証拠だもんな」
「なんかいった?」
「なんでもない」
華蓮が悪いことをして僕がしかるとき。ふと思い出すことがある
二年前、あの日のこと
あれは華蓮が中学の入学式を休んでから数日たった日だ
夜中の・・・確か零時を過ぎたあたりだったかな
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庭が騒がしくて僕は目を覚ました
こんな時間に騒がしくなるのは大抵、近衛夫妻が出張るような事案が起きたときくらいだ
でも今日は違った。華蓮の声が聞こえる。華蓮の声しか聞こえない
僕のことを呼ぶ声が聞こえた
急いで玄関に向かう。こんな時間に一人で来る何てよっぽどのことがあったに違いない
ドアを開くとそこには異能力を使って夫妻を威嚇している華蓮の姿があった
肩で息をしている。異能力を使った状態の華蓮が息切れしているところを見るのは初めてだ
華蓮は僕を見るや否や、異能力を解いて一直線に胸に飛び込んできた
「ど、どうしたの?」
問いかけに答えることはなかった
体は震え、大量の涙と共に大声で泣き叫んでいる。それが答えと言わんばかりに
僕は抱きしめて頭を撫でてやることしかできなかった
「いったい何が?」
「わかりません。ただ突然訪ねてきて・・・」
夫妻に聞いてもわからないようだった
だったら、しばらくすれば本家から使いが送られてくるだろう
でも来たのは電話一本だけだった
「明日の朝当主様がいらっしゃるそうです。本家の者たちがことごとく負傷しておられるようで・・・」
ああ、なるほど。相当暴れたんだな、華蓮
・・・そうなるほど華蓮が暴れる理由ってなんだ
僕に知らされていない本家の何かが原因なんだろうけど・・・考えたって仕方ない。今は華蓮を落ち着かせよう
「とりあえず縁側で休ませるよ。家の中だとものが壊れかねない」
「わかりました」
体が冷えないように掛布団だけ持ってきてもらった。あと僕の着替えも。上がべちょべちょだ
縁側に座るころには泣き止んで、体の震えも止まっていた
何があったか聞こうと思ったけど、華蓮には聞けないし、華蓮のそばで教えてもらうわけにはいかない。刺激してい舞う可能性がある
ひとまずそばにいてあげよう。華蓮も僕の事を離さないつもりらしいし
華蓮の顔を見てみると涙と鼻水でぐちょぐちょになっていた
濡れたタオルとティッシュを持ってきてもらって顔を拭いてあげる
目は腫れてるけど奇麗になった
安心したのか眠そうにしている。まだ一時だもんな
我慢できなくなったのか僕の膝に頭を乗せた。それでも僕の手は離さない
「大丈夫だよ。いなくなったりしないから、ゆっくりしな」
頭を撫でてやるとすぐに寝息を立て始めた。疲れてたんだろうな
・・・まだ十二の少女に何をしたんだ。何を話せばこんなことになるんだ
気になるけど朝まで華蓮の枕でいてあげよう
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翌朝九時、東方家当主吉宗、僕の祖父が本家の人間数人と華蓮の両親を連れて近衛家に来た
爺さんが門をくぐった瞬間華蓮は目を覚まし僕の後ろに隠れた
「華蓮、こっちに来なさい」
父親が語り掛けるも返事はない。僕の腕をつかんだままだ
彼らはいたたまれない様子だがぐっとこらえて門の外に出て行った。これ以上は刺激になると判断したんだろう
親にまでこの反応だ。元の仲がどういったものなのか知らないけどこれはあまりにも距離を感じる
こんな華蓮は今まで見たことがない。対処のしようがないし・・・どうしたものか
「貴樹・・・」
爺さんは困り果てた様子で僕を見ている
爺さんの元へ・・・いやダメだ
今僕がそんなことをしてしまったら華蓮の見方が誰もいなくなってしまう
それだけは絶対にできない。血はつながっていなくとも華蓮は妹同然の存在なんだ
いかに当主と言えどおいそれと渡すわけにはいかない。異能力を使ってでも守ってやらないと
「・・・いい加減にしなさいよ」
隣にいた早苗姉さんの指に電流が走った
まずい。それだけはだめだ。そんなことしたら華蓮を刺激してしまう
暴走なんてしたらただじゃすまない
「早苗!やめなさい!」
爺さんが制するも姉さんは止まらなかった。紫の電撃が僕に向かって走る
僕ごと華蓮を気絶させようって魂胆だ
っつ、姉さんが使う前に止めれていたら・・・
その時華蓮が僕の前に出て、姉さんの攻撃を身体一つで受け止めた
「華蓮!?」
直撃したにも関わらず、持った異能力おかげか華蓮には傷ひとつつかず代わりに服が一部すすれている
しかしこの刺激だ、これは暴走・・・・
しなかった
華蓮は僕の前に大の字で立っている。僕を守るように・・・
もう一度撃ち込まれた電流にも華蓮は耐えた。暴走もしない
でも目に涙が溜まっている
「姉さん!これ以上は!」
「っ・・・」
手は下ろされ電撃はやんだ
その時、近衛の門が開き外で待機していたであろう者たちが一斉に乗り込んできた
異能力からくる轟音。いや、近衛は防音の結界が張られているから地面が揺れたからだろう
全員の目線が華蓮に向かいそれらは殺気立っている
華蓮は腕を下げた。でも、諦めたといった感じは一切しない
