おじさん、北海道で四姉妹を拾う
佐藤ゆう
第1話 娘たちからの幸せの贈り物
僕は【 子供ができない 】
12月25日 クリスマスの日に、僕はそれを知った。
――――【絶望】――――。
――――死ぬほどに――――。
冬の寒い空の下、雪が降る帰り道を、僕は絶望した顔で歩いていた。
「!」
自宅の前に【4人の小さな子供】がいるのを見つけた。
大きな毛布に4人がくるまり、膝を抱えて震えていた。
できるだけ優しく、彼女たちを怖がらせないように話しかける。
「どうしたんだい君たち? 親御さんは?」
たずねると、4人の中で一番しっかりした雰囲気の子が立ち上がり、震える唇を開く。
「お母さんに すてられたの……。だから、もう 帰る家がないの……」
「……そうか……」
それ以上の言葉が出てこない。
「お母さんが、この家のまえにいろって。だからまってるの。でも、もうこないってしってるの……。お母さんが、私たちをすてるって言っているのを聞いちゃったから……」
「……………」
僕は思う。
『この子たちは、なんて健気なんだ』と。
母親が自分たちを捨てるとわかっているのに、この子たちは何も言わず待ち続けているのだ。
その言葉が『嘘』だと わかっているのに。
もう母親が帰ってこないと わかっているのに。
母親を困らせたくないから、母親を愛しているから、ここで――。
僕の瞳から涙があふれ出る。
4人は立ったまま不思議そうな顔で、僕を見つめていた。
「おじさんは、なんで泣いているの?」
一番しっかりした雰囲気の子がキョトンと聞いてきた。
あふれ出る涙をぬぐい、笑顔で伝える。
「いやね……君たちがただ……優しすぎるからだよぉ……」
4人はさらに不思議そうな顔を浮かべた。
だって彼女たちは、『自分たちを捨てた母親』を いまだに愛しているのだから。
(この子たちは母親を許している、受けいれている……。きっと母親の事を、誰よりも愛しているのだろう。たとえ捨てられても、変わらず愛しているのだ。この子たちは母親を恨んでいない。母親が自分たちを捨てた事情を理解し、その上でここで待ち続けているのだ。ここにいれば、母親が自分たちに与えようとしたモノがあると信じて。その想いに、応えてあげたい……)
立ちつくす4人を、両手で優しく抱きしめた。
4人の瞳が大きく開き、身体をふるふると震わせた。
「おじさんの、家にくるかい?」
4人は黙ったまま、僕の胸の中で呆けていた。
この子たちと出会えたのは《運命》なのだろう。
だって、《子供ができないとわかった日》に、この子たちに『出会えた』のだから。
僕の家は近所でもそこそこ有名な家だ。
絵本作家として僕はまずまず成功している。
家はみずぼらしいが貯金だけはあった。
そういう事だろう。
彼女たちが、僕の家の前にいたのは――。
この子たちの母親は、この子たちを僕に育ててほしいと、この家の前で4人を待たせていたのだろう。
その母親に感謝した。
他の家にではなく、この家を選んでくれた事を。
そしてこんな素晴らしい子供たちと巡り合わせてくれた事を。
だが一方で、酷く憎んでいた。
許せなかったのだ。
自分の子供たちを、こんな冬の寒い空の下で待たせていた事が。
だが許すべきだろう。
この子たちが 許しているのだから。
この子たちは、母親が憎まれる事をよしとしていない。まだ愛し続けているのだ。
だから僕も憎まない。
この子たちを、これ以上悲しませたくないから。
雪の降る北海道の空の下、4人は 僕に黙って抱かれている。
「どうする、おじさんの家にくるかい?」
「それってどういう意味、おじさん」
一番しっかりした雰囲気の子がほうけた顔で聞き返した。
「おじさんの子供にならないかい?」
4人は黙ったまま、まるで了承するかのように僕に強くしがみついた。
それ以上に僕は、4人を強く抱きしめた。
「家族になろう……5人で……」
うん。
こうして僕たちは『家族』になった。
僕はこの子たちが、可哀そうだとか、哀れだとかで、家族になろうと思った訳じゃない。
ただ、一緒に家族になって、幸せを分かち合いたい。
ただ、それだけの想いだった。
幸せも、不幸も、喜びも、悲しみも、すべて一緒に分かち合いたい。
ただ、それだけの想いだった。
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