それはとても静かに2
昼休み、いつものように光と一緒に談笑しながら昼食はとろうと思ったけど、職員室から呼び出しがかかり光はパンを口に放り込んで足早にかけていった
光はよく呼びだされている。決まって、まずったかなあという顔をしている
西方先生に呼ばれるときは大体四家がらみで西方に迷惑かけた時だ
僕に色んな情報をくれるのはありがたいが、無理のない程度でお願いしたい
かくして一人になった
このまま自分の席で食べようと思ったけど、頭の中で整理したいこともある
静かな場所で、少し考えながら食べようと教室を出ることにした
この学校には外階段がある。この時期だ、わざわざ寒い中外に出ている人なんていない
頭を冷やしながら考えるにはちょうどいい。そう思い立って外階段に向かった
食堂に行く人は少なくない数いるが廊下もやたらと冷える。そんな中外に出る生徒はほとんどいない
食堂とは真逆の方向に歩きながら少し考える
だけどいくら考えても今朝思ったことにたどり着く
結局僕は一介の高校生でしかないってことだ
それにこの問題は一人で答えを出せるものでもないか
光に聞いてみるか。あいつも小南の人間だ。何か情報を持っているかもしれない
華蓮を守ると決めたもののこの件は自分だけではどうにもできないな
異能力を使えば何が起こっているかなんて簡単にはわかる
だけどそれは現地にいって直接視ないことにはどうにもならない
自分の無力さに打ちひしがれながらあることに気づいた
音が消えた
文字通りなんの音もしない
いや自分の足音は聞こえてる
近くに人がいなくとも、ここは学校だ。多少の喧騒が聞こえてもおかしくない
いや聞こえないのがおかしい
「・・・相当ストレスになってるってことか」
ここまで自律神経が乱れるのは初めてだな
食欲が失せてしまった、教室に戻ろう。お弁当もったいないなぁ
振り向いた時、彼女がいた
僕以外の足音なんて聞こえていなかった
後ろにいる気配なんてなかった
だけどそこに彼女が立っていた
くすんだ金髪
うつろに淀んだ目
まるで日に当たったことのないような真っ白な肌
龍見有栖がそこにいた
もしかしたら考え事に夢中になりすぎてそれ以外の事を全く気にできなかっただけかもしれない
多少、気が動転したがすぐに持ち直した
彼女は多分昨日のことを追求しに来たのだろう
事が事だ。僕に気を使ってみんなに聞かれないようにここまで来てくれたんだ
それか、もしかしたら昨日の意趣返しかもしれない
そう思うと納得がいった。彼女は思ったよりユーモアのある人のみたい
こんなに面白い人なんだ。ちゃんと話せば友達なんてすぐできるだろうに
そうこうしているうちに龍見さんはこちらに近づいてきた
ああ、そうだ。ちゃんと謝ろう
「龍見さん、昨日はほんとにごめん。僕も不思議でさ、意図せず吸い込まれるように龍見さんの後をついっていってしまったんだ」
なぜか告白のようになってしまった
彼女からすれば僕はストーカー男だ。気を害してしまったか
だけど言ったことは本当のこと。何よりも優先して彼女のあとを追ってしまっていたのだ
だって華蓮との約束をほっぽり出したことなんて一度もなかったのだから
怒らせることはよくあるけどそれでもただの一度もなかったのだ
言い訳を頭の中で量産しながら彼女の顔を見た
しかし彼女は何の反応も示さない。眉ひとつ動かさず、まったく笑ってもいなかった
本気で怒っているらしい。本当に申し訳のないことをした
それにそもそも僕の顔を見てくれていない。それだけの事をしたのだ。しょうがない
彼女は僕の目のまえで止まった
そして、僕の手をつかんだ
「えっと、龍見さん?」
僕は困惑しながら掴まれた手を見た。彼女の手は驚くほど冷たかった
僕の手で暖を取るためにつかんだのか。その証拠にもう片方の手も伸ばしてきた
それくらいならお安い御用だ
伸ばしてきた手で僕の制服の裾を肘くらいまでまくり上げ
そのまま、彼女は
僕の腕をかんだ
痛みはなかったがその瞬間目のまえが真っ暗になった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を開ければそこは教室だった
昼休みは終わり、五限の授業も半分ほど終わっている
何が起こったのかわからなかった
だけど、この現象には覚えがある
昨日の夕方だ。ほとんど夜に近かった。人気のない道
月明かりに照らされ黄金のにきらめく彼女の金髪
遠目で見ても真っ赤に光る、血があふれたような灼眼
その彼女に、龍見有栖に見入ってしまったとき
気がついたら家の前。それと同じことがいま起きた
違うのはここにくるまでの記憶がない、あと噛みつかれたこと
それを思い出し制服の裾をまくり腕を見た
そこには彼女の歯型が確かにそこに、噛みつかれた場所に
なかった
ない
さっきは何もなかったと言わんばかりにきれいな肌がそこにあった
もう訳が分からない
僕は考えることを諦め、呆然としながら椅子の背もたれに背を預けた
前の席には彼女が座っている。当たり前だ、もともとそういう席順だ
ただ、彼女の髪は少し輝きを取り戻していた
そしてこっちを振り向いた彼女の目は淀んでいなかった
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