怒っている。僕はそう感じた
直後華蓮の華蓮は浮き上がり、異能力を行使した時特有の姿に変化していった
耳のような髪が流れ、背には翼が腰には尾が生える
華蓮が暴走した時に何度も見た光景だ
でも今回は少し違った。薄いオレンジに発光しているはずの体が華蓮のきれいな赤髪と同じ色に輝いている
暴走・・・ではない。いつもならここで地面が割れ、暴風が吹き荒れる
ただそこに浮かんでいる。それだけだった
奇麗だ。
ただその一言しか思い浮かばない
見惚れてしまったけどそんなことしている場合じゃない
周りの大人たちを止めないと・・・
僕が目を向けた先には立っている人が爺さんしかいなかった
他はみな膝をついて頭を押さえている人、倒れて気を失っている人も泡を吹いている人もいる
誰もが怯えていた
爺さんは俯きなにか考えている
「・・・華蓮。私たちはひとまず帰るよ。もう攻撃をしたりしない、だから抑えてくれないか?」
もう戦う意思はないといった感じだ
華蓮はなぜか僕をみた。意見を認めているような、そんな気がした
「大丈夫だよ。少し落ちつこっか」
華蓮は異能力を解き、また僕の後ろに隠れた
「貴樹。ひとまず華蓮を頼んでもいいかい?」
「わかっ・・・りました。それでいいかな、父さん」
今ここには秘密を知らない西方の人たちもいる。本家には敬語、近衛夫妻は僕の親だ
「わかった。ご当主さま、華蓮さまはこちらで」
「助かる。すぐに帰る・・・と言いたいところだけど伸びている連中が起きるまで時間がかかりそうだ。中でゆっくりしてくれ」
一礼して僕と華蓮は家に入った
「大丈夫?」
「ん」
また僕の腕をつかんで離さない。結構動きづらいんだけどこれ
「服ボロボロだね。着替え・・・ようにも服が、僕のでもいい?」
「ん」
「汚れちゃったしお風呂入ってきな」
「・・・」
腕をつかむ手が強くなった。どうしたもんか・・・このままだと家が汚れるし・・・
「お風呂の前で待ってて上げるから、体奇麗にしよう」
「・・・どこにも行かない?」
「いかないよ」
「ん」
ひとまずお風呂に入ってくれるようだ
これは大変かもしれない
それから華蓮は僕の部屋に服を取りに行く間も、お風呂から上がったそのあとも僕の腕を離すことはなかった
昼も過ぎたころ、大人たちの撤収が済んだようで隆美さんが中に帰ってきた。利明さんは本家へ同行していったそうだ
「沙汰が出るまでここに滞在するようにとのことです」
「そうですか。ご苦労様です」
いつになることやら・・・それまでこんな感じ、というわけではなさそうだけど
隆美さんは昼食を作りにキッチンにいった。
「そろそろ離れない?」
「・・・」
離れるどころかきつくなった。いたい
今日一日はこのままいてあげよう。できるだけ安心させてあげないとだし
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その後、一週間経ち本家より沙汰が出た
僕が監視役をし、華蓮を一年間近衛にて匿うことが決定した
なぜなのか。それは僕には知らされていない
多分知らないほうが華蓮は平穏に暮らせる、そう思うことにした
・・・貴央兄さんがいたならこの一連の出来事は起きなかっただろう
起きたとしても兄さんならすぐに解決したはずだ
けど兄さんはもういない
華蓮にとっては僕だけがよりどころだったんだ
頼ってくれるならこたえよう
胸を貸して欲しいと言われれば貸そう
華蓮が悲しまないようなそんな環境を作ってあげることにしよう
そう思った
・・・・
・・・・
だけどなあ
「終わった・・・」
「意外と楽勝だったわね」
あんたは食べただけでしょうが
ポップコーンはすべて食べきった。華蓮の鼻があれば隙間に落ちたものも見つかる
さすがにそんなところに落ちたものはしっかりゴミ袋いきだ
べとべとだった床も奇麗になった
ソファもなんとかなった。華蓮がソファに着く前にぶちまけたせいでそこまで被害はなかったんだ
カーペットは・・・うん、クリーニング行き。さすがに助けられなかった。無理だよあんなの
本当に疲れた。もうせがまれても買ってやるものか
時計を見ればもう十九時だ・・・まずい
「お腹すいたわね。夕ご飯なに?」
・・・あんたたった今五キロのポップコーン食べたよね?しかもカロリー高めのキャラメル味
「はあ、今日はお肉焼くだけにしよう。縁側にプレート出しておいて」
「焼肉ね!任せなさい!」
ものすごいスピードで物置に走って行った
今日も今日とて横暴だ
まあしかし、幸せそうで何より。それを見る僕も不思議と幸せを感じる
今日は僕の分も少し分けてあげよう
あの日を思い出すと、ついつい甘やかしてしまう
それに兄さんのことも思い出す
どこへ行ったのやら。いつかひょっこり戻ってきそうなんだけどなあ
「準備できたわ!早く食べましょう!」
「僕の準備がまだだよ」
「早くしなさい」
りふじん
さ、悩んでても仕方ない。晩御飯を楽しもう
お肉が足りなくなって華蓮が走って買いに行った
・・・貪欲
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