第2話 配送センターの爆破
夜の帳が降り、デイリーファーストの関東配送センターは、静寂に包まれていた。広大な敷地内には、無数のトラックが整然と並び、薄暗い照明がそれらをぼんやりと照らし出していた。夜勤の作業員たちは、誰もが疲労の色を隠せないまま、機械的に作業を続けている。彼らの顔には、絶え間ない労働と低賃金に対する不満が滲み出ていたが、誰もそれを口に出すことはなかった。
センターの内部は、外の静けさとは対照的に、忙しさに満ち溢れていた。コンベアベルトは休むことなく稼働し、段ボール箱が次々と流れてくる。作業員たちは、無言でバーコードをスキャンしながら、それぞれの持ち場で黙々と働いていた。高く積まれたパレットが不安定に揺れるたびに、誰もが内心で「今度こそ崩れるのではないか」と不安を感じていたが、それでも作業は止められない。
舟渡エレナは、配送センターの2階にある狭いオフィスからその様子を見下ろしていた。黒髪を一つに束ねた彼女は、モニタリングシステムの画面を睨みながら、全体の進行状況を確認していた。30代後半のエレナは、センター長としての責任を強く感じていたが、その裏には、日々の業務に対する絶え間ないプレッシャーがあった。彼女の目は疲れ果てていたが、決してその疲れを他人に見せることはなかった。
「今夜も何事もなく終わってほしい…」エレナは心の中でそう祈った。だが、その祈りとは裏腹に、得体の知れない不安が胸に広がっていくのを感じていた。最近、物流システムに不自然なエラーメッセージが表示されることが増えていたが、技術チームは「特に問題はない」と言うばかりだった。それでも、エレナは何かが間違っているという感覚を拭い去ることができなかった。
ふと、エレナの目に、画面の片隅に表示された一つのログが映った。通常の配送データの中に、見慣れないコードが混じっている。「これ、何だろう…?」彼女はそのコードをクリックし、詳細を確認しようとしたが、画面は突然フリーズし、次の瞬間には再び通常の表示に戻っていた。エレナは首をかしげたが、今はそれ以上追及する時間はなかった。
その瞬間、センターの奥深くで轟音が響き渡った。エレナは一瞬、何が起こったのか理解できず、ただ呆然とモニタリング画面を見つめた。しかし、その直後、再び爆発音が鳴り響き、激しい揺れがセンター全体を襲った。モニターに表示された物流システムのステータスが次々と赤く変わり、警報が鳴り響き始めた。
「爆発…?」エレナは信じられない思いで呟いた。彼女は急いでオフィスを飛び出し、階下の作業員たちの元へ駆けつけた。煙が充満し始めた倉庫内で、作業員たちはパニックに陥っていた。逃げ惑う人々の中には、無我夢中で出口を探す者、倒れた仲間を助け起こそうとする者、そしてただ呆然と立ち尽くす者もいた。
「皆、落ち着いて!冷静に行動して!」エレナは必死に叫びながら、避難を促した。しかし、混乱は拡大するばかりで、彼女の声はかき消されてしまった。倉庫内の一角で火が上がり、黒煙が天井に向かって立ち上る。
「まずい…」エレナは心の中で焦りを感じながら、事態を収束させる方法を探った。だが、その矢先、彼女は目の前で崩れ落ちた棚の下敷きになりかけた。「ここを出ないと…」彼女は自分に言い聞かせ、再び前に進もうとしたが、その時、何かが足元に転がってくるのが見えた。
それは、瓦礫の中に半ば埋もれた段ボール箱だった。箱の上には奇妙なラベルが貼られており、そこには見慣れない文字列が記されていた。エレナはその箱を見て、直感的にこれが爆発の原因であることを悟った。「この箱が…?」彼女は驚愕しながら、その場に立ち尽くした。
だが、考える間もなく、再びセンター全体に激しい揺れが襲いかかり、エレナはバランスを崩して倒れ込んだ。遠くで聞こえるサイレンの音が、徐々に近づいてくる。彼女は、まだこの恐怖が終わりではないことを感じ取りながら、朦朧とする意識の中で必死に目を開け続けた。
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