星浮海

葉名月 乃夜

プロローグ



 


『ねぇ、知ってる?』



 ある時、「彼女」に言われた言葉が蘇る。



『夜空ってね、生命いのちが漂う大きな部屋なんだって。そこで神様に選ばれた生命が、生き物としての形を持って地球に降りられるんだって』



 然程興味を持たなかった俺は、ただ「へー」と軽く返事をした。すると「彼女」はぷくっと頬を膨らませたのを覚えている。



『それにね、凪いだ海は、星空を鏡みたいに映し出すでしょ?だからね、ときどき出るんだってー』



 まるで怪談話みたいな言い方に、思わず「何が」と訊いてしまうと、「彼女」は待ってましたと言わんばかりにニヤついた顔を見せた。



『決まってるでしょ。幽霊だよ、ゆ・う・れ・い!』




 ありきたりすぎる展開に、俺は逆に呆れのため息をついた。気を悪くしたと勘違いした「彼女」は慌てて言う。



『でもねでもね!幽霊は悪さをするんじゃなくて、会いたい時に空からわざわざ降りてくるんだって!その人のために!』



 ロマンチックじゃない?と言わんばかりの瞳の輝きに、思わず苦笑した。



 じゃあもしどちらかが死んでも、願ったら、会いに来てくれるのか?




 そんな馬鹿げた想像が、現実になるなんて、その頃は思ってもみなかった。

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